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第27話 ある少年の欠点

「あんたが直々に治療を頼むなんて何者かと思ったが、またこのガキとはね。」


白いローブを纏った医療棟の主、メディシアはウィルの治療を終えた後、ウィシュタリアに語る。


メディシアとウィシュタリアは“大敗走”以前からの長い戦友であり、公の場ではともかく、二人の関係は対等だ。


「まさか知っているとは思わなかったぞ。」


「冒険者の中では今や有名人だよ、あのガキは。」


ウィルはあまり重症ではなく、メディシアが少し治療をすると、後は寝ればヨシということでガゼル達が連れて帰った。


その後、ウィシュタリアは古き戦友でもあるメディシアとウィルについて語っていた。


「あの年で上級冒険者で、“名持ち”認定もあり得たハウンドの頭の単独撃破、既にそれだけの実力を持ちながら、お前が卒倒するほどの訓練を繰り返す、か。」


ウィシュタリアは、聞けば聞くほど少年への評価が膨れ上がっていく。


「本当に、次の“英雄”足り得る人材かもしれんな。」


「それは…どうかねえ?」


しかし、メディシアはその意見に少し懐疑的だった。


「なんだ?疑うのか?それに、あの子を診察したなら気付いているだろう?あの子は…」


「気付いているとも。」


「なら何故、」


ウィシュタリアの言葉を遮り、メディシアは言う。


「あの子には、戦闘力以外に致命的な欠点がある。それを改善できない限り必ずどこかで死ぬ。」


「なんだ、その欠点とは?」


ウィシュタリアがその強さを持って世界有数であるならば、メディシアはその医療の技術において世界有数のものを持っている。


そして彼女は、一度の簡単な診察でウィルの“喘息”という持病を見抜いていた。


だが、彼女が指摘するウィルの致命的な欠点はそこではない。


「それはな…」



場所は変わり、少し広めのベットの上にて。


「ううっ…」


ウィルは目を覚ました。自分はウィシュタリアの戦いを見て、竜が討伐されたのを確認して寝てしまったのだった。


「ここは….」


見慣れない天井、見慣れない高そうな布の布団。身に纏っている灰色の寝巻きも自分のものではない。だが、目の前には二つの見慣れた顔があった。


「スゥスゥ…」


可愛らしい寝息を立てる赤髪の少女、二つにまとめた髪の間から見える角がチャームポイントのユノだ。もう一人は母親譲りのアッシュのかかったブランド髪、ダインだ。


二人はウィルの寝るベットにもたれかかって寝入っていた。


近くの窓から見れば、外はもう暗く。深夜ほどに起きてしまったのだろうか。


寝息を立てる二人を起こさないように、ゆっくりと布団から抜けて起き上がる。


「あ、俺の装備…」


ウィルの装備は黒剣だけは近くに立てかかっていた。鎧なんかの外装備はかなり損傷していたはずだ。別のところに置いてあるのだろうか?


「後で修理しないとな。」


二人を部屋に残して部屋を出ると、どうも医療棟なんかではなかったようで、そこは2階だった。隣にはもう一つ部屋があって、広い作りをしている。


開けてみようか悩んだが、下の階段から明かりが漏れている。耳を澄ませば談笑が聞こえるようだ。


下の部屋のリビングで話していたのはガゼルとカーネルだった。


「それで、ユノったらね〜、あら?」


「ん?おお、ウィル君、起きたのか!!」


「あなた、声が大きいわよ。上の子達はまだ寝てるのかしら?」


「ユノとダインならグッスリですよ。ここは…?」


「ここはわたし達一家の家だ。ウィル君。」


いつもように野太い声でガゼルは告げる。


「ああ、なるほど。」


それなら納得が行く。ガゼル達はユノの店に寝泊まりしている訳ではない。毎日ユノを残して帰る家があるのだ。


「なんか思ったより体が軽いんだけど、なんかしました?」


ふと、自身の体の快調の理由を尋ねる。あの魔法使いの背に乗り、極度の緊張感から解放された時、酷い疲労と身体の不調があったはずだった。


今はそれが影も形もない。


「何、君が寝ている間にさる有名なメディシア様が治療をしてくれたんだ。あのウィシュタリア様の口添えでな、あの方に認められるとは大したものだ。」


「とはいえ、当然でしょう。魔法使いでも尻込みするような相手にウィシュタリア様が到着するまで粘って、大した怪我がなかったのが信じられない…。」


「しかしウィル君、あのウィシュタリア様にちゃんと感謝の言葉を言ったのかね?何やらとんでもないことを言ったとも聞いたんだが…」


「まあまあいいじゃないですか、ウィシュタリア様もそんなことを気にする方ではありませんよ。あの方が、どれほどの器を持った御仁なのかはあなたもよくご存知でしょう?」


「いやしかしだなぁ、」


そういえば、ウィルは一人で駆け抜けるつもりだったはずの闘争劇、ガゼルが手伝ってくれたことを思い出した。


「そういえば、ガゼルさん。あの時の子供は、」


するとガゼルはカーネルとの話を中断して


「ああ、あの子も大した傷はなかったはずだ。避難させた後までは知らないが、あれ以降民間人の被害は出ていなかったはずだからきっと無事だ。」


「そうですか、よかった。」


心からの言葉だ、あんな小さな戦えない者が、魔物のせいで命を落とすなどあってはならない。少なくともウィルの前では、そして他にも言うべきことがあった。


「ガゼルさんも、ありがとうござました。あの助けがなかったら、俺もどうなってたか分からないです。けど、」


「けど…?」


純粋なお礼からの突然の逆説詞に戸惑うガゼル。


「けど、あんな事はもうしないで下さい。俺は死んだっていいですけど、ガゼルさんが死んだら、俺はみんなに顔負けできないです。」


ガゼルの緑の瞳を見て、ウィルはそんな事を言ってのけた。


「な、何を言うんだ君は…」


それを聞いてガゼルはその目を限界まで見開いて驚く。


「おかしな事ですか?だってガゼルさんには大切な家族がいるんです。残して死んでいいはずがない。」


「ということは、やはり君の家族は…」


ウィルのあまりにも物悲しい言動に、ガゼルは薄々勘付いていたとある事実を確認する。


「はい。()()()()()()()()。俺が生まれてから育ててくれた人はみーんな。だから、俺は、俺のことは、いいんです。」


ウィルの態度は分かりやすい。目を逸らさず、ガゼルの瞳をしっかり見据えて話す彼は、間違いなく本心を語っている。


本心であろうと、それはとても残酷だが。


「馬鹿を言うな、君はまだ子供なんだ!これだけウチに居ておいて、他人のつもりか?!家族も同然だ。そんなことを、言うな。」 


そう言うガゼルは少し悲しそうだった。自分のことを思って悲しんでくれるのはウィルとしても嬉しかったが、ウィルの意見は変わらない。


「ならガゼルさん、ある魔物との戦いで俺とダインどっちかしか救えないってなったらどうしますか?」


「………そ、そんなこと。」


珍しくガゼルは答えに詰まった。


「ガゼルさん、絶対にダインを、ユノを選んでください。じゃないと、俺はガゼルさんを敬うのをやめちゃいますよ?」


「ウィル君…しかしねぇ、」


「あ〜、ウィル、下にいたのね!ベットに居ないからびっくりしちゃった。」


白熱する議論の中、ガゼルの声は大きくなり上にいたユノを起こしてしまったのだ。眠そうな目を擦りながらユノが階段から降りてきた。


「ん?何かお父さんと話してたの?」


「まあな、けどもう終わったよ。ユノも看病ありがとな。」


「気にしなくていいのよ〜。それより早く寝ましょう。」


「…俺もう寝れないんだが。」


「まあまあ〜」


「あ、ちょ、おい。引っ張るなって、この、人の話を聞けぇぇええええ!!!」



「…どう思う?」


ウィルとユノがいなくなった部屋のリビング、ガゼルは先ほどの件をカーネルに問いかけた。


「あんな幼い子が“上級冒険者”だなんて、まともな過去があったとは思っていなかったけど…、わたしから言えることはないわ…そもそもわたしたちには身を投げ出してまで市民を守る程の高潔さもないわ。」


実際、あの竜を前に、二人は一度撤退を考えた。魔法使いでなければ勝負にならない、と。あの時ガゼルが飛び出したのは、ウィルを守るためだけだ。


結果としてあの子供を助けることになったが、残酷な話、ウィルがいなくなればガゼルはあんな子が助けを求めていても見捨てただろう。


「わたしは、あなたのあの行動を間違っていたとは思わない。そういう無鉄砲さでここまでやってきたのだもの。けど、ウィル君の言うことも間違っていない。あの子は、私たちの子ではないのだから…」


子供の前では決して優雅な表情を崩さないカーネルだが、今は少しその顔を歪めている。


「そうだな、だが心配するなカーネル、オレがいる限り、決してあの子達を一人たりともそんな目に合わせることはしない。」


「ええ、私もそのつまりよ、あなた。」

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