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第30話 大会開始

「この料理大会ってやっぱ狙い目ね!!」


炊き出しの帰りの日の夜、ユノはご満悦だった。


「全部売れたんだもんな。」


理由は明白、魔物料理の中で明らかにユノの料理の人気は良かった。


30匹分捌けるとは思ってなかったウィルもこれには期待だ。


赤毛の少女は胸高らかに夢への期待を語る。


「絶対優勝して!この都市1番の飲食店になってやるんだから!」


それはきっと、夢物語ではない、ウィルもそう思った。


だが、この魔物料理大会はウィル達が思っているよりまずっと重要なイベントだった。


その日の夜遅く。


「待ちなさい!!!」


ウィルは急に目が覚めた。本来寝付きがいい方なのだが、厨房の方から大きな物音とユノの怒号が響いたのだ。何事かと思い黒剣を手に取ると急ぎ厨房に向かう。


「ユノ、どうした?!」


「泥棒よ泥棒!逃げられたわ!」


「何?!」


見れば窓ガラスに穴が開けられ、厨房が荒らされていた。


「追ってくる。」


ウィルはそういうと外に出て、夜風の寒さに黒剣しか身につけていないことを思い出した。それに、盗人はもうどこに逃げたか分からない。


「チッ!」


厨房に戻るとユノが片付けをしていた。


「すまん、捕まえららなかった。何取られたか分かるか?」


「うーん、なんか色々探してたようにも見えるんだけど、特に減ったものはないのよね。ただお金じゃなくてとにかく厨房を漁ってるのわ…、ひょっとして料理大会がらみなのかしら…?」


「…その辺は大丈夫なのか?」


「レシピは頭の中だし、魔食加工の薬は金庫に保管してるから大丈夫みたいだけど…。」


「そうか…。ダイン!」


「はい!何すか兄貴!!」


「うわぁあああ!!どこから出たのダイン!」


「最近呼び出したら出ることに気付いてな。」


「兄貴のいるところならどこへでも出るっす!」


「どういうことなの?!」


いつの間にか結ばれた強固な兄弟の関係に驚愕するユノ。


「というわけで大会まで交代で店の番をするぞ。夜は俺、ほら、お前は寝てこい。」


「了解っす。」


ということでユノの護衛生活の開始である。


結局騎士の詰め所にも届出は出したが、痕跡が薄く捕まる見込みは薄いそうだ。


「普段はモラルが高いのもあって中々こういうことは起こらないんですがねぇ。一応その辺りの見回りは強化しておきます。」


とは詰め所の騎士の回答だ。


そんな不安要素を残しつつ、料理大会までの日は過ぎていった。


ガゼルにも相談した結果、ちょくちょく見回りに来てくれたのもあってそれ以降不審なことは起こらなかった。


少しばかりの不穏を残しつつ、しかし遂に料理大会の日になった。


「遅刻しちゃうううううう!」


「だから普段から早く起きろって言ってたんだこのアホーーーーーーー!」


ユノは朝の支度に手間取っていた。


「大丈夫だもん!間に合わせて見せるもん!」


ユノは持ったいく調理道具の最終整理が終わらずあたふたしていた。


「俺先に会場入りしてるからな。ダイン!」


「はい兄貴!」


そして唐突に出現するダイン。


「ユノの準備を手伝ってやってくれ!」


「分かりました!」


「ひーーーん、ダインがどんどんウィルの弟になってっちゃうよ〜。」


「お前は口より手を動かせぇぇぇええええ!」



会場にて、


「思ったより規模がデカいなぁ…」


見渡す限り沢山の人、人、人。魔物の討伐戦以外でこんなに人が集まったのをウィルは初めて見たかもしれない。


参加する料亭だけでも100はあるらしい。彼らは上級冒険者や中級冒険者のパーティーと組んで、確実に、迅速に素材を手に入れるのだ。


ウィルは『龍角の角煮亭』と書かれたブースに座り込んでいた。一つ一つのブースが大きな窯と机を配置している立派な造りなのだが…


「ふむ、今年は皆粒揃いのようじゃな…」


「じいさん、誰だよ?」


ウィルは変な爺さんに絡まれていた。隣のブースを使用する爺さんが謎のしたり顔で語ってくるのだ。


ブースに書かれた店舗名は『釜飯堂』、ウィルは敵城視察なんてしていなかったので聞いたこともない。


「ふっふっふ、わしは釜飯のジン、聞いたことくらいあるじゃろ…?」


「…すまん、知らん。」


「ぬぬ、釜飯愛好家なら知る人ぞ知るこのワシを…」


「それ知らなくてもおかしくなくね…?」


明らかに変なジジイである。


「ぬぬぬ…」


「そんなことより他のメンツはどんなとこが強いんだ?」


せっかく色々知ってそうなので聞いてみる。


「そうじゃな、まずは『銀氷亭』のライナスじゃな。」


ジンが指し示す先に構えるのは、銀色の髪と瞳を持ち、透き通るような白い肌をしている。


「氷の魔法の調理器具を使った独特な冷製料理が特徴じゃ。氷の食魔加工を使った水域地帯の魔物の料理を使うそうじゃな。」


「ほーん、他には?」


「次に『暴食王』ゴルムじゃな。なんと一人参加という異色のスタイルじゃが、それを全てやり切るスタミナを持っているらしい。」


ユノもウィルがいなければそうするつもりだったらしい。彼女一人が当日の狩りに調理と使うスタミナが足りたとは思えないが…


何せ先日の予行練習でも彼女はバテていた。


ゴルム、巨大な体躯を持つ豪快な男だ。ジンの説明通り本来二人以上で行うような行事を一人でこなすスタミナも十分あるだろう。


「デカい魔物を倒してその肉を喰らうのが趣味だともっぱらの噂じゃ。味に関しては店を出してるわけじゃなくて今回初公開らしいので注目じゃな。」


「店出してなくても出れるんだ…。」


確かにゴルムのブース名は空欄だ。


「後は『秘境の食卓』のメノウじゃな。たまに公開される“魔物料理”の珍味を扱う店らしい。ただ今回は量も求められるから稀にしか店を出さん奴がどこまでだせるのかは未知数じゃな。」


ブースに立つ彼女は深緑色のローブを身につけ、顔の半分を隠す仮面をつけているため何を考えているのか分かりずらい。


「といって、魔物料理は当たり外れが激しいからなぁ、あまり傾向は読めんのじゃ。試食会での話題性といえばヌシら『龍角の角煮亭』も十分警戒されとるぞ。」


「まあ、優勝をとりに来てるからな。」


「ほっほっほ、優勝はこの『釜飯亭』が頂くぞ…。」


そんなことを語っていた折、


「なんか用か?」


ウィルのいるブースに近づく女の影があった。青い髪の女だった。唇には濃い化粧をし、丈夫そうな生地出てきた白いエプロンを見に纏っている。


「ふふふ、君、この『龍角の角煮亭』に雇われた冒険者さん?」


女は思わしげな笑みと、妖艶な雰囲気を纏っていた。


女が近づくと自然なものとは異なるお香の甘い匂いがした。ウィルは少し苦手だった。


「そうだけど、何?」


エプロンを見に着ける女は間違いなく料理人、なのか?


爪は長く、とても料理をする人間の手とは思えない。


「子供一人の冒険者で参加なんて微笑ましいけど、念には念をと思って、ね。」


どうも女はウィルのことを知らないらしい。最近は、この見た目で冒険者がいれば“問題児のウィルだ”と初めて会う人も気付いてくれたものだが。


子供、と言われて少しムカッときたウィルだがまだバカにされたと決まったわけではないし、ユノのためにも大会前に暴れたくない。


「念って、なんだよ?」


「簡単よ。少年、これで手を打たない?」


そう言って女はウィルに近づくとその手にスッと金袋を握り込ませてきた。かなりの額だ。


「間に合わないくらいゆっくり、ゆっっっくり魔物を狩って頂戴。怪我したふりして棄権しちゃってもいいわ。分かるでしょ?」


その瞬間ウィルの顔がクワッと怒りに満ち、殴り掛かろうとして、この大会が自分だけのものでないことを思い出す。


「ちょっと、こっそり渡すの大変なんだがは早く受け取、」


「帰れ。」


「あら、なんて?」


「か え れ」


そう言って金袋を投げ捨てる。


「ッ?!!ガキ!覚えてなさい!どうせ子供二人でなんて無理に決まってるもの!」


闇取引の現場を見られないよう女は慌てて金袋を回収すると悔しそうに去っていった。


ガキと言われたのはムカついたが、女の悔しそうな顔を見て溜飲を下げた。


しばらくして、


「間に合った〜〜!」


開始2分前、なんとかユノも会場入りした。ダインはガゼルと一緒に観客席だろう。


ユノはハウンド30匹と言っていたが、500食は作らなければ行けないらしい。料理人が複数いるチームがほとんどだが、ユノはその量を一人で作らなければならない。


「じゃあウィル、頼んだわよ。」


ウィルは料理人ではないし、調理は手伝えないがユノは先日の炊き出しでもしっかり作り切ってみせた。その程度の逆境に彼女は屈しない。


ユノはこの2週間程度、ずっと料理と向き合っていた。レシピを昼夜を問わず開発し、たまに厨房でぶっ倒れていた時は心配したものだ。


そんな彼女をウィルが手伝えることはただ一つ!可能な限り早く素材を回収し、彼女の元に送り届ける。


司会と思われる男が台の上に乗り、拡声器を手に語る。


「ご集まりのウィシュタリアの料理人、冒険者の皆々様!本日は第10回ウィシュタリア魔物料理大会にご参加いただき、ありがとうございます!この大会が開拓村の食料問題を解決してくれることを期待しております!」


男が壇上から降りると、今度は派手な魔法による目を楽しませる演出や音楽の熱唱が始まった。


ウィルはそういったものにあまり縁が無かったので、少しばかり目を奪われていた。


しばらくそういった行事が進行していたが、項目が終わると、視界の男が壇上に再び乗り口上を語る。


口上が終わりに近づき、だんだんと参加者たちの目がギラつき、開始が近づいて来たのが分かる。いよいよだ。


「〜それでは、開始ーーーーーーーーーーーー!」

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