第34話 ウィシュタリア最後の、穏やかな日々
「ウィル〜!!!」「兄貴ぃいい!!」
かなり時間が経ってウィルが戻ると、未だ凄まじい数の服を持った二人が駆け寄ってきた。
「「これを着てぇぇえええ!!!」」
そういって無限に着せ替え人形にさせられた。
「もう、死ぬ…、勘弁…。」
喘息ではないが、何かこう凄まじい息苦しさを感じさせられた。
ちょっぴり服選びが嫌いになったウィルだった。
「じゃあ、これを私たちのサイズの分、お願いしますね〜。」
結局姉弟では選び切れず、カーネルが選んだ服の中から上一番きやすかったものをウィルが選んだものになった。
「さー、帰るぞー。」
「あ、ガゼルさん。」
「ん?どうした?」
「ありがとうございました。上手く行きました。多分。」
「そりゃか良かった。ん、多分?」
「はい。多分。」
「そ、そうかあ。」
そうしてガゼル一家が家に着くと、入り口の前で一人の馬車が止まっていた。
目立った装飾はないが、かなり丈夫な物だ。と。
「ウィシュタリア様よりお届け物です。中身は見るなどのご命令でした!」
運び手はそういって大きめの黒いケースをウィルの前に置くと、
「…これは?」
「中身は見るなとのご命令でした。では!」
そういうと男は去っていってしまった。家に入り、中身を開け皆で中身を見る。
「これは…!」
竜の素材だろう。とは予想していた。しかし、
「竜の“魔核”…!」
その素材は、竜の中でも最も重要な部位。錬金術の基礎、魔法付与の最。これ一つを欲して駆ける冒険者がどれだけいることか。
「ウィシュタリア様は“宿題”、どう使うかは考えついたか?」
ふと尋ねるガゼル。
「まだ何も分かんねーや。あ、鱗や牙まである。」
返すウィル。
「まあ急ぐことはないさ、ウィシュタリア様はどうも今都市を離れているそうでな。都市では使わないでとのことだったしゆっくり考えるといい。」
「はあ…分かりました。」
渋々受け取るウィルの様子から、ガゼルを経由して半ば無理矢理受け取らせたウィシュタリアの判断はやはり間違っていなかったと確信するガゼル。
「なんか、物が増えたな。」
ウィルは受け取った服、竜の素材なんかを見てそう溢す。ウィルのこれまでの持ち物は装備とポーション、あとはお金くらいしか持っていなかった。
荷物入れ一つに収まるはずだったウィルの私物はいつのまにか、一つでは入り切らなくなっていた。
「もっと大きいの買わないとな。」
ここ3週間でインナーも少し小さくなって来たような気がする。そろそろ変えなければいけないだろう。脱いだインナーは、よく見るとところどころ穴が空いたりしていた。
「出発前の準備、始めるか。」
それを始めるのは少しだけ、少しだけ億劫に感じた。
次の日、
「ウィル〜!」「兄貴ぃぃい〜!」
「「どっちがいいと思う?」っすか?」
お互い好みの荷物入れを持って現れるダインとユノ。
「お前らまたやんのか?!?!」
懲りずに自分の好みを押し付けてくる姉弟。
「「今回は一つに絞ったもん!」っす!」
「はあ、分かったよ。」
そういってウィルは荷物入れを選んだ。
また次の日、
「オレも兄貴に贈り物がしたいっす!」
先日の荷物入れをユノの選んだものを選んだ代わりに、ダインにも何か贈らせて欲しいというので、商業区を歩いていた。
「これは〜、兄貴には似合わないし〜、これは〜」
ブレスレットやチェーン、イヤリングの類で探しているようだ。
(イヤリングは嫌だ。イヤリングは嫌だ。イヤリングは嫌だ。)
「っす!このイヤリングなんてどうっすか?」
「チクショォォォオオオオオ!!!」
「うわっ、どうしたんすか兄貴!」
「唯一のハズレを引きやがってぇええ!」
結局、青いブレスレットになった。ダインはちょっと渋そうだったが。
(この青色、どこか見覚えがあるんだよな…)
「ああ、なるほど。」
またまた次の日、商業区にユノ、ダインと三人で来たウィルはその青の正体に思い当たる。
「あの、どうされました?ウィル様?」
偶然鉢合ったティーゼル、その瞳の色にそっくりなのだ。ふと恥ずかしくなり思わずブレスレットを付けた手を後ろに回す。
ティーゼルは先日までと違って逃げなかったので、彼女は本当に大丈夫なのだろうとウィルは安心した。
「うわ〜、可愛い子、ウィルの知り合い?」
「そ、依頼主の一行の一人なんだ。ユノと違って頼り甲斐があるぞ。」
「何よ〜、わたしだって頼り甲斐のあるお姉さんなんだからね〜!」
「どうかねぇ?」
「むーーー!」
「ウィル様、出発の日は近いですが、ご準備はよろしいですか?」
「ああ、ちょっとだけ物が増えたんだけど積み込み大丈夫かな?」
「はい、馬車のスペースには余裕があったはずなので。近いうちに検問のための手形が送られてくるはずなので、そちらにお送りしますね。」
「おう、ありがとな。」
「いえ、当然ですから。」
「…」
ダインは何か思わし気にウィルとティーゼルの顔を交互に見合わせている。
「どうしたダイン?急に黙っちまって。」
「いや、兄貴も隅に置けねえな〜って思って。」
「んん??」
「流石っす兄貴!」
「なんで褒められたんだ俺?!」
「わたしはエドガー様のお使いがあるので失礼しますね。」
「おう、またな〜!」
「はい!」
別れの時のティーゼルは元気そうだった。
その日の夜のガゼル宅、
「って言うのよ〜酷いわよね〜!」
ユノが昼の件に文句を言っていた。
「はっはっは、ユノはもっとお姉さん力を上げないとな。」
「お父さんまで〜!ふーんだ!」
「ふふふ、そうなりたいなら早く寝ることね。ウィル君もダインも寝ちゃったわよ?早寝早起きができないといいお姉さんにはなれないわよ?」
「子供扱いしないでよね?!」
「おいお前までウィル君みたいなことを言うな、頭が痛くなる。」
「ふーんだ!お父さん嫌い!」
「ぐはぁっ!」
「あらあら」
机に倒れ込むガゼル。笑うカーネル。怒るユノ。
日々は過ぎていく。
「冒険者業は少し休むつもりだったのになぁ。」
愚痴るウィル。
「まあいいじゃない、一回くらい総出で冒険者やるのも。」
「うおおお、兄貴!見ててくださいよぉ!」
「ふふふ、にしても数が多いわね。」
「所詮は数だけだ!いくぞッ!」
唸るガゼル。
“五人”でオークの大量討伐依頼を受けていた。その数約50頭。
ユノは普段冒険者に興味なんかないはずなのに、「ウィルと過ごせる時間も後少しだからね〜」と言ってついて来た。
ウィルがちょっと嬉しかったのは内緒だ。
「「「「うぉぉぉおおおおおおお!!!」」」」
とはいえ本当に数だけだ。ダイン以上に大剣をぶんぶん振り回してオークを仕留めていくユノには驚かされたが、筒がなく任務も終わりを迎えた。
「えーっと、皆さんお疲れ様でした。すみません、あれを安定して仕留められる冒険者チームには限りがありまして…報酬は色をつけてお支払いしますね。」
わざわざガゼル宅に持ち込まれた依頼だったので、報酬は多かった。
楽しい日々はすぐに過ぎ去っていく。
告げられたエドガーたちの出発日から2日前、ティーゼルから検問のための手形が送られて来た。
それは、どうしようもなくユノたちとの別れを告げさせる形ある贈り物だ。
「わたしが、付いていければ良かったんだけどね。」
そんなことをユノが溢す。
「貴族様の護衛依頼だしな。」
「うん、それに、面倒をかけちゃうだらうしね。」
「そんなことはないけどな。」
「兄貴、寂しいっすよ。」
「ああ、そうだな。」
「ウィルも、寂しいんだ。良かった!」
「良いなんてことあるか?」
「あるよ!………うん、あるよ。」
そういうユノは少しだけ目元が赤い気がした。赤い髪がかかってて分かりにくい。
「頑張ってね。うぃる、わたじたちが、いなくても…」
そういってウィルの頭を撫でようとするユノの手をウィルは拒まなかった。
「がんばっでね…」
「ああ」
そうして、穏やかにユノと、ダインと、カーネルと、そしてガゼルとお別れをする、はずだった。
あんな事が起こるまでは。
このウィシュタリアにエドガー一行が辿り着いた時、言った言葉を覚えているだろうか?
ウィシュタリアで、一行はそれぞれ大きな決断をすることになる。
まだ、誰も決断など下していない。まだ、何も終わっていないのだ。




