表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

第21話 ユノと愉快な家族たち

同い年の弟ができた次の日。ウィルはいつものように朝練をして店に帰っていた。


「おう?なんでぇ?今日はパン買って行くのか?」


昨日の夕食は残っておらず、朝が弱いユノに合わせて朝食は食べれない。


ウィルは少し奮発して高いパンのメニューを“二人分”買うと、急ぎ目でユノの店に帰った。


「むぅ〜。」


この時間になると一応ユノも起きてくるのだが、まだ半覚醒といった具合で、すぐに机に突っ伏してしまった。


「ダインわぁ〜ムニャムニャわたしの弟なんだよぉ〜。」


今も寝言を言っている。


そしてウィルは昨日、ユノの母カーネルが店の去り際に言ったことを思い出す。


「ユノは元気な子だから、一晩ぐっすり寝て美味しいものでも食べたら機嫌を直すわよ。」


そういうってウィンクしてきたカーネルは、要するに“やれ”という事なのだろう。


だからわざわざお気に入りのパン屋で一番高いパンを買って来たのだ。


「おーい、飯だぞ。」


「ムニャムニャ。」


「飯だぞ、食え〜。」


「ムニャニャ…。」


「ハア…」


机から一歩も動かないユノを見て、仕方なくウィルの方から近付いて、口の前にパンを掴んで持っていった。


「スンスンッ、いいにほい…」


『パスッ』聞くだけで美味しそうな音を鳴らしながらユノはパンを噛み締める。


「ムグッムグッムグッ、おいし〜。」


「半分寝てるくせに美味しそうに食うな〜、おい、そろそろ自分で待てよ。」


「ムグッムグッ!」


「ハア…」



「ムグッムグッムグッ…」


「なんか馬に餌やってる気分だな…」


しばらくしてそんなユノにも慣れて来たウィル。彼女は未だ机の下から手を出さず、口だけ動かしている。


(ん?なんか指先が暖かいような…)


暖かい手元を見ると、その指先はパンと共にユノの口の中へ…


「って、お前人の指食ってんじゃねえ!」


慌てて振り払い、たくなるが顔や歯を傷付けてしまいそうで思わず躊躇ったウィル。


「ムニャニャ…何コレ硬い…ガプッ」


「イッテ、噛んでんじゃねえ!いい加減、起きろぉぉぉおおお!!!」


「フエ?!?!?!?!」


 ウィルの絶叫によってやっとユノは起きたのだった。



「結局俺のまで食べやがって…。」


「ん〜ウィル君なんか言った〜?」


「なんでもねえよ…。」


ウィルが席を離れた際に自分の分だと思ったのか、もう一つのウィル用のパンまで食べられてしまった。


正直喧嘩の一つでもしてやろうかと思ったが、ニコニコしているユノの顔を見ると不思議と怒りが収まってしまう。


(狙ってんだとしたら大したもんだ…)


「ハア…」


代わりにユノの機嫌は目に見えて良さそうだ。カーネルの言っていたことは正しかったのだろう。流石は母親だ。


「んで、昨日のことはもういいのか?」


「言っとくけど、私は気にしてなんか居ないんだからね!」


「そうかよ。」


まあ昨日に比べれば落ち着いているので、気にしていない、のか?


(じゃなきゃ俺の朝食食われた意味が分かんねーしな。)


「さぁ、今日もメニュー開発頑張らなくちゃ!」


流石に練習のための材料が切れかけているそうだ。


「まあ、軽く倒してくるよ。」


ついて行きたそうなユノを制止して、ウィルは1人ロープウェイに向かったのだが…


「なんでお前がいるんだよ…」


「アニキ!そんな悲しいこと言わないでくださいよ!」


偶然ユノの店の外で出会ったダイン、偶然にしてはいけないあまりにも待たれていた気がしたし、あまりにも挙動不審たったがそれはもう知らない。


「邪魔はしませんから!ついて行かせて下さい!」


「ハア…」



『バシュッッ!!』


ダインの握る双剣によってハウンドの頭がまた一つ飛び、すかさずウィルがユノにもらった注射を魔心に打ち込む。


「あ、これミスったな。」


「何やってるんですか?」


「何、気にしなくていいぞ。」


とはいえ何度もやれば流石に慣れてくる。5匹分の“肉”を調達するのは簡単だった。


今日に至っては、「アニキ!アニキ!」と付いてくる輩が全員ハウンドの首を切り落としていくのでウィルは正真正銘やることがなかった。


ダインは、ウィルに比べれば弱いが、流石は龍人、決して弱い冒険者などではない。


彼はウィルとほとんど同い年だが、ウィルは自分より年上で、自分たちより弱い冒険者だって十分いることをよく理解している。


当初ダインが戦いだしたとき、ウィルはずっと背の剣をいつでも抜けるよう握りしめていた。


まあそれもダインの戦いぶりを見ればその必要はなかったが。


「お前、ほんとに下級冒険者なのか?」


先日一蹴した時は気づかなかったが、ダインの強さは中級冒険者くらいの実力はあるように思える。


「まあ、自分はよく親父の下で冒険者をしてるんで、評価しづらいんだと思いますよ。」


「ふーん。それでいいのか?」


「よくはないっすけど、今一人でウィシュタリアで安定して稼げる程強くないのないんで。今は金を貯めていずれは家族の力なしで依頼や討伐をこなせるようになって見せるっす!」


「なるほどな。」


実際、金さえあれば冒険者、というのは強くなれるものだ。金があれば高い装備が手に入る。実際、金だけでも上級冒険者の装備くらいは手に入る。魔法の装備、とはそういえ結局は金だ。


もちろんそれだけで上級冒険者を名乗れるほど冒険者ギルドの判定は甘くはないんのだが…


しかし、そこから上はまた別だ。ウィル(上級冒険者)ですら、単独では討伐依頼を受けられない“名持ち”の魔物を倒し、その素材で作られた超一級品の装備があって初めて、魔法使いに並ぶほどの実力者になれるのだ。


余談だが、そう言った装備には必ず施錠(ロック)がかかっており、持ち主以外が持ってもその力を発揮できないようになっている。鍵は所有者の意思そのものであり、それが無くては“正式”に譲渡することは出来なくなる。


この施錠(ロック)はどんな装備にもかけられるがそれなりに費用もかかるため冒険者だと上級冒険者以上の人間は自身の装備に高い金を払って施錠(ロック)をかけている。


閑話休題


自分で素材を得るための討伐とはいえ魔物を狩ればギルドから報酬が出る。ロープウェイの停留所で報告を済ませ、都市に戻る二人。


ダインはその間、荷物も持つし、報告も変わるしで、ウィルを持ち上がる気心は本物らしい。


「兄貴!今度訓練に付き合ってくださいよ!」


店まで台車を引きながらダインは頼む。


「訓練なんて一緒にやってどうすんだ。俺は剣術や体術に長けてるわけじゃ無いぞ。弓でも習う気か?」


「弓、教えてくれるんすか?!」


「…お前は確かにユノの弟だよ。」


熱くなっている時全てが都合のいい聞こえ方しかしないその様は、確かに血を感じる。とはいえ、兄貴と慕ってくるダインを無碍に扱おうとも踏み切れない。姉弟揃ってウィルに我慢を強いるとは対したものだ。


「ウィル君!に…ダイン、お帰り。」


店に戻るとユノが出迎えてくれた。後ろに引き連れたダインを見て引き攣っていたがウィルにはどうすることもできない。


とはいえユノもそれで暴れるわけでは無い。


「二人とも取り敢えず、コレ、食べて見てくれない?」


そう言って出されたのは赤黒いステーキだった。


「開発したメニューの一つか…いいぞ。ウ…」


「姉貴の開発中のメニューって当たりが少ないんだよな。ウグ…」


「何よ、二人してビミョーな反応して、オグェエ…」


食べた途端あまりの味に絶句する3人。


「お前が一番酷い反応してるじゃん…」


「こ、こんなハズは。ハウンドの肉特有の筋っぽさを玉ねぎと調味料で調和して美味しくするハズだったのに…」


「調和どころか甘いのと苦いのがWパンチで頬を殴ってくるんだが…」


「く…これはダメね。」


「「当たり前だろ!」」


気付けばウィルはユノの一家に段々と紛れていた。



ある日のハウンド狩りのハズの日は、


「ガゼルさんも来るんすか?ハウンドの狩りですよ?」


「まあいいじゃ無いかウィル君、それに君たちが行く西の荒地近くにガンロック(鉱石の魔物)の討伐依頼が出てるんだ。4人で行こうじゃないか。」


「…カーネルさんまで?」


「当然だ。彼女は私と同じ上級冒険者だからね。」


「ふふふ、これでもわたし、強いのよ?」


「上級冒険者3人なんてだいぶ贅沢じゃ無いっすか?」


「そうとも、ダインにもいい経験になるしな。」


「兄貴の邪魔にならないよう頑張ります!」


「はあ…」



「アニキーーー、オークが沢山追って来るっす〜!」


「お前の脚力ならまだ逃げるっ信じてる。」


「と、当然っすけど早くガンロック倒して手伝ってくださーーーい!」


中級冒険者格の魔物のオーク(複数)に追い回されるダイン。一応たまに反撃して数を減らしている当たり、優秀なのは間違いない。


「ダイン〜もう少し待ってろよ〜!」


ガンロックと打ち合いながら、あまり緊張感のないガゼルの間伸びした声が響く。


「一匹ずつ減らしていくからね〜。」


余裕そうに魔弾を放ってオークを一匹ずつ減らしていくカーネル。


「硬くてめんどくせえなコイツ!」


ガゼルとウィルで、二人の5倍の高さはある鉱物の集合体であるガンロックをボコボコ殴り飛ばしているのだが、思いの外硬く、イマイチ殺しきれない。


「ああ、もういい!ガゼルさんちょっと離れてて!」


そして炎を纏うウィルの黒剣。


「さっさとくたばれぇぇえええ!」


轟く怒号、炸裂する炎の一閃。


『ズドォォオオン』


ガンロックは中央から真っ二つになり、上半身が地面に沈み込んだ。


「ほお、それが、大した物だな。」


「あらあら。」


「さ、さすが兄貴っす!と言うわけでお袋以外にも手を貸して欲しいっす〜!」


「おいダイン、あと一匹くらいオーク狩れ、お前ならできるはずだ。」


助けを求めるダインに父から飛ぶ厳しい指令。


「いや流石に無理ぃぃぃ!まさかまだ姉貴の店出禁にされてること根に持ってる?!」


「Hahaha、そんなワケないだろう(笑)」


「お袋!アニキ!助けてぇぇぇええええ!」


「あらあら」


「はあ、オークの頭硬くて面倒なんだよな。」


そういいながらも弓を構えるウィル。


『バヒュッ!』



またある日は外でガゼルにすがられて、


「頼む!ユノに謝りに行くのに付き合ってくれぇぇえええ!」


愛娘に逢えない寂しさに耐えられなかったガゼルがウィルに頼み込んできた。


「敬うべき年長者の姿か…コレが…」


ウィルの中のガゼルの評価が1段階下がる代わりになんとかウィルの付き添いのもとガゼルはユノに許して貰い。


またある日は、


「んがぁあああ、ハウンドの肉ってどうしてこんな筋っぽいのぉぉおおお!」


メニュー開発にうまくいかないとユノが暴れ出し、何故かレシピ案を考えるために都市内の飲食店巡りに付き合わされた。もちろんダインも付いて来た。


ちなみにある店で揚げ物を食べてた時にインスピレーションが湧いたらしく、ウィルとダインを残して店に走って行った。


ウィルとダインは顔を見合わせて驚愕した。


またまたある日、


「というわけで兄貴!弓を教えて欲しいっす!」


朝練に行く途中にダインに捕まったウィル。


「……これ引けるなら考えてやるよ。」


そう言ってウィルが特製の弓を手渡すと


「グギギギギギギギギギ…、な、なんすかこの硬さ?これほんとに弓っすか?」


なんとか引き切ったが、とても矢をつがえられる状態にならず諦めたダイン。


「まともな弓じゃ弱いし、遅いからな。」


敢えなく諦めたダインを横目にウィルは素振りを始めるのだが…


「1、2、3、4…なんでじっと見てんだよ。」


「何か得るものが欲しくて…」


「見てるくらいならお前も素振りくらいしたら?」


「確かに!」


「ハア…」



ユノの店にて、


「姉貴起きろ〜〜!朝飯作ってくれ〜!」


「ムニャ、まだ寝かせて〜!」


「冒険者の朝は早いんだ!起きろ姉貴〜!」


「うう〜嫌だ〜」


「…仕方ない。起きてよ〜。()()()()()。」


『バッッッ!』


途端跳ね起きるユノ。


「今、お姉ちゃんって言った?!」


「はあ?言ってないけど〜?姉貴寝ぼけ過ぎ〜。」


「聞こえたもん!!」


「言ってねえし〜。」


「んもぉぉおおおお〜!」


「なんでもいいけど腹減ったな…」


ウィルがユノと出会って、1週間が経過していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ