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第28話 なんてことのない1日

ガゼル一家の家に泊まった次の日の朝、相変わらず朝が遅いユノ、しかしウィルが出る前に必ず玄関まで這いつくばってくる。


「ウィル〜、いってらっしゃ〜い〜。」


「そのままそこで寝るなよ?風邪引くぞ?ハァ、行ってきます。」


彼女を置いてウィルは一人、先に外に出ていた。目指すは都市の工区、先日装備をかなり壊してしまったのでその修理だ。


上級冒険者の魔法装備は壊してしまっては大事のように思えるが、回収さえできていれば、大抵の場合修理できる。


修理ができなければ、信じられない金額や手間をかけた装備も、研いだり、すり減ったりする度に買い直す必要がある。


装備の性能を引き継いで新しい装備を作るノウハウは存在するのだ。


「やっぱ鎧一つなしで歩き回るのは落ち着かねえなぁ。」


今のウィルの格好は、いつもの黒剣以外、ガゼルの家から借りたダインの私服だ。灰色の服などウィルは持っていなかったが思いの外馴染む。


手には普段身につけている装備の数々、それらを専門の人間に修理に出すのか、と思いきや。


「鍛冶場を借りたい〜?」


ウィルのような子供にそんなことを言われて不思議そうな顔をするある店の親方だが、


『ズシャン!!』


あまり数えていないウィルの金貨一杯の袋を机に置くと、


「フヘヘヘヘヘヘ、これで賭け事の代金が…」


と気持ち悪い笑みを浮かべて一瞬で去って行った。


自分の装備くらい自分で手入れできるようにしろ!という“師”に育てられた結果、一部割れたくらいの修理や保全はなんとかウィルにもできる。半ば趣味と言ってもいい。


その日は朝から夕暮れどきになるまで鍛冶場に篭っていた。


そして、鍛冶場から出てきた彼は新調された赤黒い鎧を再び身に纏って外に出てきた。


「弓は1から作るハメになったな…。」


竜の“息吹”に焼かれた弓は原型を保っておらず。一から新調するハメになった。幸いあれは魔法が付与された代物ではなく、ただ強すぎる弦があるだけだ。


そうして半日ほどかけて装備を整え直したウィルはユノの店に戻ることにした。


工区から飲食区に移動する途中のことだ、見覚えのある白い髪をウィルは見た。


「あ、ティーゼルだ。」


ふと少年の顔に心なしが笑みが浮かぶ。この広い都市で貴族街に泊まっている彼女に狙って会うのは中々難しい。


竜の話をするべきだろうか?しかしそれではまた無茶したと怒られるのではないだろうか?そんなことを考えながら彼女を追っていた折、ふと街角で彼女の姿を見失った。


「あれ?」


そんなに早く移動していたようには見えなかったが、見つからない。


「あ、あれか?」


冒険者特有の高い身体能力を生かして高台に乗ると、遠くの方にあの白い髪を捉えた。


「は、速くね?!」


少女は買い出しの途中なのだろう、手には荷物いっぱいの手提げ袋を持っているはずなのに、先ほど見つけた場所から信じられないほど位置が遠い。


「ちょ、ちょっとごめん!」


そう言って、人の合間を縫いながらぴょーんぴょーんと高い身体能力を活かして先ほど見えた位置に来たが、すでに少女はその場にいなかった。


「…あれ?」



ユノの店にて、


「あ、ウィルお帰り〜、装備、もう直ったの?」


「ああ、うん。」


いつものように元気に迎え入れてくれるユノだったが、ウィルの返答には少し力が篭ってないように思える。


「ちょっと、なんで上の空なのよ。なんかあったの?」


「いや、あったというか、むしろ会えなかったというか…」


「んん?」


「まあいいや、それで今日の夕飯は何?」


そう聞くと、ユノは顔を綻ばせて、


「ふふふ、それはね、出来てからのお楽しみよ!!」


その日の夕飯、


「これは、ビーフシチュー?」


出てきたのはパンとこれまでもユノのものを食べたことがあったビーフシチューだった。


「まあ、食べて食べて!」


「はあ…」


とはいえ、ユノは食べて欲しそうだ。大人しく食べるが…


「美味い、美味いけど、なんか凄いのか…?これ?」


味付けが少し変わっているが、まあユノのビーフシチューだ。料理人が作る美味しいビーフシチュー、ウィルでは作れない。


「前のとそんな変わらない?変わらないよね?!」


しかしユノは何故か嬉しそうだ。


「ああ、味付けが違うのは分かるが、どっちが美味しいとか決めれないくらいには美味しい、ユノの上手な料理だな。」


「教えてくれよ、なんでそんな嬉しそうなんだ?」


するとユノはその笑顔を更に深めると、


「も〜やっぱウィルってば鈍いわね〜、こ れ は、ハウンドの肉を使った魔物料理なのよ!!」


「?!これが?魔物料理???」


さしものウィルもそれは驚愕の事実だ。何せこのビーフシチュー、ビーフシチューなので肉が入っているのは当然だが、決して少なくない量だった。それが全てあのハウンドの肉など、信じられない。


「そうよ!ウィルも十分美味しいってことだし!これでやっとメニューも決まったわ!ところで、どうやってこんなに美味しく出来たのか、気になるでしょ?」


やはりユノは調子に乗っている。あまり聞いてやりたくはないが…


「そうだな、気になるよ。」


ユノも頑張ったのだろう、話したいのなら聞いてやるべきだ。そんな思いがウィルに溢れた。


「それはね〜、え、今気になるって言った?!」


「…お前の耳どうなってんだよ。」


「ウィル優しい!頭撫でさせなさい!」


「ええい!やめろぉ!」


大会当日まで後5日というところで、ようやくメニューが決定した。それなりに魔物料理を食べたことがあるウィルもその優勝を確信できる味だった。


次の日、朝練がわりにロープウェイを使い、西の荒地に辿り着いたウィル。必要な30匹を所要時間までに討伐し捉えられればいいのだが…


「30、これで最後だな。」


探し回るのにずっと台車を引くのも嫌だったので、ロープウェイのところまで処理を済ませたハウンドを数匹ずつ倒す度に運んでいた。


走り回ると、制限時間(喘息)に引っかかりあるので歩きだったが、それでもかかった時間は2時間程度だった。


ハウンド程度、発見からウィルに攻撃が届く前に弓だけで全滅させられる。こればっかりは偶然にもウィルと出会い、依頼をしたユノは運が良かったと言わざるを得ない。同じことを出来ない冒険者の方が多い。


「いろんなことがあったなぁ。」


この都市に来てから、色んなことがあった。龍人の少女ユノとの出会い。その一家であるガゼル達との団欒、まだ自分では及ばぬ竜とそれを易々討伐するウィシュタリアという“英雄”との邂逅。


帰り道、ウィシュタリアに来てから今日まであったことを追走していた。そんな折だった。


「誰かが、襲われてる?」


少し遠くから、悲鳴と怒号が聞こえた気がした。ハウンドの死体を投げ捨て、ウィルは走り出した。



「逃げろ!逃げろぉぉおお!!数が多過ぎる!」


少年冒険者、ランドは逃げ回っていた。中級冒険者であるランドは同じく中級冒険者のウィーシェ、ヨーゼフと一緒にパーティーを組んで冒険者をしていた。


彼らは中級冒険者、ハウンドやゴブリンの群れなど個人でも狩れると認定を受けた冒険者達だ。彼らの年齢は16〜17、年の割に優秀と持て囃されるほどには有能だ。


しかし、そんな彼らであってもソルディンサイ(サイのような図体で角の部分が剣のように鋭く頑丈に発達した魔物)は討伐できない。


彼らは調子に乗って危険なエリアに行ったわけでも、何かしら規則に違反したわけでもない。ただの偶発的遭遇(ランダムエンカウント)


それでも一匹相手に中級冒険者が3人がかりで挑むことを推奨される魔物が7匹、逃げるという判断も間違ってはいない。


だが、間違っていなかったとしても問題を解決できるかはまた別だ。


「クソォ!」


1番の力自慢である虎の獣人であるヨーゼフが組みかかってやっと一頭の動きを止められる相手なのだ。試したヨーゼフ他のソルディンサイに突撃をくらい腹部に傷を負っている。


このままでは全滅だ。密かに恋心を寄せているウィーシェ、ここまで一緒にやってきた親友のヨーゼフ、みんな死んでしまう。


自分が一人残る、そんな“正解”を選ぼうとした矢先、正面から超速で迫ってくる“ナニカ”が見えた。人だ。


「そのまま走れ!」


いや、子供だ。まさかあの群れと戦おうとでも言うのだろうか、あまりにも自殺行為、あまりにも絶望的、しかしそれを静止することもできず…


「え…」


自分たちの頭上を高い跳躍力で飛び越した少年は、一閃でソルディンサイの自慢の角の中央から真っ二つに叩き割った。


「「「「グゥウウウウウウ〜!」」」」


それを見て怯えるどころか闘志を膨らませて詰め寄るソルディンサイ達、しかし、


『ズザンッ!!!』『ズザンッ!!!』『ズザン!!!』


少年の振る剣に一切の乱れはなく、流れ作業のように襲い来る魔物を切り裂き、自分達を追い詰めたソルディンの群れはあっという間に倒れ、他に伏した。


「き、君はもしかして“問題児”のウィル?!」


ふと、ヨーゼフが反応した、遅れてランドも気付く。


「まさか君が?!?!」


言われてみれば確かにその通り、この年齢にこの強さ、噂の黒い剣、むしろそれ以外に誰がいると言うのだろうか。


「はいはい、俺が“問題児”のウィルだよ。で、大丈夫?怪我は…してるな。」


剣を背にしまい、自分たちの方を向く少年は噂に違わぬ幼さだった。この広いウィシュタリアには数多くの冒険者がおり、その全てを見たことがあるわけではないが、それにしても…


「ほんと、まだ子供じゃない…」


3人目、ウィーシェはいう。それを聞き、ウィルの目がカッと怒りを灯す。


「子供扱いすんな!アンタらだって大概まだ子供だろ!」


〜〜



「な、なんだったんだ。」


ガキと言われて怒り出し、しかし傷を負ったヨーゼフにはしっかりポーションをぶっかけてからその場を去っていく奇想天外っぷり、まさに問題児。


「とはいえ助けられたのも事実だしなぁ、すげぇよなあ俺らより5つくらい下なのにあんな強くて。」


「最近の噂じゃ魔法使い様達でも尻込みするような竜を相手に時間を稼いだらしいわよ。最後はウィシュタリア様が出てくるまで倒せなかったって言う程の相手を。」


「マジで?!」


「大マジよ。あのウィシュタリア様もその才能を認めてたって話よ。」


「ひゃあ〜時代の英雄に認められるなんて、凄いなぁ…。俺らも、頑張らないとな。」


「そう思うならランド、あんたは身だしなみを正して言葉遣いをちゃんとなさい。そのくらいはあの“問題児”に勝っとかないと立た瀬がないわよ。」


「…へーい。」


「ヨーゼフも。」


「ほーい。」



「はあ、なんで助けたやつからガキって馬鹿にされんだろ。」


ウィルは少し不満を感じながらも先程捨てたハウンドの死体を抱えて再び帰路についた。

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