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第10話 ウィシュタリアの冒険者

ウィシュタリア、東西を大きく分つ要所であるこの都市は、西のその他の街や都市と違って行政の力が凄まじく強い。


簡単に言うと治安がいい。


犯罪の温床となるスラムなどは徹底的に排除され、汚職に靡かないよう高度な教育を受け高い賃金で雇われた衛士たちが街を徘徊し治安を守っている。


駐在する戦力は西方随一であり、内と外からこの街を徹底的に守っている。


そんな地域では当然人間の管理も厳粛だ。西からこの都市にやってきたウィルたちは全員が目的と所属を明かすことになっている。


この際、ウィルは本来通るのに検査やたくさんの書類の提出に審査のためにかかる費用を自身で捻出しなければならなかった。


しかし、貴族の護衛という立場がその辺りの条件を大きく緩和してくれた。貴族の力とは偉大だ。


そんな偉大な貴族の力を持ってしても、一行全員の長期間の審査だけは覆らなかった。


「一ヶ月〜?!」


ウィルの目的地はまだ先だ。当然、更にこの先にも行きたい。


この都市に着いた時点で、一旦護衛依頼は成功ということで多額の報酬が支払われた。


もちろん、この都市を通過して東に行くための手続きも含めて報酬ではある。


もともとこの依頼は、エドガーの故郷であるウォーベンまでの未開拓領域までの魔物の護衛である。


ウィルの目的地の方が先に到達したりした場合は、その日までの日数の護衛分の報酬が支払われる、という契約期間をある程度ウィル側でコントロールできる依頼だったのだが、そこに安全な都市内での要人護衛までは含まれていない。


なのでこれまでも開拓村や都市での駐在期間は賃金が発生してなかったのだが、一ヶ月というのはかなりの期間であるため、一度依頼料がまとめて支払われるということになった。


手持ちの少なかったエドガーだが、都市の商人銀行からそれなりに金を引き落として来たそうで、かなりの報酬が支払われた。


「エドガー様は、気が変わればこの都市までで契約を切ってもいい、とのことでした。」


とは言われたが、ウィルとしてはこの契約をまだ継続したい。


そもそもウィル1人では、この先も都市間を伝って東に移動することはできない。


それは戦力的な問題ではなく、ウィルのその他の能力が問題だ。まず、ウィルは未開拓領域の複雑な記号が並ぶ地図が読めない。」


討伐依頼をこなす程度ならなんとかなるのだが、数日間の生活を含めた移動のための複雑な記号を理解するのにはある程度教養がいる。


ウィル1人でできることは決して多くないのだ。そしてウィルはそれができるようになる方法もよく分からない。


そしてウィルは何より問題児過ぎた。こういう1人で活動する冒険者は大抵、要人の護衛依頼なんかに同席したり、移動用に即席のチームを作って移動するのだが、ウィルはとにかく揉めた。


仮にウィルが並みの実力しかなかったなら、ギルドも少年を見限り、とっくに冒険者登録を解除されていただろう。そのくらいウィルは揉め事が多かった。


そんな中、ティーゼルという良くも悪くも角がない人間を通して受けられるこの依頼は、ウィルにとってこの上なく都合のいいものだった。


ウィルは彼女のおかげでのおかげで、面倒な交渉や手続きをせずに済む。


「あいつが居なかったらここで終わりだったかもなあ。」


それでも先日依頼主のエドガーと初めて話した時は、早くも彼に苛立ったウィルである。その判断は正しいだろう。


それにウィル自身、今の旅に居心地の良さを感じているのも事実だ。彼女と話していると、ウィルはなぜだか心が落ち着くのだ。


簡単な話、ウィルはまだディーゼルと一緒にいたいのだ。


一度一行と別れるとき、最後にティーゼルがこちらを見て笑いかけた姿が何故だかとても印象的だった。


まあ、何はともあれ、この都市を通って東に行く許可がでるまで一ヶ月かかる。なのでこうしてウィルは一旦の依頼達成を冒険者ギルドに報告しに来たのだが…


「チクショウ…こんなガキに…」


ガラの悪い冒険者が1人、ウィルの拳に沈む。今日も今日とてウィルは揉め事を起こしていた。


「絶対あいつが悪いだろ!」


そしてウィルは煙臭い別室で、取り調べを受けていた。


「んで、ガルンは「子供は後ろで待ってろ」と言って列に割り込んできた、と。『スパー』…ふぅ。」


「だから何度もそう言ってるだろ。」


「まあ、事実確認もなしに野放しにするわけにもいかねえんだ…ふぅ〜。」


そう言ってウィルの対面で話しながらタバコを吹かしているのはこの街の冒険者ギルドの職員を名乗るライゼルだ。


治安のいいウィシュタリアとはいえ、問題が起きないわけではない。起きたら起きたで素早く取り締まることができるからこそ、治安がいいと言われるのだ。


そして大抵の場合において、ウィルは取り締まられる側の人間だ。


「ガルンの奴はあれでもかなりの冒険者なんだがな、『スパ』」…ふぅ。」


「舐めてたんだろ。避けようとすらしてなかったからな。あの野郎」


「なるほど、まああいつも反省してるとは思うぞ。とにかく、手間を取らせた分、依頼完了の手続きはこっちで受けるから『スパ〜』…ふぅ。」


そういうとライゼルは、ウィルの依頼報告書を読み始めようとしたのだが…


「あのさ…、タバコ多くない…?」


ウィルと話し始めてから三本目になるタバコを指摘された。


「ほっとけ、オレはこれがないと仕事が手につかないんだ。」


それで。そう言いながらライゼルはタバコの煤を落としながら会話を続ける。


「貴族の護衛依頼だったらしいが、まず、“礼儀や作法にこだわる必要なし”って条件はなんだ?」


「…貴族様って、礼儀とか作法とかうるさいって話じゃん。」


「それが通ったとらじゃあこの“やり方は冒険者に任せる”ってのは?」


「護衛は馬車から降りてずっと歩いてろ、ってよく言われるんだよね。アレが嫌で。」


「…随分とお前に都合のいい依頼だな。『スパー』…ふぅ。」


と言った具合に語られる内容があまりに特殊過ぎた。門衛の報告によれば、この一行はたった6名でここまで移動して来たらしい。


うち1人が貴族ということでギルドは納得していたが、ウィルの話を聞いているとどうも依頼主であるエドガー・ウィンストンはほとんど戦っていないように聞こえる。


少年の話を聞く限り、嘘を言って手柄を誇張しているようにも思えない…極め付けは


「ハウンドの特殊個体の撃破…?」


すでにウィシュタリアでも出現が報告されていたハウンドの強特殊個体の撃破報告である。


さしものその報告の時にはライゼルもタバコの火が止まる、のではなく一本加えたままもう一本のタバコに火をつけた。


証拠となる素材は今は持って来ていないそうだが、すでに討伐依頼が一度失敗しているこの個体の討伐を、話に聞く限り少年が1人で成功させてしまったらしい。


12歳の少年冒険者ということで、ほとんどの人間が聞けば見栄っ張りの嘘っぱちだと判断するような話ばかりだが、


「うん、かなりの強敵だった。1人で倒せた中じゃ一番の大物だよ。あれは。」


そういう少年は冷静に報告しているつもりだろうが、その討伐をある程度自慢に思っているのが分かりやすく表情に出ており、なおのこと嘘を言っているようには見えない….。


(これが全部本当なら、かなりの大物が来たようだな…)


見た目や言動は年相応だが、これらの報告が全て事実なら、このウィシュタリアの中でも相当に有望な冒険者がやって来たのかもしれない。


「少年、出来ればそのハウンドの素材、討伐証明のためにもギルドまで持って来て貰えるか?」


「なんで?倒したか疑われてる俺?」


少し不機嫌になる少年。その表情の変化は、人を相手にする仕事をしてきたライゼルにとってあまりにも分かりやすい者だった。


「いや、そういうわけじゃねえんだが…そのハウンド、おそらく討伐依頼が組まれていた特殊個体でな。証明できればギルドから報酬を配ることができるぞ。」


「へぇ〜まあ元々素材はある程度売ろうと思ってたんだ。明日持ってくるよ。ってことで帰っていい?」


ウィルは自分が倒したか疑われているのか気に入らなそうだが報酬が出る、ということで機嫌を良くした。本当に分かりやすい。


ライゼルにはもっと聞きたいことが沢山ある。とはいえ、


(仕事終わりの冒険者を、それも子供を拘束し過ぎるのも良くねえか。)


ライゼルはそう結論付けると、ウィルの依頼達成書に判を押し、帰宅を促した。


「じゃあ、また明日来るね。それとおじさん、タバコの量減らした方がいいと思うよ。」


そう言って帰っていくウィルはやはり年相応にしか見えなかった。最後の一言は余計だが。



〜〜その夜


「12歳の上級冒険者?!」


ウィルの実力が気になったライゼルは、他の街のギルドで記録されているウィルの討伐実績を確認したのだが、出て来るのは凄まじい討伐実績の数々だ。


数多の護衛依頼を拒否られ、デカデカと問題児!と赤字で書き込まれているのを見た時は苦笑してしまったが、その実績たるや、まさに異常だ。


ほとんどの依頼をソロ、単独で受けており、護衛依頼以外の失敗はゼロだ。複数討伐はもちろん、どんな強敵の討伐であれ、粘り強く挑む、と評価されている。


また、依頼内容の報告が信じられないようなことを口にする事も多いが、確認出来る中で虚偽の報告は一切されていない。という評価ががまた凄まじい。


「これは…久々に優秀な冒険者が現れたかも知れんな。タバコが止まらん…」


幼い彼の報告書をまとめた担当の中には「「「こいつを育てたのは自分!」」」とでもいいたげな書かれ方をしたものも多い。


ライゼルも同じだ。一気に3本のタバコを咥えながら興奮した目つきでウィルの報告書を眺める。


「どうしたんですか?あーあー、抑えてください。今月タバコ代だけでいくら飛ばす気ですか。」


「『スパーーッ』黙ってろ。オレの金は全てこのタバコを吸うためにあるんだよ…ふぅ。ケイトも一本どうだ?」


「その金の使い方見せられて吸いたくなる人なんて居ませんよ…。絶対早死にしますよ。()()()()()()()


『スパーーーーーーー!』


「タバコから一旦離れてください!」


「…ふぅ。」


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