⑬プールサイドにあったうどんの自販機
某公共放送での人気番組であろう『ドキュメント72時間』や、YouTubeの動画などで見かけましたが、レトロ自販機って昨今、一部で受けているようですね。
いかにも昭和っぽい、垢抜けないイラストやカラーリング(古いせいで彩色自体が褪めていたりもするので、余計にレトロっぽい雰囲気がありますし)で彩られた、機械なんだけど何だかアナログっぽいと感じさせる、レトロな自販機の数々。
販売されているのは飲料やお菓子(ガムやチョコレート)、○ップヌードル(単に品物が出てくるだけでなく、お湯の提供可。そう言えば子供の頃、たまに見かけました。比較的最近では、夫の出身地へ法事で帰省する際、フェリーの中でこの自販機を見ましたね。息子はこの風変わりな自販機を喜び、シーフー○ヌードルを買って食べました)等々。
ハンバーガーだのホットドッグだのフライドポテトだのラーメンだの、場合によってはアルミ箔に包んだホットサンド(自販機のオーナーである近所のパン屋さんが作ったものを、毎日、入れているだけっぽい雰囲気でした。ただ、スタンバイ中は冷蔵していて、提供時に温める機能はある様子。昭和の頃、パン屋さんが余った食パンでフレンチトーストやホットサンドなどを作って店頭で売ってるのの自販機版、という感じ)等の自販機も紹介されていました。
さて。
家族と一緒に漫然と画面を見ていた私は、その中に『うどん そば』と書かれたレトロ自販機があるのを見つけ、思わず
「あっ」
と小さく声を出してしまいました。
古い思い出の中、(私は)そこでしかほとんど見たことのない、『うどん そば』の自販機。
夏の思い出のひとつとして記憶の底にある自販機と、それは、同じ型の自販機だったのです。
どこかで書いたような気がするのですが、ウチの父は癇癪持ちの、マイルドジャイアニズム(今、適当に作った造語。腹には何もないがやや自己中で、ご機嫌を損ねると面倒くさい人物を表す)な人ではありますが、意外にも子煩悩で、幼児期・児童期の私や弟の子守りを自ら買って出る『いいお父さん』でもありました。
日曜ごとに私の手を引いて『散歩』へ連れ出し、帰り道の喫茶店で色々と食べさせてもらった思い出も、こちらへ書かせていただきました。
( 『⑥ ごく私的・懐かしの喫茶店グルメ』参照)
でもその思い出は主に、春や秋など気候のいい頃、もしくは冬。
盛夏には、近くにある市営プールへ連れて行ってくれたものです。
私が子供の頃、自転車なら10分かかるかどうかという場所に、市営のプールがありました。
今は残念ながらありません。
設備も老朽化していたでしょうし、子供の数が減ったのに比例してお客が減ったでしょうから、経営が苦しくなったのかもしれませんね。
市営でしたし、有体に言えばしょぼいプールでしたけど、昭和を生きる小学生には十分、華やいだ場所でした。
ロッカールームで着替え、中央入口からプールの敷地へ入ると、子供向けのごく浅い、楕円に近い大きな水遊びプールが正面にでんとあり、その右手には小学生中学年以上が対象の、やや浅めの25mプールが。
一般向けの25mプール(時々、競技会に使われていた記憶がありますから、公式に則った競技用プールとして作られていたのでしょう)が、それらの裏手といいますか、反対側にありました。
当時は子供でしたし、水遊びは好きだけど泳ぎはへたくそだった私、小学校の低学年くらいまで、水遊びプールの方で楽しんでいました。
浮き輪につかまり、プール内をウロウロ・バシャバシャしているだけで、後のかわかみれいたる女児の脳内で、アドレナリンが噴出していただろうと今になって思います。
何がそんなに楽しかったのか、水に浸かってバシャバシャしているだけで、ただただもう嬉しかった、そんな記憶がぼんやりあります。
基本、父は私の好きなように遊ばせてくれましたけど、時々
「休憩せえ」
と声をかけてくることがありました。
私自身は気付いていませんでしたが、憑かれたようにプールでバシャバシャやって一向に出てこない、幼い娘の健康状態が気になったのでしょう。
「しんどいやろ。休憩せえ。こっちへ来い」
別にそんなにしんどくないんやけどな~、と思いつつ、私は父の言葉に従います。
何といっても、彼はスポンサーですからね(笑)。
連れていかれた先は、プールから少し歩いた先にある売店や自販機がある軽食&休憩のコーナー。
アメリカンドッグやフライドポテト、かき氷の屋台っぽいものがあり、それ以外は各種自販機があって、泳ぎ疲れたお客たちがめいめい、好きなものを買って飲食していました。
わざとらしいくらい派手なパラソルの下にある、安物っぽい白いテーブルと椅子のセット。
そのうちの適当なところへ私を座らせ、父は、『うどん そば』と書かれた自販機へ百円玉を投入します。
(え? うどん? ……アメリカンドッグの方がエエねんけど)
と内心思いつつ(笑)、大人しく待つ私。
この頃になると、さすがに自分が空腹になっているのに気付きます。
(プールは午前中に行くことが多かったので、すでにお昼前になっていた筈)
うどんが来ます。天ぷらうどんでした。
大して期待しないまま、それでもお腹が空いていますから、私は喜んで箸を取ります。
一口すすり……
(メッチャ美味しい!)
と、思いました。
いえその、取り立ててすごいうどんだった訳ではありません。
お湯でほぐしたゆでうどんにヒ○シマルのうどんスープっぽい感じの出汁がかかり、乾燥した感じのかき揚げと乾燥ネギ、というトッピングがのった、まあぶっちゃけ『いかにも自販機テイスト』なうどんでした。
でも美味しかったのです。
ものも言わずに私は、一椀の天ぷらうどんをあっという間に完食しました。
以来、プールへ来た時の軽食は、自販機のうどん(天ぷら)に決定!
泳ぎ疲れた身体に、文字通り『五臓六腑にしみわたる』感じで出汁が全身にしみわたり、麺と天ぷらがダイレクトに『カロリー摂取してます!』的な満足感を与えてくれます。
少なくとも小学校の中学年……三、四年生くらいまで(さすがに水遊びプールは卒業し、子供向けの25mプールで遊ぶようになりました。浮き輪なしで泳げるように、我流で練習もしました)は、同じような感じでプールを、自販機のうどんを、楽しんでいた記憶があります。
いつしか父とプールへ行くこともなくなり、プールそのものも閉鎖されてしまいましたが。
とにかく楽しかったプールでの思い出と、やたらと美味しかった自販機の天ぷらうどんの味は、今でもぼんやりと記憶の底に残っています。
ここまで、個人的な思い出話にお付き合い下さって、ありがとうございました。
おもいで食堂、これにて閉店いたします。




