第7話 朝の町・旧型客車
洋館の町の朝、メインストリートの本町通りを駅へ向かって走る。
(朝、眠っていたこの町が、目を覚ます時間が好き。今日はどんな一日になるのか、そんなわくわくした気持ちになれる。それに、今日は―。)
わくわくしながら、駅へ向かう足取りは軽い。
今日は大型連休の最中。
メインストリートから少し外れ、川沿いの綱手道を歩く。
かつてはこの川の水運でも栄えた町。
今でも川沿いには当時からの蔵の町も残っている。
昨日まで降った雨が、タイルの路面に朝の陽ざしを反射させている中、川と水路が分岐する堰を横目に歩いていると、鯉が泳いでいた。
(行ってきます。)
と、微笑む。
駅に着くと、年上の女子大生が跨線橋を渡ってこちらへ来るのが見え、女子大生は自分に気付くと「やっほー」と手を振っていたので、自分もぎこちないが振り返す。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「おはよ!」
と、挨拶しながら横川駅までの切符を買う。
都会の駅で一度乗り換えるのだが、都会の駅からは普通列車で行くのではなく、EF65‐501とEF64‐1053が4両の旧型客車をプッシュプルで牽引する臨時快速列車に乗る。
横川駅には現在、機回し線や転車台が無く、SL等の機関車が牽引する客車列車の場合は方向転換が出来ず、列車の最後尾にも、ピックアップ用の電気機関車やディーゼル機関車を連結する必要がある。
それでなくとも最近は、機関車が牽引する客車列車はほとんどの場合がプッシュプル運転となる。先日、秩父鉄道で乗った電気機関車による臨時列車もプッシュプル運転だった。
その理由として、横川駅や秩父鉄道の熊谷駅のように、線路配置が変わったことで機回し線が確保できなくなったり、操車に関わる作業の効率化のため機回し等の煩雑な作業を省略するためだったりと様々な理由がある。
また、駅で列車を入換する際、誘導に関わる人員に対し、操車手当を支払う必要があり、臨時列車で特に、機関車の付け替え作業を伴う客車列車となれば、電車や気動車以上に手間がかかってその分の操車手当が発生する。
そうした理由から、機関車の付け替え作業が発生しないプッシュプル運転の客車列車が最近では多い。
秩父鉄道の場合は普段から走らせている蒸気機関車と同じダイヤで同じように走っていたのだから、熊谷駅でも三峰口駅でも別に何ら変わりも無い作業をするだけだと思うので、ケチらないで欲しかったが、秩父鉄道の蒸気機関車が脱線事故を起こして損傷し、その修復費を操車手当等から捻出するためにこのような形になったのだろうと思うことにした。
自分と女子大生を乗せた211系は県庁所在地の町を過ぎて、都会の駅にやって来た。
都会の駅に隣接している車両基地の方を見ると、EF65‐501とEF64‐1053が留置線に停車している旧型客車に連結しているのが見えた。
また、今日は使用しない2両の旧型客車の入換作業にDD51‐895が当たっているのが見え、望遠レンズでそれを撮影する。
「君は紅いディーゼル機関車の方が良かった?」
と、聞く年上の女子大生。
気の利いた事が言えない自分。何を言えばいいかと考え、
「自分は今、こうしてお姉さんと列車の旅が出来て楽しいと思っております。」
と、言う。
「ふーん。銀河鉄道999の鉄郎になった気分?なら、私はメーテルで。」
年上の女子大生は微笑んだ。
電気機関車のプッシュプルで、旧型客車が入線してきた。
自分と女子大生は前から3両目の客車に乗る。
SLは物珍しさから観光客も乗るし、親子連れからも大人気なのだが、電気機関車は下手な季節に走らせようものなら余程の鉄道マニアが乗る程度。
今日は大型連休の最中なので、そんなことはなく、車内はまぁまぁな賑わいだ。
機関区にはD51‐498蒸気機関車とC61‐20蒸気機関車が居るが、蒸気機関車が壊れた際にDD51による臨時列車を走らせたら乗客より撮影している人の方が多かった有様だ。
(欲を言えば、DD51の臨時快速列車で温泉地まで日帰り旅がしたいな。)
と思うが、それは口に出さない。
発車時刻になり、EF65‐501の汽笛と共に、列車は都会の駅を離れる。
木の内装。青いビロードを張ったクロスシートの上には網棚。
窓を開けて、外から入って来る風を感じながら、流れて行く景色を見つつ、自分の視線は時折、女子大生に行ってしまう。
「ガタガタガタガタ」と、客車のジョイント音が響く車内は、親子連れ達でワイワイガヤガヤと賑やかなのだが、度が過ぎて、ただの騒音と言うべき喧噪が車内には一杯でまったくもって楽しめない。
(せっかく、お姉さんが誘ってくれたのに―。)
と、思うが、ここまでうるさいと怒鳴り声でも出さなければ女子大生と話せない。
女子大生も徐々にうんざりしてきた様子だ。
おまけに、赤いヘルプマークを付けた障害者の鉄道オタクが女子大生によだれを垂らしたのだからもう大変だ。
ケンカになって車掌が飛んできて車内トラブルに発展してしまった。
自分達はもう嫌になって、途中駅で降りて、元来た道を引き返す羽目になってしまった。




