プロローグ
朝の機関区。
まだ冷え込む朝、機関車の煙突からは白煙が出る。
まだ静かに眠っている町を、夜行列車が目的地へ向けて走っている。
夜行列車と言っても、いわゆるブルートレインの他、貨物列車もそれにあたる。
いわゆるブルートレインは現世では既にその姿を消し、夜行列車として走っているのは貨物列車ばかりだが、この世界ではブルートレインも、座席車による夜行急行列車も現役だ。
扇型車庫から腰を上げるようにゆっくりと出庫する無骨な機関車。
ゴツゴツした不格好な見た目だが、力持ち。
この後、機関車を交換する夜行列車の先頭に立つ。
今回は機関車を2両連結した重連運転だ。
機関区の中で重連を編成し、出区合図に従って機関区を出区。
駅の外れの待避線で、列車を待つ。
やがて、山の方に向かうループ線の先に見えるトンネルの中からヘッドライトの灯りが見えた。
青色の直流電気機関車EF63の重連と、EF62を本務機とした3重連の列車だ。
駅構内の踏切警報機が鳴動。
まもなく、夜行列車は駅に入線してきた。
客車は14系寝台車3両と14系座席車5両。
8両編成の客車に対し、機関車がなぜ3両も連結されていたか。
それは、この駅でこの鉄道路線は2方向に別れるのだが、その内の1方は空に開いた石炭袋のトンネルの中や抜けた先にある、最大勾配66.7パーミルという急勾配に挑むため、客車列車、電車共に、補助機関車EF63重連の助けを借りるからだ。
3両の電気機関車が夜行列車から切り離されると、待避線にいた機関車が夜行列車に向かって進み、ゆっくりと連結する。
その横では、先ほど峠を下って来た電気機関車が機関区に向かって行く。
駅のホームの先の出発信号機は赤の停止現示。
その出発信号機の向こうから、対向列車がやって来る。
EF64の1001号機と1053号機の重連による貨物列車だ。
この駅の周囲にも、急勾配区間が多数ある。
特に、上り列車は双子星の宮の先に最大25パーミルの急勾配の区間があり、上り列車の大半は重連運転。下り列車も一部は単機でやって来る事もあるが、半分以上は重連運転である。
貨物列車が駅構内に入って来て停車したと同時に、夜行列車の出発信号機は緑の進行現示となる。
短いホイッスルを鳴らし、紅いディーゼル機関車、DD51重連が牽引する夜行列車が出発する。
この列車の重連は、先頭を走る前補機がDD51‐842。次位の本務機がDD51‐895。
この世界で、蒸気機関車の姿はあまり見かけない。
この世界が創られた当初から、蒸気機関車が姿を見せる事は殆どない。
明治大正昭和初期の洋館や木造建築の建屋の町の機関区には、EF53、EF58、EF65と言った旅客用電気機関車。EF15、EF16、EF64と言った貨客両用型にして山岳用電気機関車。石炭袋のトンネルの最大勾配66.7パーミルの急勾配に挑む専用機関車EF62と補助機関車EF63。そして、汎用型ディーゼル機関車DD51とDE10の姿がある。
夜行列車が発車した駅と機関区は朝を迎える。
まもなく、この駅は朝の通勤ラッシュが始まるのだろう。