表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

⑬プールサイドにあったうどんの自販機

 某公共放送での人気番組であろう『ドキュメント72時間』や、YouTubeの動画などで見かけましたが、レトロ自販機って昨今、一部で受けているようですね。

 いかにも昭和っぽい、垢抜けないイラストやカラーリング(古いせいで彩色自体が褪めていたりもするので、余計にレトロっぽい雰囲気がありますし)で彩られた、機械なんだけど何だかアナログっぽいと感じさせる、レトロな自販機の数々。

 販売されているのは飲料やお菓子(ガムやチョコレート)、○ップヌードル(単に品物が出てくるだけでなく、お湯の提供可。そう言えば子供の頃、たまに見かけました。比較的最近では、夫の出身地へ法事で帰省する際、フェリーの中でこの自販機を見ましたね。息子はこの風変わりな自販機を喜び、シーフー○ヌードルを買って食べました)等々。

 ハンバーガーだのホットドッグだのフライドポテトだのラーメンだの、場合によってはアルミ箔に包んだホットサンド(自販機のオーナーである近所のパン屋さんが作ったものを、毎日、入れているだけっぽい雰囲気でした。ただ、スタンバイ中は冷蔵していて、提供時に温める機能はある様子。昭和の頃、パン屋さんが余った食パンでフレンチトーストやホットサンドなどを作って店頭で売ってるのの自販機版、という感じ)等の自販機も紹介されていました。


 さて。

 家族と一緒に漫然と画面を見ていた私は、その中に『うどん そば』と書かれたレトロ自販機があるのを見つけ、思わず


「あっ」


 と小さく声を出してしまいました。

 古い思い出の中、(私は)()()でしかほとんど見たことのない、『うどん そば』の自販機。

 夏の思い出のひとつとして記憶の底にある自販機と、それは、同じ型の自販機だったのです。



 どこかで書いたような気がするのですが、ウチの父は癇癪持ちの、マイルドジャイアニズム(今、適当に作った造語。腹には何もないがやや自己中で、ご機嫌を損ねると面倒くさい人物を表す)な人ではありますが、意外にも子煩悩で、幼児期・児童期の私や弟の子守りを自ら買って出る『いいお父さん』でもありました。

 日曜ごとに私の手を引いて『散歩』へ連れ出し、帰り道の喫茶店で色々と食べさせてもらった思い出も、こちらへ書かせていただきました。

( 『⑥ ごく私的・懐かしの喫茶店グルメ』参照)

 でもその思い出は主に、春や秋など気候のいい頃、もしくは冬。

 盛夏には、近くにある市営プールへ連れて行ってくれたものです。



 私が子供の頃、自転車なら10分かかるかどうかという場所に、市営のプールがありました。

 今は残念ながらありません。

 設備も老朽化していたでしょうし、子供の数が減ったのに比例してお客が減ったでしょうから、経営が苦しくなったのかもしれませんね。


 市営でしたし、有体に言えばしょぼいプールでしたけど、昭和を生きる小学生には十分、華やいだ場所でした。

 ロッカールームで着替え、中央入口からプールの敷地へ入ると、子供向けのごく浅い、楕円に近い大きな水遊びプールが正面にでんとあり、その右手には小学生中学年以上が対象の、やや浅めの25mプールが。

 一般向けの25mプール(時々、競技会に使われていた記憶がありますから、公式に則った競技用プールとして作られていたのでしょう)が、それらの裏手といいますか、反対側にありました。

 当時は子供でしたし、水遊びは好きだけど泳ぎはへたくそだった私、小学校の低学年くらいまで、水遊びプールの方で楽しんでいました。

 浮き輪につかまり、プール内をウロウロ・バシャバシャしているだけで、後のかわかみれいたる女児の脳内で、アドレナリンが噴出していただろうと今になって思います。

 何がそんなに楽しかったのか、水に浸かってバシャバシャしているだけで、ただただもう嬉しかった、そんな記憶がぼんやりあります。



 基本、父は私の好きなように遊ばせてくれましたけど、時々


「休憩せえ」


 と声をかけてくることがありました。

 私自身は気付いていませんでしたが、憑かれたようにプールでバシャバシャやって一向に出てこない、幼い娘の健康状態が気になったのでしょう。


「しんどいやろ。休憩せえ。こっちへ来い」


 別にそんなにしんどくないんやけどな~、と思いつつ、私は父の言葉に従います。

 何といっても、彼はスポンサーですからね(笑)。


 連れていかれた先は、プールから少し歩いた先にある売店や自販機がある軽食&休憩のコーナー。

 アメリカンドッグやフライドポテト、かき氷の屋台っぽいものがあり、それ以外は各種自販機があって、泳ぎ疲れたお客たちがめいめい、好きなものを買って飲食していました。

 わざとらしいくらい派手なパラソルの下にある、安物っぽい白いテーブルと椅子のセット。

 そのうちの適当なところへ私を座らせ、父は、『うどん そば』と書かれた自販機へ百円玉を投入します。


(え? うどん? ……アメリカンドッグの方がエエねんけど)


 と内心思いつつ(笑)、大人しく待つ私。

 この頃になると、さすがに自分が空腹になっているのに気付きます。

(プールは午前中に行くことが多かったので、すでにお昼前になっていた筈)

 うどんが来ます。天ぷらうどんでした。

 大して期待しないまま、それでもお腹が空いていますから、私は喜んで箸を取ります。

 一口すすり……


(メッチャ美味しい!)


 と、思いました。


 いえその、取り立ててすごいうどんだった訳ではありません。

 お湯でほぐしたゆでうどんにヒ○シマルのうどんスープっぽい感じの出汁がかかり、乾燥した感じのかき揚げと乾燥ネギ、というトッピングがのった、まあぶっちゃけ『いかにも自販機テイスト』なうどんでした。

 でも美味しかったのです。

 ものも言わずに私は、一椀の天ぷらうどんをあっという間に完食しました。


 以来、プールへ来た時の軽食は、自販機のうどん(天ぷら)に決定!

 泳ぎ疲れた身体に、文字通り『五臓六腑にしみわたる』感じで出汁が全身にしみわたり、麺と天ぷらがダイレクトに『カロリー摂取してます!』的な満足感を与えてくれます。

 少なくとも小学校の中学年……三、四年生くらいまで(さすがに水遊びプールは卒業し、子供向けの25mプールで遊ぶようになりました。浮き輪なしで泳げるように、我流で練習もしました)は、同じような感じでプールを、自販機のうどんを、楽しんでいた記憶があります。



 いつしか父とプールへ行くこともなくなり、プールそのものも閉鎖されてしまいましたが。

 とにかく楽しかったプールでの思い出と、やたらと美味しかった自販機の天ぷらうどんの味は、今でもぼんやりと記憶の底に残っています。

 ここまで、個人的な思い出話にお付き合い下さって、ありがとうございました。

 おもいで食堂、これにて閉店いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うどん自販機のエッセイを探した結果、他のお話もおいしそうでおもしろそう……! と一気読みさせて頂きました(`・ω・´) 追憶の中の美味、というコンセプトが素晴らしいですね。 あの頃はたまらな…
[一言] 完結お疲れ様です! 泳いで疲れたあとの温かいうどん、きくだけでめっちゃおいしそう!
[一言] 完結おめでとうございます! 泳いで疲れたというのが、最高のスパイスになっているのでしょうね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ