第1話 科学と創作と
物理学の授業。
教授は振り子の鉄球を離す。
鉄球の先にはガラス瓶。鉄球はそれを粉々に砕いた。
そして、教授は振り子の鉄球を掴み言った。
「この鉄球の位置エネルギーはここで放しただけだからこれ以上増える事は無い。したがって、ガラス瓶を砕いたこの鉄球が、この高さ以上に来ることは無い。本当にそうかやってみようではないか。」
教授は言うと、鉄球を自分の顎から1㎝の位置で持ってそのまま離した。
鉄球は振り子を駆け上がって来る。
その先にある教授の顔。
だが、教授の1㎝の位置まで鉄球は駆け上がって来たところで止まった。
教授の顔は無事である。
「これが物理学だ!」
こんな授業なら、誰だって興味を示す。
こんな高レベルの授業を受けるため、自分はこの辺りでは最も優秀な学校に入学した。
しかし、入ってみて直ぐに失望した。
優秀というのは数字だけ。中身は酷い物だ。
授業を受ける生徒は皆、まともに授業を受けてはおらず、内職をしたり、雑談猥談をしたり、教授達も高レベルな授業をするとは名ばかりに、結局は自分の主義主張を生徒に押し付けているだけ。
こんなので、よく進学校と名乗っていられるなと、自分は吐き捨てる。
そして、こんなことをやっているから、生徒の大半はまともに授業を受けないのだろう。
内職をやっている奴の大半は、外部の塾の課題や赤本を見たり、問題を解いたり。
雑談や猥談をしている奴等はやる気も無いポンコツだ。
自分も結局は、授業こそまともに受けているように見せているだけ。
見ているのは、マサチューセッツ工科大学の物理学の教科書を日本語に翻訳した物。
宇宙物理学や天文学が好きな自分の将来の夢は、JAXAの職員、天文学者、宇宙飛行士と、その分野で活躍する事なのだが、最近はそれすら見失った。
典型的な理系。であるように見えるが、そうでもない。
時に、文学作品を読む事もあり、また、鉄道でふらりと旅に出る等、鉄道好きという一面もある。
昼休み、昼食を食べ終えた自分は、宇宙物理学や天文学、文学、鉄道。そうした要素が全て詰まっている作品を引っ張り出す。
宇宙物理学の要素にSFの要素が合わさった『銀河鉄道999』と、夢のある発想と科学を掛け合わせた『銀河鉄道の夜』。どちらも好きだ。
今日は星座早見盤を片手に『銀河鉄道の夜』を読む。
いや、このところは『銀河鉄道の夜』ばかり読んでいる。
それも、星座早見盤を片手に。
(空の星の光で作られたこのような世界、望遠鏡を覗けば見られるのだろうか?いや、それは宇宙物理学や天文学を学んでいく内にそのような物はないと分かっている。)
自分はとんでもない事を考えている。
創作の世界である『銀河鉄道の夜』や『銀河鉄道999』のような世界、特に『銀河鉄道の夜』の世界を見たいと。