⑨ ストーブで焼くお餅
私が幼い頃、冬の暖房機器といえば炬燵とストーブでした。
炬燵は、赤外線炬燵などと銘打った電気炬燵が一般的。
食卓兼用になるやぐらを組んだ真ん中に、赤く光る瓜状のランプっぽいのが二本、やはり赤っぽく塗られた網に覆われ取り付けられていましたっけ。
やぐらの高さの半分近くまで厚みのある、妙に出っ張ったものでしたが、炬燵布団の内を覗くと赤い光がボヤっと灯っているアレは、なかなか趣のある暖房器具でした。
最近は炬燵の中も赤い光が灯らなくなりましたね。
光に電力を使わず、効率よく暖めるには赤い光を灯らせる必要ないのでしょうけど。
昭和の子供としては、合理面では省エネ大賛成ながら情緒的には、赤く光らない炬燵に物足りなさを感じます(笑)。
そして、昭和の暖房器具として一番普及していたのは。
石油ストーブ、ではないでしょうか?
ストーブの本体にあるタンクへ、灯油ポンプでシュコシュコやって灯油を入れ、マッチを擦って灯油の染みた芯へ火を点けるという、子供が幼い場合『危ないから絶対触るな』と大人から厳命される、暖房器具です。
危険は色々ありましたが(火そのものが危ないのはもちろん、灯油の扱いも気を遣いますし、少し換気が悪いと一酸化炭素中毒を起こしたりしますし。実際、たまに気分が悪くなったりしましたね~、一酸化炭素中毒までいかないでしょうけど酸素は薄くなりがちでしょうから)、暖かさは断トツでした。
火というのはすごいものだと、子供心にも実感できる暖房機器でした。
そんなストーブの上に、部屋の乾燥防止のために水の入った薬缶が乗せられ、しゅんしゅん蒸気を出している……、のが定番の眺めでした。
(今は危険だからと推奨されないかもしれません)
時には煮込み料理やお粥を煮る小さな土鍋(粥鍋)などが、薬缶の代わりに乗せられたものです。
風邪をひいて熱を出した時などに、ストーブの上に乗せられた土鍋で作ったお粥は、なぜか特別に美味しかったような気がします。
さてさて。
ストーブで煮たり焼いたりの中で、子供にとっての花形?は。
やはりお餅でしょう。
私が小学生くらいまで、年末になると健在だった母方の祖母がどっさり、餅を送ってくれました。
シンプルな白い餅だけでなく、青のりを混ぜたものや真っ赤な干しエビを混ぜたもの、クチナシの実で黄色に染めたもの、陳皮(要するに、干して細かくしたミカンの皮)を少し混ぜたものなど、実にバラエティ豊かな丸餅が送られてきたものです。
蒸かした餅米に砂糖を少し加えて作られたらしい、ほんのりと甘みのあるお餅もありました。
母方の田舎ではその当時、自宅でたくさん餅をつくのが普通だったようで、ウチへどっさり送ってくれてもまだ余るくらい、作っていたようですね。
それでも、年を追うごとに量も種類も減ってゆきました。
伯父伯母も徐々に、作るのをやめていったのでしょう。
時代の変化なのか、餅を喜んで食べる人が減ってきた(実際ウチの弟はあまりお餅が好きではなさそうですし、息子も好んでは食べません。伯父伯母の孫世代が好んで食べるとも思えませんから、自然と餅をつく気力も湧いてこなくなるでしょう。餅好きなのは私より上の世代のようですね……極私的な調査結果ではw)ようでもありますし、祖母も伯父伯母も年を取り、そんなにお餅を食べられなくなったのもあるでしょう。
いつしか送られてくることもなくなってきました。
寂しい話が先行しましたが、潤沢にお餅が手に入った頃のことを語りましょう(笑)。
祖母から餅がたくさん詰まった小包が届くと、私は早速、ウキウキと4~5個、母からお餅をもらいます。
そして、赤々と燃えているストーブの上に、それらを慎重に、落ちないように並べてゆきます。
餅焼き用の網とか、特に用意はしませんでしたね。
ストーブの上に乗っけるだけでした。
それでも自分で調理(笑)して食べられるおやつに、私のテンションは上がります。
ちょっと焦げ目がつく程度まで、ゆっくりじっくり、焼いてゆきます。
時々、いきなりぷっくりと丸くふくれ上がり、ストーブの上から転がり落ちる時も。
床に落ちる前に慌てて受け止めようと手を伸ばします。
(有体に言って、落ちることもしばしば。基本は3秒ルールを発動し、気にしないことに。もちろん埃がついていたら諦めますよ)
若干粒が残る感じでついた、お米の味が濃いお餅。
焼き立ての熱々をすぐ、かぶりつきます。
美味しかったですね。
お醬油やきなこをつけなくても、ただ焼いただけで十分、美味しかったです。
エアコンやファンヒーターが、最近の暖房器具の主流かもしれません。
しかし、取り扱いに煩わしい部分が多くても、ストーブというのもなかなかいいものです、二酸化炭素はたくさん出るかもしれませんけど。
暖房と簡単な調理が一緒に出来るというのが、子供……少なくとも後のかわかみれいである女児にとっては、目覚ましくも楽しかったですね。
これ、欧米だったら暖炉の火で串に刺したマシュマロをあぶって食べるのに、近い感覚かもしれません、知らんけど(笑)。
オシャレ度では負けますが、楽しさはきっと同じでしょうね。