第16話 練習練習!
「ほんっっっとうにすまなかった!!!」
そう言ってウィルの前であまりにも綺麗な土下座をするのはユノの父、ガゼルだった。
そして横で不服そーに頭を下げさせられているのは、ユノの弟、ダインというらしい。
パッと見では分からなかったが、ダインも龍人の血をついでおり、ウィルが殴り飛ばした程度で大きな傷を負うことは無かったらしい。
ウィル自信、手応えとして“ヤベ…やり過ぎた”という感覚が拭い切れなかったため、甘んじでその不服の視線は受け入れている。
「も〜2人とも短気過ぎますよ。たった数日空けただけでユノ危険な目に遭うわけないって言ってるじゃないですか。ごめんね、ウィル君。」
そう言ってウィルに飲み物を出しているのはユノの母、カーネルだった。
ガゼルのあまりにも堂々とした土下座もそうだが、普段元気なユノが
「ご、ごめんね、ごめんね。ウィル君…」
と半泣きになりながら謝っていたので、さしものウィルも毒気が抜かれてしまった。彼女は気落ちしながらも、今は調理の下拵えをしている。
「もういいよ。人の家の前で鍵穴でゴソゴソやってる奴がいたら怪しいのは俺だって分かる。」
実際、そんなユノの父親だ。ガキと言われたのは気になるが、この土下座が出来る人間がそんなに悪い人ではないのだろう。
「許して、くれるのか…?」
「もちろん。というか家を壊したお題は本当に?」
「ああ、当然わたしが立て替えよう。これでも上級冒険者だ。稼ぎはある方だ。」
「そういう意味ならウィルくんだって上級冒険者だよ。ウィルくんはお父さんが思ってるよりずっと強いんだからね。」
そう言って置くの厨房から出て来たのはまだ目元が少し赤いユノだった。
「なに…?その年で上級?いやまさか君は「問題児のウィル」か!」
やがて得心が言ったようにガゼルはいう。
「またそれかよ…ハイハイ俺が問題児のウィルですよ…」
「ああいや、馬鹿にしているわけじゃないんだ。とはいえ納得だよ。その年であの力、上級冒険者というのは本当だろうね。」
「まあとにかく、俺はユノの依頼を受けてるのは分かってもらえたんだよな?ユノ、なんか手伝うことあるか?」
ウィルがそうユノを尋ねると彼女はビクッと肩を震わせて、
「いや、今は、大丈夫かな…」
とかなり元気のない表情で答える。
「?おい、気にし過ぎじゃないか。もう終わったことだぞ。」
「うん、そうは言ってもなんだか申し訳なくて…」
「ほ〜らー、2人のせいでユノが元気なくしちゃいましたよ?ユノ?ウィル君もこう言ってることだし、元気出しなさいよ。」
「そうだぞ。お前はもっと図太い方がお前らしいって、早く忘れて元気になれよ。」
「あ、ウィル君今のユノにその慰め方はちょっと…」
「うぅ…」
「うっそだろ?こいつこんなに打たれ弱いの??!」
「普段は強いんだけど一回こうなるととことん弱っちゃうんだよねぇ。あーヨシヨシユノ、元気出しなさい。」
「そうだぞ、ユノ。わたしとダインはともかくお前は何もしてないんだから気にすることはないぞ!」
「「お父さんは黙ってなさい!!」黙ってて!!」
「はい…」
そうした1時間ほど家族でユノをヨシヨシすると、ようやくユノは元気になった。
「じゃあ、わたしはレシピ制作に入るね!お母さん、悪いけどウィル君に厨房のご飯温めて出してあげて、お母さんのと2人分はあるから!」
「あ〜ユノ、わたしたちの分は?」
「知らない!どっかで食べてくればいいじゃん!!」
「そんなぁ〜」
ガクッと項垂れるガゼルの姿は哀愁漂うものだった。
〜〜
〜
「それにしてもたった2日ほど家を空けただけで驚きの連続だよ。まさかユノが上級冒険者と契約して、しかもそれか有名なウィル君とはね。」
店の机でウィルと話すのは、装備を脱いだガゼルだった。
「そりゃあ、どういたしまして?」
「家族の手は借りない!の一点張りでなぁ。最後には泣きついてくるものと思っていたんだが…」
「…締め切り昨日までだぞ?」
「………今のは忘れてくれ。」
「もう、お父さんったら本当にドジねぇ。」
「あ〜カーネル、このことは是非とも内密に…」
「僕も聞いたんだけど。」
急に沈黙を破るユノの弟ダイン。
「ああぁ〜最悪だぁあああ。」
頭を抱えて項垂れるガゼル。
「ふふふ、困った人ね。はい、お茶」
「あ、どうも。」
ユノの母、カーネルは大した美人さんだ。ユノの母なだけあって端正な顔立ちをしている。
茶色い髪に茶色い瞳はユノに受け継がれなかったようだが、その顔だちは非常にユノと似通っている。
「強い冒険者のお友達が一緒なら頼もしいわ。娘をよろしくね、ウィル君。」
「もちろん。」
…友達、とは先ほどユノがダウンした際、弱々しく訴えて来た時、さしものウィルが断れず了承したのである。
〜〜回想
「うぅ…あんなことがあったらウィル君が離れて行っちゃうよぉ…」
「馬鹿いうな、そんなことするわけねけだろ。」
「なんで?」
「大したことじゃない。」
「大したことだよぉ…、剣を向けるどころか、切り付けるなんて…」
「まま、ウィル君も気にするなって何度も言ってるんだし、良かったわねぇいい友達が出来て。」
「いや、俺は別に友達じゃ...」
「違うんだ…?」
そこで急にグズるのをやめるユノ。
「えぇ…」
「ウィル君はわたしのこと嫌いなんだぁ…」
「なんで友達じゃなかったら嫌いになるんだよ?!」
「嫌いなんだぁぁあああ!!!」
「こ、こいつ!」
(マジで人の話を聞かなねぇ!)
少年の言えたことではない。とはいえこのままにして置けない。
「…分かったよ友達だよ。友達だからもうグズるなって…」
「ほんと?!」
それを聞き急にウィルに迫ってくるユノ。
「都合のいい耳だなぁおい!」
「ふふふ、さすがわたしの娘…」
そうしてなし崩し的にウィルはユノの友達になったらしい。
回想はそこで途切れる。
(友達ねぇ…)
時は戻り現在。ウィルとしても、別にユノの事が嫌いというわけじゃない。…ただウィルには同世代の友人というものがいた事がなかった。記憶にある限り、一度も。
ふと、頭の中を白髪の少女の影がよぎった。ウィルをここまで連れて来てくれたあの少女は、“友達”なのだろうか?
「いつかウィルにも友達ができたら、ちゃんと大切にするのよ?大切にして大切にされる。それが友達というものなのだから。」
幼き日、“先生”に言われた言葉が頭によぎる。
(…俺はあの子を大切にしたいと思っている)
だがティーゼルはどうだろうか?そういえば彼女はウィルのためにわざわざ薬湯を用意してくれた。…ウィルに怒られるかもしれないリスクを背負ってまでだ。
(じゃああいつも友達なのか、ユノは2人目だな!)
そう思うとなんだがスッキリした。いい気分だ。
(一気に友達を2人も出来ただなんて、いい気分だ!)
「何をニコニコしているの?ウィル君」
そう尋ねるのはユノの母、カーネルだ。
「いや、なんでもない、です…」
ウィルは母親、という存在がよく分からない。苦手と言ってもいい。とはいえ、ユノの母親だ。邪険に扱うわけにもいかない。
珍しく慣れない丁寧語を使うくらいには、ウィルには苦手意識があった。
「ウィル君〜ちょっとこれ味見してくれな〜い?」
なので、そう厨房から呼ばれた時、ウィルは思わずホッとした。
「あらあら」
ウィルがいなくなると、先ほどまでウィルが座っていた席にガゼルが座り込んで問いかける。
「実際、どう思う?」
「ウィル君ですか?悪い子じゃないと思いますけどね。」
すると今まで会話に参加せずウィルのことを睨め付けていたダインが話し出す。
「父ちゃんにタメ口でずっと喋ってた奴がいい奴なもんか。」
「冒険者としてはあいつは俺と同格だ。そんなおかしな話でもないぞ、ダイン。」
「だからって、いくつ離れてると思ってんだよ!」
「まあそういうのも含めて「問題児」なんだろう。だが実力は本物のようだったしな。」
(全力とは言えなかった一撃とはいえ、ああも簡単に弾かられるとはな。向こうも全力だったとは限らんからな)
それだけ考えるとガゼルは立ち上がった。
「ちょっと冒険者ギルドに行ってくる。」
「あら?ウィル君のことが気になるの?そういうのはわたしの仕事だと思うのだけど。」
いつもはそういった情報収集を自分に投げるハズの夫の行動に、カーネルは鎧を布で拭きながら驚く。
「大会の終わりまでとはいえ、うちの娘を任せるんだ。気にならないと思うか?」
「鼻息が荒いですよ。ほどほどにしてくださいね。ユノは大層ウィル君のことを気に入っているようですし。」
その言葉にギョッとした顔でガゼルはカーネルの方を向く。
「何ぃ?あいつらはまだ会って3日も経ってないはずだぞ。」
「雨降って地固まる。見事な雨の降らせ方でしたからね、あなたたち。」
「ウグッ…。ま、まあとにかく俺はギルドに行ってくる。あとは任せたぞ。」
そういうとガゼルは槍なんかな簡単な装備だけ整えてギルドへ向かった。
「はいはい。いってらっしゃいませ〜。」




