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第18話 非番

「貴様!ここに寝泊まりしているのか?!」


夕飯を家族とウィルの5人で食べている時、ガゼルはその衝撃の事実に気づいた。


「何?まだウィル君に文句つけるつもり?」


ユノは家族にというより、ガゼルにはかなり容赦がない。


「まあまあ、ユノから誘ったそうですし、いいじゃないですか。」


カーネルは諌める。


「いやしかし、ユノもいい年なのだから…」


「大丈夫ですよ。ね〜ウィル君?」


「大丈夫ってその、何が?何も盗んだりなんかしませんよ。」


「ほら。」


「『ほら』じゃないが?!」


「お父さ〜ん!!」


「あーもう分かったよ。」


やがて折れて椅子に座り込むガゼル。


「けどユノ、一日以上家を空けるときは必ず連絡すること。毎日夕食はここで家族で取ること。守れる?」


しかし、キチンと親として条件をつけるカーネル。


「もちろん!というかお父さんは何をそんなに心配しているの?」


「そりゃお前ふがふが」


何かを言おうとしたガゼルの口をカーネルが手で塞ぐ。


「ユノはまだ知らなくていいのよ〜。ウィル君も、ユノのことよろしくね。」


「そりゃもちろん。」


「なんでみんなカーネルの言うことは聞くんだぁああああ!」


「………」


絶叫を未だ無言で聞き流す、未だ空気なユノの弟ダイン。


「もうダイン、いつまで仏頂面してるの!ウィル君は悪い子じゃないんだから、仲良くしなさいよ!」


「…」


「も〜」


そんな様子をウィルは少し遠巻きに見ていた。これまで家族というものを持たなかった彼にとって、その光景は眩しく、どう反応していいか分からなかったのだ。


「ん?どうしたのウィル君、ご飯あんまり口に合わなかった?」


少し静かなウィルを気遣ったユノが尋ねるが、


「いや、美味しいぞ。ちょっと考えごとをしてただけだ。」


ウィルはなんのことはないと返す。


「そう?なら良かった。ところで明日の予定なんだけど。」


「おう?また狩りに行くか?」


「ん〜当日狩りが成功するかの訓練も必要だと思ったんだけど、正直、必要?」


「まあ、大丈夫だとは思うが、通しの練習もできるならやるに越したことはないんじゃないのか?」


「そうなんだけど、まだメニューが完全に決まったわけじゃないからねぇ。」


要するに、今30匹のハウンドを狩ってもしょうがない、と言うことらしい。


「それじゃ明日は非番なわけだ。」


「そうだね。わたしは多分今日の肉を使ってメニュー開発から手を離せないんだけど、どうするつもりか決めてある?」


「特にないな。」


「じゃあ明日はわたしとメニューの開発にでも〜」


明日の予定を確認し、誘いを入れようとしたユノに対して、待ったをかけたものがいた。


「ウィル!勝負しろ!!!」


ユノの弟、ダインだった。


「ダ、ダイン!どういう風の吹き回し?」


これまでずっと黙ってたダインの唐突な決闘申し込みに驚愕するユノ。


「…そんなに殴り飛ばされたのが気に入らなかったのか?」


不思議そうなガゼル。


「あらあら」


見守るカーネル。


少し考えた後、ウィルは答えた。


「それに勝ったら昼の件は終わりってことか?」


「ウィル君?!乗らなくていいんだよ?」


「そうだ!だから勝負しろ!」


「いいぜ、明日勝負だ。」


「ウィルくーーーーーーん!」


そんな会話を横目に、ガゼルは何か思いついたようだった。


その日、ガゼルたちがしぶしぶと、自分たちの家に戻った後、店の食堂で。


「も〜ダインったらいくらなんでも根に持ち過ぎだよ。ウィル君も、乗らなくていいんだよ?」


「まあやり過ぎたとは思うしな。」


「にしたってだよ〜。」


ユノは弟の行動に納得がいかないらしい。


「まあ勝てばそれで終わりだしな。逆に負けると思うのか?」


だが、ウィルとしては戦って解決できるならそれに越したことはない。残酷な話だが、ダインの実力はウィルに遠く及ばない。


「うーん、じゃあ、お手柔らかに、ね?」


一応姉として弟のことも心配らしい。


「まあ、友達の弟だしな。」


実際ユノの弟でなければ、もう少し手荒な態度にもなったかもしれない。


「?!ありがとう!今度こそ撫でてあげる!」


「おい!だからやめろってぇ!」


そう言いながらウィルを追っかけるユノの顔はいつもより嬉しそうだった。


〜〜次の日、早朝。


相変わらず朝に弱いユノを残して、ウィルは早朝の訓練をしていた。


「1、2、3、4…」


〜帰り道


「おい坊主、今日は買ってかねぇのか?」


道すがら声をかけてきたのは、数日前まで毎日朝食のパンを買っていたパン屋の主人だった。


「飯の用意をしてもらってるんでな。」


「なんでい、うちのパンはそんじょそこらカミさんの飯より美味いって評判なのによう。」


「いや、今飯作ってるのもたいしたもんだぞ。」


「ほ〜そりゃたいしたこった。」


「客を無くしちまった」と店主はぼやく。そんな店主を見て、ウィルはふとあることが気になった。


「そういやアンタ、料理大会には出ないのか?」


「料理大会って、あの魔物料理大会か?オレはでねぇなあ〜、魔物の肉をどうこねたってパンにはならねえからな。」


「それもそうか。」


「なんでい、お前さん。どっかの店と組んだのかい?」


「まあ一応な。」


「店は?」


「店名は、えっと…そう『竜角の角煮亭』だな。」


「…聞いたことないな?新しい店か?」


「さあ?いつからやってんのか聞いてないけど、結構寂れてたし有名じゃないんだろうな。」


「おいおい、契約店のことそんな風に言うもんじゃねえよ。」


店主は苦笑しながらいう。


「とは言え、当然一位を取る気だぞ。」


「ほぉ〜言うじゃねえか。」


「何やら新しい加工方法に自信ありげだったしな。」


「へぇ…。」


それを聞いた時の店主の目が僅かに細まったのに気付ける鋭さが、ウィルにはなかった。


店に戻るとユノはまだ起きていないようだった。


「うーん、こうかな?それともこう…?」


明日の朝食にと残していたスープを温めようとしたが、火打石での火つけに手間取った。火打石を使った経験がほとんどなかったからだ。


稀に野外で肉を焼く時はそんなものに頼る必要などなかったから。


いつもの容量で火をつけようか考えたが、そこで思い出す“先生”の声。確か火加減を間違えて天井まで真っ黒に焦がしてしまった時の話だ。


「屋内でそれを使うのは禁止!!」


思えばウィルは、先生の言うことはそれなりに聞いていた。


きっと好きだったからだろう“先生”が。好きだった“先生”に好かれようと、自分が許せる限りのことは聞いていたのだ。


「いただきます。」


…なんとか火打石で火をつけ、スープとパンを食べた。


加熱したスープは水が飛ぶ、そのことを知らなかったため、スープは少し辛かった。


自室に戻ると、服を脱ぎ水桶で布を濡らして身体を拭く。


戦闘以外の最低限の知識は“先生”から教わったものだ。


「全部教えきれなくてごめんねぇ…」


そう申し訳なさそうに謝る“先生”の姿をウィルは今でも忘れられない。


黒い鎧、赤黒い剣、装備を身につけウィルは店の外に出ようと玄関で靴を履いていた。


「あ、ウィル、おはよう…行くの?」


眠そうな目を擦ってユノが起きてきた。いつもの長い髪を後ろに結っていない姿は少し珍しい。


「おう、行ってくる。メニュー開発頑張れよ。」


「うん、()()()()()()()()。」


その言葉を聞いてウィルは少し固まった。


「どうしたの?キョトンとして。」


「いや、なんでもない。()()()()()()。」


ウィルが家を出ると、すでにダインとそして何故かガゼルが待ち構えていた。


「なんでアンタまでいるんだ?」


「仮にも息子と娘の友達の決闘だぞ?気にならないハズがないだろう。審判役だ。」


そうして3人が向かったのはギルドの訓練場、そこにある対戦用の小規模の闘技場だった。


「よーい、はじめ!」


ダインはその緑の目に闘志をたぎらせながら、ゴムを噛ませて潰した双剣を構え、襲いかかってきたのだが…。


本当に予想外のことは何も起こらなかった。詰める速さ、反射神経、身体能力、全てにウィルとダインでは歴然の差があり、勝負になっていなかった。


飛びかかるダインの双剣をウィルの黒剣の一振りが弾き飛ばし、驚愕するダインの首元を掴んで地面に叩きつける。


「グゥ…!」


なんとか気絶を免れ、起き上がったダインの首元に突きつけられる黒剣。


「ま、参った…。」


「じゃあ昨日の件はもう許してくれるってことでいいよな?」


「…」


「返事は?」


何か納得いってなさそうなダインに少し苛立ちウィルが語気を強める。


「は、はい!」


ウィルの突然の荒い対応に慣れていなかったのか、ダインは急におとなしくなった。


「んで、あんたはどういうつもりだ?」


ウィルがそう問いかけたのはガゼルだった。


後ろで薙刀の刃をつぶし、冒険者としての装備を身に着け、静かに闘志を滾らせていた。


(やる気だ…)


「いや、何、年配者になめた口を利く子供にしつけをしてやろうと思ってな。」


大ぶりな薙刀を片手で軽く回し石突を地面に軽く叩きつける。それだけで「ズンッ!」と鈍い音が響き、その薙刀の重量感が感じ取れる。


「今更か?それともユノが居ない時を待ってたのか?」


「好きに受け取るといい。」


「ユノにまた怒られるぞ。」


「........そのくらい、甘んじて受け入れよう。」


(だいぶ間があったな)


「いいぜ、やろうぜおっさん。その代わり俺が勝ったら俺の立ち振る舞いに文句はつけさせねえ。そこの雑魚とは違う。ユノの親父だからって加減はしねえからな。」


黒剣を構えなおし、刃先をガゼルに向ける。言葉通り、先ほどまでとはまるで様相が違う。


その黒い瞳に激しい闘志が宿っていた。


「大人気ない、とでも言われるかと思ったがな。」


(言うわけねーだろ。)


いつも子供扱いするな!とキレ散らかす自分が、こんな時に相手との年齢差に配慮を求めるなど、言語道断である。


少なくともウィルはそう思っている。


「おい?なんだなんだ?あれ“雷豪”じゃないか?」


「上級冒険者がなんで闘技場に?っていうか相手は誰だよ。ガキじゃねえか?指導のつもりか?」


「バッカお前、知らねえのか?あのガキ“問題児のウィル”だぜ。」


「上級冒険者同士の対決が見られるのか??おいおい、大型じゃねえか。」


“雷豪”ガゼルは有名らしい。彼が闘技の話立つということで、だんだんガヤが集まってきた。


それを見てガゼルはため息を吐きながら述べる。


「さっさと始めようか。」


「ああ、覚悟しろよおっさん。」

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