第31話 出発進行!
企画書を書いて提出した後、EF15の居る貨物ホームの線路の草刈りボランティア、そして、EF15のお色直しイベントは行われ、自分もスタッフとしてそれらのイベントに携わった。
また、紅いディーゼル機関車とEF15を並べて撮影会をする話もどうにかなった。
しかし、自分たちだけの紅いディーゼル機関車の牽引する銀河鉄道の列車については、何の話も無かったため、結局は頓挫して、計画倒れに終わったと思っていた。
(そら見ろ!結局は夢物語だ。)
と、自分は吐き捨てる。
電気機関車とディーゼル機関車のさよなら運転の後、都会の駅を発着する蒸気機関車の列車も走っていないらしい。最も、電気機関車とディーゼル機関車という、蒸気機関車の運転をサポートする存在が無くなってしまっては、走ることは出来ない。出来ても、走ることの出来る場所は限られてしまう。
そして、さよなら運転の事もすっかり遠く感じてしまうようになってしまった。
紅いディーゼル機関車はもう自走で洋館の町には来ない。
いや、北関東で旅客列車を牽引することはない。
時折、エンジンをかけて整備はしているらしいが、事業列車の牽引も無くなるのだから意味は無いだろう。
現に、紅いディーゼル機関車の一両、DD51‐895は予定通り秋田車両センターへ回送され、廃車待ちになったらしい。
心の中に、大穴が空いた状態である。
そして、それは本当に突然だった。
「都会の駅に来て!」
と、しおりさんが連絡を寄越したのは、灯り祭りの期間が終盤くらいになった時だった。
学校でその連絡を受けた。今日は、バイトも無い。最も、しおりさんには、自分のバイトの日は把握されている。
今日は、お掃除イベントの特典でもある、紅いディーゼル機関車DD51の撮影会を洋館の町の駅で開催予定だが、GV‐E197系に引っ張られてやって来るため、自走では無い。
茶々入れや、ちょっかい出しの男達を蹴飛ばして、自宅に帰って、制服から私服に着替え、川沿いの道ではなく、メインストリートを自転車で駅まで行くと、ギリギリ、都会の駅に行く普通列車に間に合い、飛び乗って都会の駅に向かう。
(なんだろう?)
と、自分は思う。
秋も深まり、両毛線の沿線はすっかり日暮れ。
西の空は茜色。その、茜色の空に向かって、6両編成の211系はひた走る。
県庁所在地の駅を過ぎ、川を渡って、上越線と合流し、信越本線と合流し、新幹線の線路を潜って都会の駅に着いた。
しおりさんに連絡して改札口の脇の、駅事務室の入口にしおりさんを見つけた。どういうわけか、先日のカンナとアヤの姿もある。
「今日はどうして?今日は、DD51とEF15のイベントです。それも夜間撮影会の―。」
「旧型客車も持って行くよ。」
しおりさんがニヤリと笑って言う。だが、自分の撮影会の企画書に、旧型客車を入れた覚えはない。
撮影会とは別途で団体列車を企画し、これを自分達だけの銀河鉄道にするつもりだったのだが。
「私とアヤとで、ちょっと手を加えたのよ。旧型客車を2両か3両入れられないかって。貨物ホームの機回し線の有効長的に、2両だったらEF15と並べても大丈夫って判明したから、2両繋いで、これから、都会の駅からDD51と一緒に洋館の町まで運んで、貨物ホームの隣の機回し線で撮影会になったのよ。」
「で?自分にどうしろと?まさか、トラックで運ぶの手伝えとでも?」
「はいこれ。」
と、しおりさんは何かを渡す。それは特別乗車券と書かれた切符だ。
「これは―?」
「空っぽで運ぶわけ無いでしょう?ほんとのほんとの、ラストランよ!」
「まさか―。あれを本当に?」
自分は腰を抜かした。だが、実際にはそうではない。
「旧型客車1両は、旅行商品として売り出し、それを買った旅客が乗るんだ。でも、リオナとしおりさんは、完全に貸し切りの1両に乗るのよ。」
と、アヤ。
「まぁ、俺とアヤも乗っちまうんだけど―。」
カンナは頭を掻く。
状況がまるで飲み込めないままだ。
大体、そんな話聞いてないし、そんな事、出来るわけない。
しかし、旅行商品として購入した他の旅客やJRの職員が集まって来た。
JR職員に先導され、都会の駅の臨時ホームに降りると、都会の駅の機関区の方に電車のヘッドライトとは違う、鋭くも寂し気なヘッドライトと赤い入換灯を付けている列車が見え、「ピッ!」と短く、ガラスの笛のような汽笛が聞こえたと思えば、まもなく、紅いディーゼル機関車が2両の旧型客車を牽引して、臨時ホームに入線してきた。
何度も疑った。
だが、現に目の前には、DD51‐842が牽引する2両の旧型客車の列車が居る。
疑いながら、それを撮影するが、本当にやっていいのだろうか?
(バカな!洋館の町の駅の入線確認は!?それに、GV‐E197系に引っ張られてやって来ると言うのでは無かったのか!?)
等、いろいろな事が交錯する。
「細かい事は気にしない。さっ乗るよ!」
気が付くと、自分だけが臨時ホームに取り残されていた。
しおりさんがドアの所で、手を伸ばしている。
出発信号機が進行を現示し、ホームではベルが鳴る。
「ほらほら!早く乗って!置いて行っちゃうよ!」
「-。ええい!もうどうにもなれ!」
しおりさんの手を取って、自分は列車に飛び乗った。
ドアが閉まる。
DD51が夕暮れの都会の駅に、ガラスの笛のような汽笛を響かせ、ゆっくりと列車は一揺れして発車した。