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第3話 開拓村とは?

前半説明が多いです。

“開拓村”とは名前の通り、未開拓領域を開拓するための拠点となる村だ。


一定範囲の“開拓”すなわち、ある大型魔道具の設置、に成功すればその範囲内に魔物は出現しなくなり、街、あるいは都市として開発されるようになる。


そうして開拓に成功した街、都市には国から多大な恩赦と開拓村の村長、リーダーの名前がその都市の名として刻まれるという最高の名誉が与えられるのだ。


ただし、そうなるまでの開拓村は“開拓”を拒絶する魔物たちと激しい交戦を余儀なくされるため、開拓村は常に戦力を欲しているのだ。


故に、開拓村には一般の都市や街以上に戦力が必要であり冒険者の質も先の都市とは大きく異なる。


魔物達は本能的に、開拓のために設置された大型魔道具:アースクリーンの破壊を狙ってくる。


開拓村はその襲撃から魔道具を守るため、常に襲ってくる魔物との戦いに日々明け暮れているのだ。


こういった理由から開拓村は常に戦力を欲している。なので補給をするのであれば、対価として戦力を提供するのが最も一般的だ。


実際、開拓村の物価は高く、それが効率的であるのは間違いない。


そんな開拓村の一つ、No.48にエドガー一行はたどり着いた。


エドガーは貴族の魔法使い。事業に失敗したとはいえ、家にはまだたくさんの金があるが、事業撤退から数ヶ月、流石に手持ちの金がつきかけていた。


しかし、


「生活の質を落とせってか?」


と言ってエドガーが金の使い方を変えることはなかった。かと言って開拓村で戦力を提供するのは、エドガーにとってあまり心地の良いことではない。


エドガー・ウィンストンは甘やかされて育てられた。ウィンストン家は両親ともその血に恵まれなかった家であったことから、末っ子であるエドガーがその血をもって生まれたことで、彼を何より大切にした。


後継として育てていた長男や次男をほっぽり出し、エドガーの教育に力を注いだ。


ティーゼル、という見目麗しい()()もその教育のご褒美の一つだ。そう、小間使いなど建前に過ぎない。彼女は正しく貴族の奴隷だ。


エドガーの自国でも法律として人身売買は違法だが、そんなものをなんともしないくらいには貴族、という名の持つ力は強い。ましてや彼はその中でも尊ばれる魔法使いだ。


元は良家の子だったのが政争に巻き込まれたのか、奴隷のように売られて各地を転々としていたティーゼルは、文字の読み書きや計算など教育もしっかりされている。


少女は12歳という歳でありながら、既に成人した貴族並みのかそれ以上の知識を持っている。


見目麗しく、教育も行き届いた才知溢れる少女の値段は非常に高かったが、そんなものを買い与えられるくらいにはエドガーは甘やかされていた。


話を戻して、そんな開拓村には当然魔法使いが何人かいる。エドガーが戦うなら当然彼らと比べられることは避けられない。甘やかされて育ったエドガーと開拓村で日々戦う魔法使い、その差は大きい。


魔法使いが一度戦うだけで、平民とは比べものにならないほど報酬が貰えるが、開拓村での仕事を引き受ける度、魔法使いとしての実力の差を見せつけられるようでエドガーは不快だった。


ある時はその腹いせに、ティーゼルに手痛い躾を与えたこともあった。


「ツゥ…!」


見目麗しい少女が苦悶の表情を浮かべるのを眺めるのは、エドガーの歪んだ心を喜ばせたが、それだけで腹の虫が収まるわけではなかった。


結局、貴族としてのプライドと生活の質を天秤に掛けて、エドガーは開拓村の戦闘に参加することになった。


「金があったら行かないんだがなぁ」


そう愚痴りながら、エドガーは護衛の騎士を一人連れて戦闘に赴いた。


残された5人は急な自由時間を言い渡された。


護衛の3人はさっさと宿屋に向かったのだが、なぜかウィルはそちらに向かう様子がない。


「ウィル様、どうかされましたか?宿屋はこちらですよ。」


お目付け役としてウィルを気にかけるティーゼルだったが、


「俺も行こうかと思って。」


少年は今日まで毎日魔物と戦っていたにも関わらず、開拓村の戦いに参加するつもりらしい。


「ウィル様、お休みになられなくていいんですか?」


とティーゼルが訪ねたが。


「そんなに疲れてない。」


とどこ吹くかぜである。確かに考えてみれば、今日までウィルの戦闘のほとんどは弓矢によるものだ。息を切らしている姿を見たこともない。


(…あれだけ数を一人で倒してそれなら、やはり大したものですね。)


本来、小間使いのティーゼルはエドガーに付いて行くべきなのだが、戦闘の際、エドガーは彼女を連れて行かない。


そんなティーゼルは急な余暇を与えられ、暇を持て余していた。


そして彼女はここ数日で、目の前の少年に興味が湧いていた。ウィルは、これまでのティーゼルの人生にはいなかったタイプの人間だ。


その我の強さには、主人であるエドガーに近しいものすら感じるが、少年はただ我が強いだけではない。


少年の言動には、常に少年自身の偽らざる意思が宿っている。それは、誰かの命令に従い、己の意思というものをまるで持たないティーゼルにとって、酷く目新しいものだった。


「でしたら、私もご一緒してよろしいでしょうか?」



荷物持ちとしてということでティーゼルの同行も決まり、ウィルたちは近くの戦力を募っていた騎士に防衛戦の参加を申し出たのだが…


「おいおい、ちょっといい装備身につけただけの子供が参加とかやめてくれねえかぁ〜?お守りする側の身にもなってくれよ?え、戦うのは自分だけ?しかも弓?ギャハハハハハ」


と、馬鹿にされたのだ。例の如くブチ切れたウィルがその騎士をおもいっっっっきり殴り飛ばして、騒動になりかけたのだ。


というかなった。騎士の男を殴り飛ばしてどつくウィル、それを抑えようと慌てて3人の騎士が抑えにかかった。


が、思いの外ウィルが強く、騎士が剣まで抜くところだったのをティーゼルがなんとか仲裁、というかウィルを後ろから羽交締めにして落ち着かせたのだ。


「ウィル様、落ち着いて、落ち着いてください〜〜!」


(この人、手が出るのが速過ぎる!!)


あまりにも綺麗な右ストレートだった。


衆人環視だったのと実力主義な面が強い開拓村であったため、相手の騎士は非を認めたことでなんとか騒動はおさまったが…


「この先大丈夫でしょうか…?」


ティーゼルはこの先のことを思い、若干不安になった。

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