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第11話 過度な訓練

ウィルは馬車に積んでいた、自身の倒した魔物たちの亡骸をギルドに運んできた。


「これはまた、随分な量ですね〜。」


その作業を確認しながら、ウィシュタリアの冒険者ギルドの受付:ケイトは驚いていた。彼女は昨日付けで上級冒険者ウィルの係付けになった。


本人の希望と、能力を踏まえた上での采配だ。仕事量は増えるが、その分報酬も上がる。


「ある程度はやったけど、剥ぎ取れてないのもあるから、そっちはやっといて。もちろん代金は差し引きで。」


「全部売り払うんですか?」


「いや、ハウンドのボスの分だけは持っていく。」


なかなか手に入らなそうな素材だし。そう語るウィルは、すでに遠目で見守る冒険者たちの注目の的だ。


ここは強者として実力を認められた上級冒険者以上の者のみが並べるレーンであり、ウィシュタリアでもこの栄誉に預かる人間は基本的に尊敬の的だ。


子供1人の冒険者が要警戒の討伐対象の素材を持ち込んで、そんなレーンで報告をしているのだ。注目くらいされる。


だがそんな扱いを受けるウィルは、別にそれを栄誉だと思っているようには見えない。


(大物なのか、よく分かっていないのか。)


ここに並ぶ道中声をかけようとした人間もいたが、昨日レーンがその小さな拳に沈んだという話も流れており、皆遠巻きに見守っている。


「こちら、討伐対象の報酬になります。」


そういうとケイトは報酬の入った金袋をウィルに渡す。


「結構な額だな。」


それなりに重く、エドガーから貰った報酬ほどではないがかなりの額が入っていることがわかる。


「今回の討伐対象は一度討伐隊を返り討ちにしており危険度が高かったので。」


上級冒険者一名を含むパーティーが討伐に向かったが、リーダーである上級冒険者がボスハウンドの機動性から交戦を続ければパーティーメンバーに死人が出うると判断して撤退しているのだ。その分警戒度も上がっていた。


「ちなみにウィルさんの実力把握のためにも、討伐時の話を詳しくお聞かせいただきたいのですが…?」


「…こっちも一日寝込むくらいの傷を負った。それ以上言うことはない。」


「もう少し詳しくお聞きしたいのですが。」


「ない。」


「そのぉ…」


「しつこいな、それ仕事じゃ無いんだろ?」


と言ったやりとりがあり、だんだんとイライラしていくウィルを見て受付のケイトは諦めた。


(性格に難あり、というのは本当ですね。)


まあ、冒険者、と言うのは腕っ節で語る仕事なのもありそんなに素行が良い者ばかりでは無い。この程度の対応は手慣れたものだ。


(むしろ顔や態度に出やすい分、対応はしやすいんですけどね。)


確かに護衛依頼なんかは引き受け辛いだろう。と、ケイトはウィルに斡旋する依頼の種類を頭の中で整理していたが…。


(けど、そこに融通さえ利けば、あんな高難易度の護衛依頼もこなせるわけですしねぇ。)


それとは別にウィルの優秀さも評価していた。


ギルド間で共有されている情報にもある通り、弓を使った戦闘で中距離から低コストで安定して魔物を仕留められるため、数相手に優れた討伐実績も誇っている。


加えて、討伐依頼が一度失敗した高難易度の討伐依頼も単独撃破するほどの戦闘力もある。


冒険者ギルドは依頼を斡旋するだけでなく、こうした個人の育成にも力を注ぐのが業務だ。


「ちなみに、ウィルさんはこのウィシュタリアに一ヶ月滞在されると言うことでしたが、冒険者業の方はどうされるおつもりですか?」


「取り敢えずは消耗した物資とか装備を補充するつもり、お金は結構手に入ったし。」


「では依頼はあまり受けるつもりはないのでしょうか?」


ギルドとしては優秀な冒険者に依頼をこなしてもらいたいところだが、本人にその気がなければ意味がない。


(あまり依頼を捌くのは難しいかもしれませんねぇ)


そんなことをケイトは考えていたが、


「ところで、怪我用のいい薬とかを揃えたいんだけど、おすすめのお店とかってある?」


「ありますけど、何故?」


特段今から依頼を受けるわけでもない人間が必要なものだろうか。とケイトは不思議に思い聞いてしまった。


「その…キツめの訓練がしたいんだけど、先日あまり無茶はするなって言われてしまってさ。」


珍しく頭を掻きながらウィルはいう。


「怪我した時用にいい薬揃えておこうかと思って…」


「キツめの訓練、どんなものか聞いても?」


「….」


言葉にこそ出てないが、それ言わなくちゃダメ?という顔をするウィル。


「ハイハイ分かりましたよ〜そう言うことはもう聞きませんから。」


(こういう年頃の子って普通は自分のことたくさん喋りたいんだと思うんだけどなあ〜やっぱ子供って難しい。)


「訓練の怪我を想定しているなら。ここウィシュタリアでは医療従事者が多く集まった医療棟がありますので、そちらの利用をお勧めしております。」


「病院ってこと?」


「まあ、平たく言えば。」


「ふーん、ありがと。」


「ただ、それなりに費用も取られますよ。ご利用は計画的にお願いしますね。」


「はいはい。」


この時強く言い含めておかなかったことを、ケイトは後悔することになった。


~~一週間後冒険者ギルドにて


「一体どういう依頼を受けさせてるんだい?あんな子供に。」


ケイトがウィルにウィシュタリアの医療機関を進めてから1週間ほどたったある日、医療機関の責任者から抗議が入ったのだ。


曰く、ここ1週間毎日12歳の子供が体中ボロボロにして治療を受けにくる。


曰く、その子は冒険者ギルドの所属である。


曰く、その子の担当はケイトであり、とんでもない高難易度の依頼を受けさせたのではないか?


「依頼は受けてない?嘘つくんじゃないよ!何か表では言えないような危険な依頼を受けさせてるんじゃないのかい??」


今も大声で抗議の声をあげているのは、この街の医療従事者の責任者であり、魔法使いでもあるメディシアだ。


白髪の混じった髪に、医療棟の所属を示す白いローブ、胸の金の紀章はその中でも高位の人間であることを示している。


「そ、そんなものはないです。ただ先日、本人が負担が強い訓練を希望していたので、そちらの紹介はしましたが…」


「1週間毎日、自分であの傷を負ってるってっていうのかい?」


「こちらからはそうとしか…」


「私はこの目で確認しないと信じられんな。その訓練の様子とやらを見せてもらうよ。」


「…分かりました。私も担当の冒険者が毎日酷い傷を負っている状況は健全とは言えません。確認しに行きましょう。ファーニス、すみませんが残りの業務をお願いします。私は外出します。」


「ウゲッ?!」


そういうと同僚に仕事を投げ、ケイトはメディシアと共にギルド用の訓練場に向かった。


ウィシュタリアはその広大さから当然訓練場も大きく見つけるのは時間がかかると思っていたが、2人がウィルを見つけるの簡単だった。


理由は簡単で、明らかに人だかりができて居たからだ。


遠巻きにウィルを見つけた2人だが、野次馬の中にケイトの見知った冒険者がいた。


「あの、すみません、ガルンさん。なんでこんなに人が集まってるんですか?」


そう、先日ウィルに殴り飛ばされたガルンだ。彼は食い入るように訓練を眺めて居たが、ケイトの声を聞いて後ろを振り向いた。


「おお、ケイトさん。なんでって言ってもなぁ、あのガキがとんでもない訓練をしてるって最近冒険者の間で噂になってんだ。気に入らねぇガキだったが、あーも真剣だとなぁ。」


そう言うガルンに続いて周りの冒険者A、Bが色々教えてくれた。


「毎回メチャクチャ痛そうにしてるぶっ倒れるから止めるように言ったんだが、あのガキ、マジで人の言うこと聞かねえんだよな。」


「そうそう、んで毎日陽が落ちるまで体中ボロボロにしてからやっと辞めるんだ。お、またやるみたいだぞ。」


そういうと座り込んでいたウィルが「ッ!!」と痛そうな顔をしながら立ち上がり、赤黒い剣を引き抜いて、妙な構えをとっている。


剣の背を地面につけた奇妙な構え、だろうか?と思うと、黒い剣が炎を纏い出した。


そして、『ドンッ!!!』という音と共に剣の背を付けた地面が爆ぜ、少なくともケイトが今まで見た中で、最も速い速度で剣が振り抜かれた。


というか、剣を振り上げたウィルの姿勢から振り抜いたと予想しただけであり、ケイトにはまるでその挙動が捉えられなかった。


常識外の速度で振り抜かれた剣は衝撃波を放ち、その威力を見ただけでも想像させる。と


「ヅア……!」


しかし、その速度の酷使に体が耐えきれてないのだ。その顔が苦痛に歪み、傷付いているのが分かる。


冒険者の装備で肉体を強化していて尚、自傷を避けられない技なのだろう。傍目にもそれが分かる。


「最近はあれでもマシになった方なんだぜ?」


ガルンは語る。


「数日前までは、一回振り抜くごとにバタッ!って倒れて気絶しててよ。んで起き上がる度にまたアレを繰り返すんだ。まともじゃねえよ…。」


「や、辞めさせないと…」


「無理だぜ?何度か辞めるよう忠告したけど「邪魔すんな!」の一点張り、あのガキ、マジで人の言うこと聞かねえんだ…。」


そうしてケイトはウィルの訓練を見守ることしかできなかった。


ちなみに、側に控えるメディシアは本来かなり上の立場の人間だ。


しかし、こういった場所に出向いて人を萎縮させないよう、控えめな格好をしており彼女を彼女だと気づくものはこの場には居ない。


「まあ、ギルドが変な依頼をかけたという疑いは晴れたと思いますが…」


「そうだな…あらぬ疑いをかけたことは後々公式な文章でも謝罪しよう。」


「いえいえ、私も所属の優秀な冒険者を気にかけて頂いて大変助かるのですが…実際あの子の状態はどうなのでしょう?」


「カルテと報告によれば今のところは問題ない、そうだ。毎日高い料金を納めてしっかり治して行くからな。」


いい客なのは間違いない。とメディシアは笑う。


「だがあんな怪我を負うような訓練、いつ事故が起きてもおかしくはない。話に聞く限り言っても辞めるような性格ではないんだろう。少々興味が湧いた。今日の治療は私に任せよ。」


「と言うとメディシア様ご本人が治療していただける、ということですか?!」


それは驚きだ。メディシアはこの都市に関わらず世間的にみても指折りの医療従事者であり、魔法使いの医者だ。あらゆる分野の病状に詳しく彼女の治療を受けるために王族が遠路を訪れることもあるほどだ。


(彼女が診てくれるというなら、ひとまず今日は安心でしょう。)


ケイトもそう確信できるほど、彼女の腕は優れている。


「少々気になることもあるしな。」


「メディシア様、その、彼と話をするつもりてすが…?大変失礼ながら彼は…」


「貴族と関わるには学が足りない、と?その程度のこと些事に過ぎぬ。どんな患者であれ、私はその体を治療するし、無礼を働いた程度で処罰を下すような真似はしない。」


「そう言うことなら安心なのですが…」


一応自分も見守っておくべきだろうか?そんなふうにケイトが悩んでいたとき。


「申し訳ありません。そこのお方、冒険者ギルドの方とお見受けしますが、この人だかりはどうしたことでしょう…?」


後ろから少し高い新しい声がかかった。ケイトが振り向くと声の主は問題の少年と同い年くらいの少女だった。


決して安価では買えないようなワンピースを身に纏い、青い瞳と美しい白髪、まだ幼いながら、その整った顔立ちは、それなりに目を引くものだった。


大きな買い物かごを運んでいる様から…


(貴族の使い走りですかね…?)


「いえちょっと、私の担当の冒険者が派手な訓練をしていましたね。毎日毎日怪我が酷いということなので確認しに来たんですよ。」


すると少女は荷物かごを地面に下ろして少年の方を見ると「やっぱり…」と声を漏らした。



ちょうどその頃、ウィルは痛みを堪えてもう一度訓練を再開しようとしていた。


(体を強化する、剣先に炎を灯す、風を回して剣先を爆ぜさせる、やることは分かってるんだ、後はとにかく回数を重ねて慣れるしかない。できなきゃこれ以上には行けない!前は一回やったら気絶してたのに、今はしてない。確実に進歩してる。)


痛みでアドレナリンがドバドバ出ているのもあり、ウィルには周囲の人間のざわめきが聞こえていなかった。


元々ウィルにとって訓練の周りにたかる人は邪魔でしかなかった。周囲の人がウィルから取る一定の距離は、これ以上近付くとウィルに怒鳴られる、というギリギリの範囲なのだ。


そうしてウィルが再び剣を構えて振り抜こうとした時。


「ウィル様、何をしていらっしゃるんですか…?」


するハズない声が響いた。


「へ?」



ケイトはびっくりしていた。見るも可憐な少女が人の間をすり抜けてあっという間にウィルの下に寄っていったのだ。しかし、驚いたのはそこではない。


「おい止めとけって、どうせ言うこと聞きやしねぇぞ。」


ケイトも同じ意見だ。彼は人の意見など根本的に聞かない人間だ。言うだけ無駄、そう思っていたのだが…


「へ?ティーゼル?!」


少女が語りかけたとき、少年は周囲の冒険者たちが初めて見せる反応をしていた。


「その、何って、訓練…だよ?」


取り繕うように事実を述べるウィルだが…


「毎日酷い怪我を追って治療を受けていると聞きました。」


「いやまあ、その、安全な治療が受けられるから、…その、これは別に無理に入らないかなぁって…」


まるで取り繕えていなかった。


「…ウィル様」


「で、でもやっぱり訓練は必要で…」


あの少年が、言い訳を、弁明をしている。それはこの場の人間にとって間違いなく異常な光景だった。


ケイト以上に驚くのは周りの冒険者たちだ、彼らの一部は何度かウィルに辞めるよう忠告をしたが、全く耳を貸さないウィルを、それでも心配して見守っている人の良い冒険者たちだ。


故にその聞かん坊っぷりはよく理解している。もので吊ろうが、優しく言おうが、大人の綺麗な女冒険者に諌めてもらおうが、決して言うことを聞かなかったのだ。


しかし今、明らかにひ弱そうな女の子1人に、少年はタジタジになっている。


「無茶はしないって、約束して頂きましたよね。」


「いや、その、これは無茶には入らないかなぁって…」


「そのお怪我でですか?」


「……………………………ごめんなさい。」


少年の謝罪など、中々聞けるものではない。


「どうしたんですかウィル様、私は別にウィル様を叱っている訳でもなければ、そんな立場があるわけでもありません。」


「え、じゃあこれは怒られてるわけじゃない…のか?」


「もちろんです。ただ私との約束はそんなものだったのか〜と思っているだけです。」


「やっぱ怒ってるよね?!ごめんって、今日はもう休むから、ほらまだ元気だかーイッッッッテェ!!!」


傷だらけの体で元気さを偽証しようとしたが、反動で凄まじい痛みがウィルの全身を襲い、思わず悲鳴が出る。


「…ウィル様は、しっかりと誰かに師事した方がいいと思います。そんなやり方ではどんなに頑丈な人でも怪我を抑えられません。」


「イッッッッ、ごめん、なんて言った?」


「…いえ、とにかく早く休んで欲しいです。医療棟へ行きましょう。」


「はい…」


そしてウィルはこの一週間で初めて陽が落ちる前に大人しく訓練を辞めた。


「おい、マジかよ。あの頑固頭が訓練辞めたぞ。」


「何者だあの女の子、てか可愛いーー!」


「さしもの“問題児”も女の子には勝てねえか、あれは将来尻に敷かれるなぁ。」


そんな声を聞きながらウィルの後ろを歩き、顔を下に向けるティーゼルの耳は少し赤くなっていた。


しかし、隣を歩くウィルは、痛みに耐えることに集中しており、それに気づく様子はなかった。少年は元より人の感情の機微に疎い。それに、少しだけ、少しだけティーゼルは安心した。


(ウィル様のどこにこれ以上強くなる必要があるのでしょう?)


ティーゼルは素直にそう思っている。彼は強さを求めている、それもこの年にして焦ってすらいる。その理由がティーゼルには分からない。


こんな危険な訓練をするくらいなら、諦めて欲しい。とすら思っている。


それでも、出会った頃は気難しかった少年が、自分の頼みを素直に聞いてくれたことが、少女にはひそかにうれしかった。


そんな小さな喜びと、ウィルの無謀な訓練を止められた安堵が、ティーゼルの心を温かく満たしていた。


そして2人が訓練場を去ろうとしたとき。


「少しいいかな、少年?」


ウィルに声をかける者がいた。


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