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第24話 迫る死

「竜はどこへ行った!!」


男の名はハインリヒ。御年50にもなる貴族だ。貴族に多い金髪をたなびかせ、緑の宝珠を嵌めた杖を持ち、黒いローブを身に纏っている。


ウィシュタリアに常駐する“魔法使い”の一人である彼は、護衛の騎士すら残して“飛翔”の魔法を使い、一人最初に崩壊したウィシュタリア城壁に辿りついた。


危険度としては魔法使い複数名での対応が安全なのだが、ハインリヒは、貴族としての義務を果たすべく危険と分かっていながら我先にと現場に急行したのだ。


しかし、破壊痕こそあれど竜の姿がいない。どこに行ったのかと尋ねたいが現場は救助活動で手一杯だ。


「郊外に!郊外に行っています!魔法使い様!」


だが、そんなハインリヒに訴える声。声の主はアッシュの掛かった美しいブロンド髪をたなびかせ、特徴的な太い筒(魔道具だろう)を身につけている。


「君は、上級冒険者のカーネル!」


冒険者ガゼルとカーネルの夫婦のコンビはこの都市では有名だ。普段は都市内で子供を育てているが、有事の際は二人組で危険な魔物の討伐にも当たってくれる。二人のことをハインリヒもよく知っている。


「竜は、ウィルく…、子供の冒険者を追いかけて郊外に行きました!夫やわたしでは手伝える相手ではありません…!あの子を、あの子を助けてあげてください!」


「子供???どう言うことか分からんが先行する!その子供も必ず助けてやるからな!」


そういうとハインリヒは再び“飛翔”の魔法を使うと、郊外に向かって飛び立った。


途中、幼い子供を抱えて走るガゼルに出会った。


「それが例の子供の冒険者か…?」


言って自分で違うともハインリヒは感じていた。どう見ても冒険者の風体ではない。大型建物の崩落が何かで負傷しただけの子供だ。


「違います!“魔法使い”様、子供の冒険者はおそらく奥でまだ竜の注意を引いています!どうか助けを!」


「当然だ。勇敢な子供をみすみす死なせるわけにはいかない。」


そしてハイリヒはようやく竜に追いついた。


「これは、凄まじい。」


子供とは聞いていたが、本当に幼い子供一人だった。年のほどは12くらいか?茶色い髪をたなびかせ、身に纏う装備をボロボロにしながら外へ、外へ竜を誘導している。


今も、『カッッッ!』凄まじい速度で放たれる“息吹”をなんとかかわしながら近くの石や木を掴み取って投げつけ、ヘイトを買い続けている。


「少年!そこまでだ!わたしに代わりなさい!」


これ以上守るべき民を、子供を傷つけさせるわけには行かない。貴族として、魔法使いとして。


直後放たれる雷の矢、その数30。『ドガガガガガガガガガガガッ!!!』


普段は一矢一矢で広範囲の魔物を死滅させる矢の雨を一点に集中して狙う。


「グガァァァ!!!!」


「?!効いてる!」


先ほどウィルが振り抜いた炎剣より明らかに高威力、これが“魔法使い”だ。しかし、


「手応えが、薄い!」


ハインリヒとしては想定外、竜であろうと不意を突いて直撃させたのだ。十分狩り切れると思ったのだが…


見れば横っ腹の鱗に確かに傷がついている、しかし、僅かに、だ。


「“名持ち”に匹敵する竜という種族、その中でも危険な個体と見える。楽には終われそうにないな…!」


とはいえ自分は魔法使いだ。この場から逃げるわけには行かない。直後、


『カッッッ!!!』


竜がこちらを向き、その“息吹”を放つ。魔法使いなら誰もが使える“魔法障壁”によって耐える、が


『ビキッ!』


「一撃で障壁魔法にヒビが…!」


その“息吹”の威力を物語っている。障壁魔法は、優秀な魔法の代わりに消費も激しい。一方的に“息吹”を撃たれ続ければ、ハインリヒとて死ぬ。それほどの相手だ。


「少年!逃げなさい!」


だか、その焦燥をおくびにも出さない。仮にこの場で戦って死ぬのなら少年ではなく“魔法使い”である自分であるべきだ。たが…


「あんた一人で勝てる相手じゃない!手伝わせろ!」


少年は引かなかった。荒い息をし、肩を震わせながら、まだ戦うと言ったのけたのだ。空から見えたその黒い瞳には、悲壮以外の強い闘志が宿っていた。


「…いいだろう。」


歴戦の魔法使いであるハインリヒには分かる。言って引く者の目ではない。死よりも大事なものをもつ戦士の目だ。


「俺がこいつの注意をする!魔法で仕留めてくれ!!」


直後地面を爆ぜさせ、突撃するウィル。


これまで距離を保っていた少年の強襲に驚く竜だが、恐れることはない。この少年の攻撃は自分にダメージを与えられない。そう考え竜は上空の“魔法使い”にその息吹を吹きかけようと構えるが…


「グガッ!!」


直後、竜の左腹部に走る痛み!見れば少年の炎剣が叩きつけられていた。しかし、この痛みはどう言うことだ?!


ウィルが狙ったのは先ほどハインリヒが魔法でダメージを与えた横っ腹だ。


鱗には僅かに傷がつき、肉を曝け出している。そこを狙ったのだ。


「グガァァァァアアア!!!!」


癇癪を起こし地面の虫を払おうと爪を振るが、当たらない。再び距離をとって炎剣を構え直すウィル。


「ガァアアア!」


直後竜が再び少年を襲おうとした瞬間、降り注ぐ雷矢。


弱点となった横っ腹を庇うように腕で守るが、それでもダメージは受ける。


「グゥウウウウ…」


何度か厄介な魔法使いを仕留めようと上空に飛び上がるか、“息吹”を放とうと試したが、目の前の少年から目を離すと、傷跡を焼かれる。


(サキニシタノガキヲ、シトメル)


そこで竜の意識が完全にウィルを仕留める方にシフトした。


その空気の違いをウィルは肌で感じ取る。



『カッッッ!』


放たれるブレス、振り下ろさせる強爪!上からの魔法を可能な限り無視し、竜は少年を襲う。


「クソッ!これもダメか!」


一方でハインリヒは焦っていた。想像以上に魔法の効きが悪い。腹部の鱗はたまたま薄かっただけで、背中や足元を狙ってもダメージの通りが悪いのだ。


「このままではあの子が先に…!」


(死んでしまう。)


そこから先は口に出さずに意識を引き上げる。そうさせないためにも一刻も早くあの竜に致命打を与えるのだ。悔しいが少年が注意を引いてくれていなければ、ハイリンヒは既に死に体だった。


上空に飛び上がり、その“息吹”と強爪を持って障壁をすぐに叩き割られ、その牙で食い潰されていただろう。


歴戦の魔法一人でこのザマになるほど危険な魔物なのだ、あの竜は。そして、その竜の本領はまだ発揮されていない。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ!足が、速くなった?!」


だんだんと、だんだんと竜の動きが機敏になっていくのをウィルは感じ取っていた。


()()()()()()()()()()()()()とでも言うように振り返りの動作、挙動が早くなっているのだ。


「クソッ、ざけんな!!!」


対するウィルはまだこの高速戦闘を始めて30分ほどたが、体に負担をかける技の影響もあり、だんだんとそのボルテージが下がっている。


そして、今までなんとか交わしていた接近からの強爪、それが避けられないところまで来ていた。


「ガァッ!!!」


本日二度目となる爆発を伴う炎剣、その一撃で受け止めるが、先ほどに比べてまるで力がこもっていない。


『ドシャ!!!!』


直後、地面に投げ出されるウィルの小さな体。


「ハアッ、ハァッ、ハアッ…」


「少年!!!」


それに気付き、魔法の威力を上るため無理をして竜に急接するハイリンヒ。しかし、


「カッッッ!!」


直後浴びせらる高威力の“息吹”、魔法の威力を上げるために近付くということは、相手の“息吹”の威力も上ると言うことだ。


「ぐぉぉぉおおお!」


至近距離で竜のブレスを食らったハインリヒは、『パリンッ!!』その全魔力を使い果たすことで、なんとか凌いだが、“飛翔”の魔法すら保てなくなり、敢えなく落下した。


「クソッ、少年!」


脅威を落下させた竜は、地面に投げ出された少年にその眼差しを向けた。


「ハア、ハア、ハア…チクショウ。」


ウィルの剣はまだ火を灯している。肉体は強化されたままだ。喘息の発作もまだ出るには早い。だが、今の一撃を受け止めた体が、どうしようもない程、機動性の低下を告げている。


(次は、躱せないだろうな…)


まだ負けるものか!という闘志を滾らせる一方で、冷静にその状況をウィルは理解していた。


回避を諦め、限界の体で本日三度目の爆剣を放つ構えをする。


「グルル…」


それに対して、冷静に距離をとって“息吹”で仕留めようとする竜。仮にこの一撃をなんとか耐えられたとしても、竜の“息吹”はそれで終わりではないだろう。


ここ数ヶ月の中で一番に感じる死の気配に、さしものウィルも走馬灯が浮かぶ。


浮かぶのは、“先生”、“師”、己を幼少の頃、育ててくれた故人たち。そしてウィルにそれ以来の暖かさを与えてくれた、ユノたちの一家の面々、そして普段は幸薄げな顔をしている白い少女、彼女が稀に浮かべる可愛いらしい笑顔だった。


「チクショウ…!」


諦めたわけではない、諦めたわけではないが…!どうしようもないと、冷静なウィルが言い続けていた。しかし、


「よく頑張ったな、勇気ある冒険者よ。」


『ズゴゴゴゴゴ』


竜が“息吹”を放つ直前、突如としてウィルの目の前の土が、大地がせり上がったのだ。ただせり上がっただけではない。尋常ではない程の高密な魔力が込められている。


そして、その壁はいとも容易く散々ウィルたちを苦しめた竜の“息吹”を防いで見せた。


ウィルの冷静な部分の判断は、冷静ではなかったのだ。ウィシュタリアには“上級冒険者”を凌ぐ戦力が常駐している。それは、魔法使いだけではない。


「あ、貴方は…!」


先の墜落が、なんとか徒歩で駆け寄ってきた魔法使いハインリヒがその名を告げた。


「“城塞”のウィシュタリア様!!!!!」


魔法使いですらひれ伏す、この地に座した最強の英雄の名を。


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