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第20話 さようならの覚悟

 自分はその後も、うるさい横槍を寄越す連中の話は聞いている振りをして聞き流しながら、ジオラマの設計、そして、可能なところから制作を進める。


 その最中、例のさよなら運転の日程がJRより発表された。


 一足先に、電気機関車がさよなら運転を行った後、紅いディーゼル機関車こと、DD51のさよなら運転が行われるらしい。


 一回だけではなく、数ヶ月間に複数本のさよなら運転が行われ、前半で電気機関車、又は電気機関車とディーゼル機関車のプッシュプル運転。後半はディーゼル機関車がメインと言う形になるらしいが、その中にまで蒸気機関車が出しゃばって来る場面もあるのが気に食わない。


 そして、同時に、ジオラマの製作のタイムリミットが発表され、それは同時に紅いディーゼル機関車とのさようならの日でもあった。

 紅いディーゼル機関車の最後の運転が行われる3連休の後半2日間が、さよならイベントであり、自分が誘いを受けたイベントは、実は紅いディーゼル機関車のさよならイベントなのだ。


 設計図はどうにか、うるさい奴等の目を盗みながら完成し、後はそれを元にジオラマを作っていくだけだ。


 駅前のパン屋で廃棄する発泡スチロール製の薄い板と補強として同じく廃棄する段ボールとを基盤として利用し、ジオラマの基盤を作ると、その上に線路を敷設していく。線路は、KATOの線路を使用し、自宅からしおりさんの車で持ってきた、自宅のジオラマと接続する等、設計図通りに仮で敷設し、通電試験を行っていると、しおりさんが見に来た。


「一日で線路敷いたんだ。」

「いえ。これは仮で線路を敷いただけで、ポイントや転車台が正常に動くか、実際に列車が走れるかを点検しているのです。うるさい奴等の横槍対策で増築するトンネルへ登る登り勾配と地下トンネルからの出口の部分は、分岐器こそ設置しましたが、まだ線路を敷いていません。こちらには列車は走らせないのですが、これのせいで本線の列車の運転に支障を来す事があっては嫌ですので。」


 言いながら自分は、試運転列車として、DD51‐842を単機で走らせ、続いて、重連運転が基本となることから、DD51‐842とDD51‐895の重連。そして、本運転向けにDD51重連と2軸貨車数両の列車を走らせた。


 特に支障は無し。


 メインの駅の機関区も支障無し。


 本物の鉄道なら、マヤ34やオヤ31等の試験車が走るのだが、何もそこまで再現しなくてもいい。最も、実際にジオラマが組み上がったら、オヤ31通称「オイラン列車」を走らせるが。


 最近、SNSを始めたこのパン屋。しおりさんはジオラマを作る様子を写真付きでSNSにアップしていた。

 山や川、そして地面といった基礎部分、線路の仮敷設、建物の配置が終わって、今日は終了。

 しおりさんは車で自分と夕食に出かけた後、町の裏山の水道山に連れて行く。


 既に夜の帳が降りた町。

 デネブ、ベガ、アルタイルと言った、夏の大三角形を構築する星々が南天の空にあるが、駅近くのドン・キホーテ等のネオンの灯りが眩しい。


「あっちゃぁ見えないかぁ。」


 と、しおりさん。

 実は今、夜空に彗星がやってきているのだが、まだ近日点を通過していないため、明るさは4等級。近日点通過時には2等級まで明るくなるだろうが、こうも町灯りが多い中から肉眼で見つけるのは困難だ。


 そして、街の灯りの中に列車がやって来た。

 それは、紅いディーゼル機関車や電気機関車の後継機として、JRが導入したGV-E197系気動車。旅客を乗せるのではなく、それまで、紅いディーゼル機関車ことDD51や電気機関車のEF65‐501、EF64‐1001、EF64‐1053がやっていた事業列車や配給列車の牽引を担う事業車だ。

 これの投入で、老朽化が進む紅いディーゼル機関車や電気機関車は全部引退することになったのだ。

 だが、この車両はDD51が単機で牽引出来た列車を牽引するために、列車の前後に2両連結する編成を組む。駅での操車を省略するためという目的もあるが、常にこの車両は2両で1ユニットを組んでいる。蒸気機関車の配給輸送の際も重連を組んでいた。

 理由として、そうしなければ必要な牽引力が得られず、2両繋いでやっとDD51の半分の牽引力という有様だというのだ。


「さようならの覚悟をしなければなりませんが、後継機があんなのでは。」


 と、自分は肩を落とす。


「私も、小さい頃から見て来た、当たり前が無くなるのは寂しい。前走っていた115系みかん電車の時、そうだった。でもあの時は元々211系も走っていて、みんな211系になったのだけど、今回はいきなり新参者のポンコツがやって来て、いきなり皆殺し。そりゃ来るよね。」

「先日、EF55が都会の駅の機関区でしばらくほったらかしにされた後、鉄道博物館に入りました。EF55だって普通に走っていたのに、いきなりですもん。それに、EF60‐19号機に関しては、なんのさよならイベントも無く、EF55を鉄道博物館に運んで、そのまま長野総合車両センターに持って行かれて、いきなり解体されてしまいました。その前には、DD51‐888と897もです。そう考えると、さよならイベントが行われるだけ良かったと思います。そのためにも、ジオラマはしっかり作りたいです。」


 言いながら自分は、自宅で作っているジオラマの建物の写真を見せる。


 洋館の町を出来る限り再現しようと、駅前のパン屋、公民館、銀行、教会といった建物だ。洋館の町の建物の中には、どうしても市販品では再現できない物がある。そうした物は自分で作るしかない。


「あの、ジオラマですが、ずっとパン屋に置いておいて欲しいです。それで、DD51を走らせていたいです。そうすれば、ジオラマの世界の洋館の町と銀河鉄道の世界をDD51が走れるので。」

「ロマンチストね。リオナ。」

「我儘なだけです。」

「ちゃんと、自分の世界と自分の軸がブレないのは良い事よ。」


 と、しおりさんは笑う。


「紅いディーゼル機関車や電気機関車と、さようならの覚悟は出来てる?」


 と、しおりさんが聞くが、自分は正直言って、覚悟どころか、いなくなると言う実感すらわかず、首を横に振った。


「だよね。私も、出来ないなぁ。」


 しおりさんがくすぐったそうに笑ったので、自分も釣られて笑ってしまった。


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