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第14話 ある食堂での出会い

オーガの討伐を終えたウィル、あまりにも便利すぎたウィシュタリアの機構が故に戻ってきた時、まだ時刻は昼だった。


「お腹すいたな。」


そういってウィルはあてもなく歩いていたが、昼食の時間なことに気付いた。


やってきたのは飲食店の立ち並ぶエリア、そこには騎士や冒険者が昼食を求めて沢山群がっていた。


「どこも並んでるな〜。」


とはいえ美味しい食事をすぐに食べるのは難しそうだ。


そう思って歩いていると…


「……いい匂い。」


人がまるで並んでいない、隅っこの料亭から腹を空かせる匂いが漂って来た。


「開店…中…か」


ウィルにも読める字のはずだが看板が寂れていて、字が霞んでおり読みずらかった。


「いらっしゃいませーー!やった!お客さんだ!」


そう言って迎えて来たのは、白い給仕の格好をした赤い髪の女の子だった。


赤い髪に緑の瞳、そして何より特徴的なのは、肌に混じる煌びやかな鱗と尻尾。


龍人(ドラゴニュート)なんて珍しいな。」


「おお!よく一発でわたしの種族が分かったね!一名様いらっしゃーい!まあ、わたし以外店員いないんだけどね!」


少女の尻尾は嬉しさを示すようにパタパタと揺れている。


「元気だな、それと博識なわけじゃない。前に会ったことがあるだけだ。」


「へ〜わたし以外の龍人に?珍しいね!わたしも両親以外は東の里でしか見たことないのに。ささ、注文どうぞ。」


元気に喋る龍人の少女に案内されながらウィルは席につき、メニューを渡された。


(結構分厚い…ってあれ?)


「なんか、×だらけじゃない?」


メニューは沢山書いてあるのだが、ほとんどのメニューに×が付けられている。


「そうなんだよ〜。お客さん全然来てくれなくて、お店はもう大赤字!購入する余裕もなくて、食材は自力で外に行って狩ってきたやつと保存がきくものだけなんだ!」


自力で、というのは嘘ではないだろう。目の前の少女は龍人だ。ウィシュタリアの周辺は魔物が沢山いるとはいえ、龍人は高い戦闘能力を誇る。一般の冒険者以上の実力が装備などに頼らずとも存在するだろう。


それだけ、()()に秀でた亜人だ。だからこそ疑問もある。


「龍人が()()だなんて、珍しいな。俺の知ってる龍人はいつもどんな食材も生で食べてたぞ。」


そうなのだ、龍人というのは本来調理という概念を持たない。食事は基本無加工無調理のものを食べる風習のはず、そんな種族が料理人というはひどく稀な組み合わせだ。


「そうそう。わたしも以前はずっと生で食事をしていたんだけど、ある時都会の一流の食事に触れる機会があってね!その美味しさにも〜魅了されちゃって、自分でも作れるようになりたくて!」


かくいう少女は情熱的に料理への愛を語る。


「まあ、とにかくわたしはそれ以来料理をしっかり研究してそれなりに美味しいものを出せる自信があるんだけど…」


「まあ、客が来なければ意味がない、と。」


「そう、ただ皆さん亜人に偏見があるみたいで、お店に中々来てくれないんだ。来ても今作れるメニューがこれっぽっちで…」


そういう少女は少し残念そうにうなだれる。同時に尻尾も『シュン』っと萎れた。と思いきや、少女はまた元気な笑みを浮かべると、


「まあとにかく、この少ないメニューでも決して不味いなんて思いはさせないよ!食べていって!是非食べていって!なんなら料金なんか払わなくていいから、その感想を広めていってーーーーー!」


と言いながら少女はどんどんウィルに近づいて行く。


「だぁああああ、近付くな近付くな!!言われなくても注文するし料金はちゃんと払うってのーー!」


〜〜


「じゃあ豆とひき肉のトマトスープに、バターたっぷりのパン、それと輪切りステーキだね!小ちゃいのによく食べるね〜!」


「あぁん?小ちゃいって言ったかお前?!」


「いいじゃない〜どうせすぐ伸びるんだし、わたしなんてここ一年くらい背が伸びてないんだよ。二、三年後には追い抜かされてそう。それじゃあ作るからそこで待っててね〜!」


そういうと少女は嬉しいのかまた尻尾をパタパタとさせて厨房に戻っていった。


(なんだコイツーーーー!)


少女はその元気でウィルを押し切ってしまう。こんな経験が初めてなウィルは戸惑うが、大人しく待つことにする。


「水、おいしい…」


お冷はレモンの味がついていて美味しかった。


〜〜


「さあ!出来ました!食べてくださいお客様〜!」


ドンッ!と音を立てて机にはでっかいステーキとスープにパンだ。


「いただきます!」


何を張り合っているのか大きな声で食事の挨拶をすると、ガツガツと食べ始めたのだが…


「美味い!」


「でしょでしょう〜?決してわたしの腕が悪いわけじゃないんだ!」


実際美味しい、ウィルに細かい味の品評などできないがスープは豆とひき肉がとても調和しているし、ステーキは肉の素材の味がしっかりと感じられる。


「こんな美味しいのにみんな食べてないのか、惜しいことしてるな。」


なにか悔しいが認めるしかない。この少女の料理は美味しい。


「ね?ね?食べてさえ貰えれば全然人気になれる自信があるんだよね!けどやっぱ飲食ってのはイメージが大事なもんで、中々客足が遠いんだ。」


だけど!拳を突き上げながら少女は語る。


「そんなものにわたしは負けない!この腕で、龍人にも最高の食事が作れるって証明して見せるんだ!」


「へぇ」


その姿勢は、好ましいものだ。周りの意見や風潮を実力で黙らせていくのは、ウィルのものと近い。


「そこで、冒険者さん、ご相談なんだけど!君、問題児のウィル、でしょ?」


目を輝かせながら、目の前の少女はウィルに切り出した。


「はぁ?確かに俺はウィルだが、まだそこまでなんかやった覚えはねーぞ。」


「いやいや冒険者の中ではもっぱらの噂だよ!曰く、まだ小ちゃいのに上級冒険者。曰く、初日から20は離れた年上を殴り飛ばす。曰く、先日討伐失敗があったハウンドの大物を仕留める。曰く、他人の言うことを全く聞かず問題児である!違う?」


「違くはねえけどなんかムカつくなぁ、バカにしてんのか??」


荒い声でウィルは聞くが少女はなんのその


「いやいや!わたしはむしろとっっても評価してまるよ。わたしより年下なのに凄いじゃない!頭撫でてあげようか?」


そうやって伸ばしてくる手をウィルは慌てて払いのけて思わず後ずさる。


「急に何なんだお前!びっくりさせんな!」


「うーんそんな驚くこともないと思うけど。まあとにかく、わたしの依頼を受けてもらえない?」


「依頼?どんな?」


「近々ウィシュタリアで通年の、魔物料理大会が開かれるのは知ってる?」


「魔物料理…大会?」


ウィルはウィシュタリアについて詳しくなく聞くのも初めてだった。


「知らない?じゃあ説明するね!」


そういうと少女はパッパッとウィルの食べ終わったお皿を重ねて厨房に持って行った。戻ってくると何故か眼鏡をかけていた。…多分伊達メガネだ。


「流石に知ってると思うけど、魔物の肉は焼いたくらいじゃ食べれるようにならない。けど東の安全地帯から離れた地では食料の問題が必須!ということでいくつかの方法で食べられるように加工する、食魔加工って技術があるけど、これがもー美味しくない。」


実際そうだ。ウィルも特殊な加工をした魔物肉は食べたことがあるが、あれは薬のようなものだ。好ましく食べることはほとんどない。


ウィルはまあ、冒険者の中では稼げてはいる方なので簡単に普通の飯が食べられてはいるが、あれはかなりの高級品なのだ。


多くの冒険者や騎士など、開拓に携わる人々は普段はそんな不味い肉を食べるしかないのだ。


「というわけで、魔物肉限定で!最も美味しいメニューを作ることが出来た料理人にはウィシュタリアの料理人として高い名誉を得ることが出来るんだ!」


拳を握り締め、眼鏡を投げ捨てながら少女は語る。


「そうすれば、料理のレシピの権利だけでもお金が入り、わたしの名を一気に広めることが出来る!」


「まあ、料理大会への熱い気持ちは分かったんだが、結局何を俺に依頼したいんだ?俺は料理のサポートなんかできないぞ?」


「これは失礼。そこが肝心だよね。この大会は味もそうなんだけど、食料問題の解決という理由もあるから、量と時間にも指定があって、日が登ってから沈むまでに一定量を作らなきゃ行けないんだ。」


「なるほど」


「だから通例だと冒険者と料理人がタッグを組んで参加するんだけど、わたしと組んでくれる優秀な冒険者が中々いなくて…」


優秀な冒険者の多くはすでに名店と契約してしまっているらしい。


「自分1人で出場するしかないと思ってたんだけど、そこで今日やって来た君だ。ウィルくん!」


そうして目を輝かせながら少女はウィルに迫って来た。


「わたしの料理は食べたでしょ!美味しかったはず!わたしのこの腕にかけてみない?」


そう言って少女は握手を求めて手を差し出して来る。


「報酬は大会の賞金から払うよ!1割もあればお店は立て直せる!あとの9割は全部君にあげる!君となら絶対優勝できるはずだ!」


少女の赤い瞳は、燃えていた。強い自信と目標に向けての執念を感じさせる。ウィルはその瞳を真っ向から見つめてしばし考えた。


そして、考えた末その手を握った。


「半々でいい。」


「へ?」


「報酬の話だ。相場なんてわかんないが、俺もお前も対等な立場で望むんだ。だから半々、当然だろ。」


「ウィルくん!」


感激して尻尾を振るわせ喜ぶ少女にウィルは尋ねる。


「名前、なんていうんだ?」


そう、肝心の少女の名前をウィルは聞いてなかった。


「そっか、言ってなかったね。ワタシ、ユノ。ハーウェスタの里のユノ!よろしくね、ウィルくん」


「ウィルでいい。ちょっと年が上だからって君呼びは要らねぇ、ユノ。」


そういうとユノはキョトンとした顔を浮かべた後。


「分かったよ、ウィル。大会が終わるまでの2週間、よろしくね!」


そう元気な笑みで返した。


ユノ&ウィル「竜角の角煮亭」参加決定。


ちなみに参加申し込みが今日までだったらしくそれを告げたユノとウィルが大慌てで大会運営に申し込みに駆け込むのであった。



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