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第13話 ウィシュタリアの冒険者生活

ウィルはこの一週間と変わらないよう目が覚めた。


いつもの違うのは、体に疲労がほとんどないこと。医療棟で治療をしても疲労は残る。


しかし、あのメディシアに治療してもらったウィルの体からは昨日までの壮絶な鍛錬の跡がほとんど残ってなかった。



「1、2、3.....」


無茶な訓練は一旦控え、剣の素振りと弓の鍛錬をこなす。


疲れもなく気分のいい朝なのだが、その中でもウィルはここしばらくの間の中で、一番気分が良かった。


昨日、己の抱える秘密の一つを共有できたからだろうか。


訓練場を出て宿に戻る途中で、最近利用していたパン屋で朝食を購入する。


今日のメニューは、バターをたっぷり塗ったパンに山菜と燻製された肉と揚げた卵を挟んだ贅沢なものだ。


不思議なのは、この1週間に比べで飲食店の立ち並ぶエリアの活気が盛んなのだ。


「なんか行事でもあるのかな?」


そんなことを考えつつ、片手で意外と上品に食べながら宿に戻る。


ウィルは宿の部屋に戻ると装備を身につけた。赤黒い剣に黒塗りの鎧、見るから普通の装備ではないそれらの衣装は、見るだけでそれなりの“格」を伝える。


最も、着こなす少年が幼いが故に、逆に親の金で装備を揃えたぼんぼんに間違われることが多いのだが…


向かう先は冒険者ギルド、訓練を中断した今、簡単な依頼でも受けることにしたのだ。


「あ、ウィルさん、おはようございます。お早いですね。」


ウィルが訪れたギルドはいつもに比べて騒がしさが控えめな気がした。


ウィルは人の空いているレーンに並べるからいいが、周りのウィルを知らない冒険者がそこに並ぶウィルに声をかけようとして、周りに止められている。


やれあそこに並ぶだけの実力はあるだの、先日殴り飛ばされた冒険者がいるだの色々言っているが簡単な意見として


「「「あいつはヤベェ」」」


という意見でまとまっている。そんな彼らをウィルは睨めつけながら重役さながら受付に辿り着くのをケイトは苦笑して見ていた。



「討伐依頼ですね、少々お待ちください。」


ほとんどの冒険者は無作為に貼り出された依頼を選んで受けるのだが、ウィルはその“格”の冒険者ではない。


このウィシュタリアでは特に、かつてのリュースのようにウィルより上の冒険者は存在するが、少なくともウィル以下の年齢で受付のこのレーンに並べる冒険者は居ない。


彼らに紹介する依頼はどれもギルドの優秀な受付がしっかりと選定したものだ。


(昨日まであんな訓練をしていたそうですし、あまり危険でない依頼を紹介したいところですね…)


そうしてケイトが提示したのは、過去にウィルに討伐実績がある魔物たちだ。どれも危険な魔物であり、間違ってもそこの壁への貼り出しなどできないが、ウィルなら十分に討伐可能のはずだ。


「ごめん、これなんて読むの?」


「はい、それはですね…」


かくいうウィルは一部読めない字をケイトに尋ねて内容を吟味していた。


(心なしかいつもより落ち着いているような?)


そうやってケイトと話すウィルはいつもより落ち着いているような気がした。1週間前ギルドに来た時はレーンに絡まれ気を立てていたのかもしれない。


「じゃあこのオーガの討伐にしようかな、1匹だし楽そう。」


そうして選んだのは、中では一番難易度が高いオーガの討伐だった。それでもウィルの討伐実績はあるのだが。


(突っ込まない方がいいですよね〜)


早くもウィルの扱いをなんとなく理解してきたケイトである。


「ではお願いします。大丈夫だとは思いますが、安全に気をつけてくださいね。」


「はーい。」



こうしてギルドを出て討伐に向かうになったウィルだったが、出る前ケイトからロープウェイを使うように、と言われたのだ。


標識に案内されるがままに高台に登り、ゲートを出ると、


「たっけーーーーーーーーー!」


かくしてウィルが乗ったのは文字通りロープウェイだった。ただし超長距離用のという枕詞がつくが。


ウィル達がウィシュタリアに入る時に見た巨大な水車、その動力で動いている、と案内人が言っていた。


乗るとそのままウィシュタリアの城壁を超え、外にある停留所までたどり着いてしまったのだ。


「んで帰りもこれ使えるんだ。凄いな」


場所は北西、目の前の森に入れば討伐対象はすぐそこだ。


ウィルはウィルでも読める簡単な地図を見ながら、森に向けて歩み出した。



ウィルの肺の問題、いわゆる喘息は、激しい運動を継続することで発作が起きる。酷ければ肺が全身に酸素を送れなくなり、体に力が入らず動けなくなるのだ。


…戦士として致命的な欠点であり、こんな病気を持つ者が剣を振る戦いを生業とすることはほとんどない。


そんな爆弾を抱えた状態で、ウィルはこれまで単独で依頼を受け続けてきたのだ。周りの誰1人にもそのことを告げずに。


だからこその弓、なのだ。走り回ったりしたければ、日中歩き回っても発作を起こすことはない。


その強弓を持ってすれば、ウィルは大した疲労をすることなく大量の魔物を仕留めることができる。


プライドの高いウィルが、弓だなんて、と笑われることがあろうと手放さない、手放せない理由だ。


そうまでしてでもウィルが戦いから逃げることはない。


実際、年齢とともに肉体が成長することでウィルの動き回れる時間は伸び、8歳ごろ喘息だと分かった時は30分しか動くことができなかったウィルだが、今は大体1時間は激しく動き回ることができる。


逆に言えば1時間機動戦を続ければ、それ以上はいつ発作が起きてもおかしくないのだ。


だからウィルは機動戦は30分まで、と決めている。


精巧な作りの必要な小時計など持っていないが、少年の体内時計は完璧だ。


生き残るため、少年はその技術を身につける必要があったのだから。


そうして森の中を10分ほど歩いた頃だろう。


「そろそろかな。」


地図によればこの近くにあるはずだ。と、辺りを見ると、大木の中に大きな切り株があった。明らかに自然のものではない。


「近いのかな。」


そういうとウィルは周囲への警戒を強めつつ、待つことにした。


ほどなくして敵は容易に見つかった。その切り株を寝床とするオーガは猪か?今日の食事を掴んで帰ってきたところだった。


このオーガはこの辺りの長だ。決して弱い魔物ではなく、発見した冒険者は依頼を中断して帰還、報告し、この一帯での依頼が滞ることになった。


しかし、それも今日までだ。


「ガルウ?」


オーガは見た、己の住処の切り株の上で不遜にも座り込む不届き者を。


(ユルシテハオケヌ!)


今日の成果物の猪を投げ捨て、近くの手ごろな木を掴むと握力だけで引きちぎり、振り翳した。


オーガは敗北を知らなかった。喧嘩で負けたことはなく、外に出れば自分以外は全て狩られる側、だから今日も寝床を荒らす不届きものを狩るのだ!


「ガルルルルル!!」


大木を振り翳し、目の前の小さな人間に向けて振り下ろす。


「ガルル…?」


しかし、その大木は振り下ろす途中で止まってしまった。


一般にオーガとは、その怪力で恐れられる魔物だ。怪力かつ人並みの反射神経がある。


大木や大岩をブンブンと振り回せるその強さは非常に危険で、一般的な冒険者が仕留めるのは困難だ。


それどころか足も遅くなく、見つかってしまえばなす術なく殺されてしまう可能性が高い。


が、当然今日そのオーガが出会った冒険者は一般的なものとは大きくかけ離れていた。


「こないだの狼野郎とは比べ物にもなんねぇな。」


振り下ろされた大木を悠々と掴んで止めたウィルはぼやいていた。


モンスターにはその危険性の区分があるのだが、前回の狼とこの目の前のオーガは一応同じ括りに区分されるらしい。


これらより上には、種族名とは別に個体名をつけられるモノが存在し、名持ち(ネームド)の魔物、と呼ばれる。


そこまでいくと今のウィルでは1人で仕留めるのは出来ない、というか出来なかった。経験談だ。


これの対処は基本的にウィルくらい優秀な冒険者が複数で対処にあたるか、魔法使いが相手をするかに限られる。


これを1人で相手する者がいれば、それは魔法使いにも並ぶ武人と称えられ、武人として最高の栄誉となるのだ。


先日開拓村でウィルをスカウトしたリュースなどがそういった武人として挙げられる。


まあとにかく、目の前のオーガは少年の相手をするには弱過ぎた。


大木を抑えたまま、片手で剣を引き抜き、瞬間オーガの視点から消える。


「ズドーン!」気の抜けた音を響かせながらオーガの後ろにウィルが立った時、その体は斜めに引き裂かれ、オーガは鬼生(じんせい)で最初で最後の地面とのキスになった。



オーガの死体は、素材としてはかなり優秀だ。ウィル程とはいかないが、怪力を付与する装備や属性を付与する武器の原料になることもある。


骨や皮、筋肉ですら今は余すことなく使うことができるだろう。普段なら、素材を回収するために台車の一つでも引いてくるところなのだが、今回は移動時間が短いためその必要もなかった。


「よいしょっと」


そういってウィルは自分の何倍もあるオーガの死体を両手で抱えると、その状態で()()()()()


歩きながら10分はかかった戻る道をわずか1分弱で駆け抜けた。


「あ!」


しかし、爆速で運んできた弊害か、ロープウェイの乗り場前まで戻ってきた後、運んできた死体をよく見ると、なんと二つ生えた角の一部がかけてしまっていた。


「ここ高いのに!」


とはいえ今更探しに戻るのも面倒くさい。ロープウェイの乗り場まで戻ると係の人がオーガの死体を抱えるウィルを見て「もう戻ったのか?!」と驚いていたが、戻るためのロープウェイを呼んでくれた。


「便利だなぁ。」


行く時は気付かなかったが、ロープウェイの荷台には魔物の素材を突っ込めるスペースがあった。それはもう二つに分かれたオーガの死体くらいなら余裕で入るくらいには。


ウィシュタリア内まで戻ると、なんとその場で素材を回収までしてくれたのだ。後日素材の代金も貰えるらしい。



「お疲れ様でした。流石と言うべきか、速かったですね。」


あとは何も持たず達成報告をするだけで良かった。ロープウェイ乗り場、素材回収場、これらを中継する情報伝達のための仕組み(魔法装置)があるそうで、ウィルの討伐成功をギルドはすでに知っていた。


「こちらは報酬になります。素材の代金は換金終了後、また支払いさせて頂きますね。お疲れ様でした。」


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