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第35話 あり得ない強襲

「誰か!助けてくれ!街中に急に、急に首無し騎士(デュラハン)が現れたんだ!!!」


ウィルがウィシュタリアに滞在する最後の日、その時間。ウィルはユノ、ダインとウィシュタリアの最後の景色を見ながら歩き回っていた。


ガゼルやカーネルはここから遠くの冒険者ギルドに行っていっておりいない。夜はユノの店で全員でご飯を食べる予定だった。


そんな折、飲食街の近くでそんなことを触れ回る男がいたのだ。


首無し騎士(デュラハン)動く鎧(リビングアーマー):魔核の未処理などの理由で動き出したと想定されている魔法装備の鎧がなった魔物で、兜なしで動き回るその姿とその強さから“首無し”の名前を与えられた魔物だ。


名持ち(ネームド)”である以上、非常に危険だ。


「飲食街に?何で?!」


ユノの店もあるところだ。


「ダイン、ユノと避難しろ!」


掛かるウィルの号令。


「了解っす。兄貴、どうか無茶はせず!」


「ウィル、ちゃんと帰って、お別れをしてね!」


ウィルが逃げないのをユノもダインもよく分かっている。だから、止めない。


「おう、当たり前だ。」



現場にて、


「うわぁぁぁああああ!!」


「誰か!誰か助けてくれぇえええー!!!」


現場は混沌に満ちていた。当然だ。“名持ち”の魔物とやり合える戦力など限られている。


首無し騎士(デュラハン)は炎の宿した斧を振り回し、辺りを見境なく破壊していた。


応戦する集まった騎士や冒険者以上に、建物や家屋を破壊していく。


「やめろぉぉおおお!」


建物の持ち主か、中に人がいるのか、決死でそれを防ごうとする冒険者、だが、振り下ろされる一撃をとても止められるようには見えない。


力量が足りない。刹那見えた冒険者の男が感じた死の気配。


だが、


「どけッ!!!」


炎斧が男に振り下ろされる寸前、割り込むウィル。


『ガァァァァァァン!!!!!!』


燃え上がる二つの炎は拮抗した。


「“問題児”のウィル!」


最近はすっかり有名になったウィル、それに気付く冒険者たち。


「下がれ!俺は合わせながら戦うなんてできねえぞ!!」


「クソ…分かった。お前ら!上級冒険者が来たぞ!下がれ!!」


「まだ子供じゃねえか!」


「知らないのか?!()()ウィルだぞ!下がれ!」


ウィルの号令を皮切りに一気に首無し騎士(デュラハン)から距離を取る冒険者達。


激しく撃ち合う炎斧と炎剣。


ウィルはとっくに普段は片手で持つ剣を両手で握りしめて振り回している。


何故こんなところに現れたのか?何故家屋の破壊に執着するのか?分からないことだらけだが、分かったこともある。


(あの竜程じゃ、ない…!)


撃ち合って数合だが、それは確信できる。爆ぜる剣を使わなくてもまだ!対抗できている。


と思った瞬間、斧を纏う炎の熱が明らかに増大した。明らかな大技の気配。


首無し騎士(デュラハン)は炎斧を振り翳して、地面に叩きつける。


「ッ!!!!」


それに気付き、その場から飛び退くウィル。


『カッ!!!!!』


直後起きる大火炎。地面に叩きつけられた炎斧を中心に、辺り一面を火の海に変えた。


(危なかったッ!)


炎斧の範囲に入れば、“上級冒険者”たるウィルとて無事では済んでいなかった。だが、その一撃で炎斧は熱を纏っていない。


(連発はできない)


1発限りだったのか、はたまた再充填(リチャージ)中なのか、その答えはすぐに出た。


再び炎を纏い、だんだんと纏う熱量を増していく炎斧。だが、先ほどウィルと撃ち合っていた時には程遠い。


(今!)


「オラァ!!!」


振り下ろした斧を構え直す前に、首無し騎士(デュラハン)に肉薄するウィル。


炎剣は既に臨界状態、炎の刃を伸ばし、火力、射程、共に最大まで伸びている。


鎧に直撃、しかし、


『ズゴガァァァァァァン!!』


「かっっっってぇ!!!」


首無し騎士(デュラハン)はその鎧を僅かに凹ませ、よろめいたが、それだけだ。直後、再び下から斜め上に振り抜かれる炎斧。


相手の硬さに手を震わせながらも何とか受け止めるウィル。


(さっきより、軽い…!)


続け様に撃ち合うこと3合。


(だんだんと、威力が上がっていく…!)


先ほどと異なりまだウィルが片手でも容易く撃ち合える程度の威力、やはり時間経過で火力を上げていくと見える。


「なら、今は攻めどき!!」


ウィルは両手で剣を持ち、果敢に攻める。鈍重な斧は軌道が読みやすく、対応しやすい。


今も力を思いっきり込め、振り下ろされる炎斧の一撃を斧根元の方に剣を滑り込ませて、力いっぱい払いのける!


『ズシャァン!!』


斧を払い除けられ体制を崩した首無し騎士(デュラハン)の腹元に、今度こそ強力な一撃を叩き込む。


が…


「時間が、かかりそうだな。」


腹部の鎧はさらに硬く、ほんの僅かな凹みしかできない。


そうやって何度か撃ち合ううちに、段々とウィルの攻める余裕がなくなっていく。


そして、再び炎斧の纏う熱が臨界状態に達する。


「クソッ!!!」


防げる自信がなく、飛び退くウィル。


立ち上る大火炎、焼きつくされる一帯の家屋。


幸いその建物の避難は完了していたが…


(ユノの店が、近い…!)


攻めの手を緩めれば、首無し騎士(デュラハン)は大きく移動してしまう。ウィルという難敵を前にしても定期的に放たれるであろう大火炎は、周りの建物を損壊させてしまう。


店の中には誰もいないとはいえ、攻めの手を緩めて下手に移動されればユノの店にまで手が及ぶかも知れない。


「俺一人でも、仕留める気で…!」


明らかに硬い魔物だが、ウィル一人でも勝ちうる相手だ。


ウィルは下唇を噛み締め、眼光をギラつかせながら体制を低くし、首無し騎士(デュラハン)を睨みつける。


長期戦が始まった。


ウィルは定期的に放たれる炎斧の大火炎を避け、その後明らかに馬力を落とす首無し騎士(デュラハン)を果敢に攻める。


だんだんと火力を増していく首無し騎士(デュラハン)相手を、同じ場所に縫い付けるために攻めの手を緩めないウィル。


首無し騎士(デュラハン)の鎧はだんだんと傷が増え、ウィルが優勢にも見えるが、何か一つ間違えてウィルが一撃貰えばそれで死に得る。


気の抜けない緊張感のある戦いだ。しかも、


(あと、10分ッ!!)


ウィルには制限時間(リミット)がある。ウィルの正確な体内時計は、すでに高機動の戦闘開始から50分が経過したことを告げている。


1時間を過ぎればそこからはいつ発作が起きてもおかしくはない。


戦線から下がらなければ、撃ち合いの最中動けなくなり、死の危険がある。


下がれる内に下がらなければ…、本来ウィルが自身に許した戦闘時間は30分だ。


しかし、ここは都市の中、街の中だ。ここでウィルが引けば、戦えぬ者が弱い者が死んでしまう。ウィルに暖かさをくれた、あの赤い少女の(努力)だって!!


「引けないッ!!!」


ウィルは引けない。己のプライドに賭けて。人から尊敬と羨望を集めたいという自身の願い、そして、誇りに賭けて!!


「ハアッ、ハアッ、ハアッ!」


1時間経過、


発作はまだ早くとも、全力の戦闘から息切れもしてきた。それでも一歩も引かず、撃ち合いを続ける。


(援軍は、まだだろうか…)


ウィルが知るはずもないが、都市内部に突然現れた“名持ち”に対応するシステムなどなく、都市はまだ正確に首無し騎士(デュラハン)の位置と存在を認知できていない。


声をあげて駆け回る人の情報は錯綜し、援護が遅れているのだ。


だが、


(ッ!!今何を考えた?!援軍?!舐めんなよッ!!)


ウィルは援護を一瞬期待した自身の甘さ(弱さ)を、怒りで上書きする。


居ないものはいないのだ。今、自分でやるしか、ないのだ。


「動けなくなる前にッ!」


剣を地に付け、火炎を地面側に集中させる。爆発の反動を活かしたウィル最大の一撃、それを動けなくなる前に叩き込む。


反動と発作で一歩も動けなくなる可能性を理解しながらも炎を高めて…、


「どけ、冒険者。」


ふと、そんな不遜な声が響いた。


『バチッ!!』


直後、大気を引き裂きウィルの真横を突っ切る豪雷。


ローブを着た金髪の男の杖から発せられた雷は、首無し騎士(デュラハン)に着弾し、


『ドンッッッ!!』


轟音を鳴らして、首無し騎士(デュラハン)を吹き飛ばした。


「魔法使い様だ!!」


「魔法使い様〜!」


貴族の魔法使いらしいローブを着て、金髪をたなびかせ、宝飾をあしらった杖を振るその姿は誰が見ても魔法使い。


だが、ウィルはその顔に見覚えがあった。ティーゼルより少し暗い青の瞳、貴族らしい金髪、整った顔立ち。


「エドガー…様?」


それは、ウィルの雇い主のエドガーだった。


「聞こえなかったのか冒険者?下がれ。」


不遜な態度を崩さず命令するエドガー。


悔しいが貴族の命令だ。首無し騎士(デュラハン)はまだ倒れたわけではない。渋々飛び退いて下がるウィル。


ガラッと音を立てて雷に飛ばされた首無し騎士(デュラハン)は、瓦礫をどかして起き上がる。


鎧のあちこちが焦げている。エドガーはその前にズカズカと近づく。


「あ、危ない!」


強い熱を帯びた炎斧を振り上げる姿から、危険を伝える声が響く。


「カッ!!!!」


直後起きる大火炎。しかし、


「まあ、こんなもんか。」


その中で悠々とエドガーは佇んでいた。魔法使い特有の魔力障壁(エドガーの場合は黄色)の半透明な障壁は、傷一つ付かずに炎海の中で光っていた。


「じゃあ、死にな。」


そして放たれる雷の矢。展開された数は約10個ほど。


『ドドドドドドドドドド!!!!』


1発1発が首無し騎士(デュラハン)の鎧をゴリゴリと削っていく。


「ほお、これを耐えるのか。硬いんだな。」


そういったエドガーの手元には輝く雷の鞭が。


「フンッ!!」


それをエドガーが勢いよく振ると


『ズシャァァァァァァァン!!!』


大きな音を立てて、ボロボロだった首無し騎士(デュラハン)は上と下に両断された。


『ジジジジジ』


直後、エネルギーを溜め込み過ぎていたのか爆発する。そうしてウィルを散々苦しめた首無し騎士(デュラハン)は死んだ。


「「さ、流石は魔法使い様!!!」」


周囲で歓声が上がる。


ウィルも自分の敵を奪われたようで悔しいが認めざるを得ない。あの耐久性も火力もウィルでは届かないだろう。悔しい、が。

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