番外編・コロナ罹患中、結局一番美味しかったもの
幼少期の、思い出の美味しいものもいいですが。
割と最近の、そしてもう二度と同じテンションで食べられない――あるいは食べたくない、美味しかったものがあります。
番外編として、今回はその話をしてみましょう。
去年、つまり2022年の2月初旬。
世間は新型コロナのパンデミックで、どこの病院の発熱外来もいっぱい。
しかしPCR検査キットが日本中で品切れしたため、1週間ばかりはどこの病院もクリニックも発熱外来が休止状態だった頃のこと。
不幸にも、我が家へコロナがやって来ました……。
最初は息子が、学校からもらってきました。
(実際、息子のクラスはほどなく学級閉鎖 → 続けて学年閉鎖になったほど『発熱の為に欠席』の生徒が多かった)
ただ、彼はピッチピチの若者だったからか、発熱して2日ばかりでほぼ完治。
彼が治った頃、お約束のように両親である我々夫婦が発症しました。
息子はぎょっとするほどの高熱(一度、40℃を超えて心配しました)を出し、1日半ほどダウンしていましたが、それでも私が慌てて買ってきたアイスクリームなどをバクバク食べ、『美味い』とか言ってましたから『コロナじゃないかも?』と、その時は夫と話していました。
コロナの有名な症状『においや味がわからなくなる』が、まったく彼には当てはまりませんでしたし、咳もくしゃみも特になかったのです。
熱が出て、鼻水が少々。
ただの風邪かなあ、と油断していました。
息子が発症したのは土曜日。
日曜の午後遅くくらいまでは38℃半ばほどの熱でしたが、日曜の昼頃から、おかゆだのうどんだのの病人食はノウサンキュウ。
普通の食事をご所望でした(さすがに量は普段より少なめ)。
白身魚の切り身を甘辛く煮付けたものとか炒りたまごだとか煮た野菜だとか、比較的胃に優しそうなものを用意します。
『美味い』と出したものをすべて平らげ……日曜の夜には37℃半ばほどに下がったので、こりゃコロナじゃなさそうだなと家族全員、能天気に思っていました。
翌月曜日。
息子は限りなく平熱に近い微熱(37℃前後)まで下がり、食欲もほぼ普通に。
週が明けても病院は相変わらず、発熱外来は受付休止状態。
まあでも、この分ならばコロナでもなさそうだし別にいいか、念のために今週は学校を休ませて……、などと話していたら学級閉鎖のお知らせが。
天下御免(笑)で休めることになりました。
しかしその頃から、まずは夫、続けて私と微熱が出始めたんですよ。
いや~な予感がしてきました。
でも、薬局はもちろんネットでも検査キットは売り切れ状態ですから、コロナかどうか確かめるすべはないまま。
発熱外来をやっている病院をネットで探すものの、検査キットがないため受付を休止していますという病院ばかり。
仕方なく自宅で安静にしていましたが、我々の微熱は一向に下がりません。
幸か不幸か悪い方に現状維持(微熱やだるさが、悪化はしないものの良くもならない状態)で、3~4日ほど過ごしました。
ですが……夫の方は確実に、じりじり症状が悪化し始めています。
『食べ物の味がわからない』とか、ぼそぼそ言い始めましたし、宅配してもらった牛丼の並盛(この手の甘辛味が大好きで、普段の彼なら大盛りでも可)でさえ、半分も食べられません。
牛丼を残した翌日、何とか発熱外来を受け付けている病院を見つけ(会社の人からの情報。車で30分くらいかかる、ちょっと離れた場所にある大きな病院でした)、まずは夫から診察してもらったところ、コロナ陽性が判明します。
しかも軽い肺炎を起こしているとかで、即入院が決定。
あわただしく準備し、夫はそこから10日ほど入院することになりました。
さて私の方ですが。
夫が入院した翌日、近くのクリニックで発熱外来が再開される情報をつかんでいましたので、そちらへ行くことに。
夫と一緒に遠い病院で検査を受ければ良かったかもですけど、仮に今後も通う可能性があるのなら、私は近い方がいいですからね。
一応平熱になってほぼ通常通りの体調になっていたとはいえ、息子も病み上がりでしたし、両親ともに長時間、家からいなくなるのも良くないかと。
それでまあ、自転車をヘロヘロこいでクリニックへ行き、発熱外来を受診しました。
その経緯は、2022/2/22の活動報告で書いていますので、引用します。
(引用開始)
さて。
検査キットがちゃんと用意でき、発熱外来を再開した病院は当然、あふれんばかりの患者・患者・患者……。
換気しまくっている寒い待合室で、微熱のある身体でコートを着たまま、そこそこソーシャルディスタンスを取りつつ黙りこくって待つ我々。
流れ作業的に検査を受け、陽性判明 → 医療機関から保健所への連絡。
一日一回、保健所からスマホへメッセージが来て体温と体調を報告し、『療養期間おしまいです。お疲れ!』と言われるまで自宅引きこもり生活を送りました。
薬(アセトアミノフェン他)も処方されましたけど、薬局内で待つことは不可能(感染予防の為)ですので、寒風の中、屋外でソーシャルディスタンスを保ちつつ、待つ・待つ・待つ……。
(引用終わり)
クリニックの開院時間に合わせて行きましたけど、かなり前から発熱外来には患者さんは来ていました。
先客?の数はすでに十人以上。ひょっとすると、二十人くらいになっていたかもしれません。
そうであっても待つしかないのです。
前述したように待合室は換気のために窓が開けられていますから、外よりはマシ、くらいには寒い状態。
私もそうですが、その場にいるのは皆、微熱のある身体でコートなどを身体に巻き付け、黙りこくって診察を待つ患者たち。
独特の、ヘンな雰囲気がただよっています。
寒さの中、震えながら順番を待ち(二時間近く待ちました)、陽性が判明すると流れ作業的(にならざるを得ない)な事務手続きを済ませ、処方箋が渡されます。
しかし薬局にも当然ながら、薬を待つコロナ患者が沢山つめかけます。
ですが、バイオハザード(苦笑)であるコロナ患者は、薬局の中で薬を待つ訳にも参りません。
ガチで、マジで、寒風吹きすさぶ(またこの日は寒かった)如月の空の下、薬が用意されるまでガタガタ震えて待つしかありません。
薬が出来てくるまで小一時間。
さすがにブチキレそうでした。
いやまあ、わかってますよ、こうなってしまうのは。
薬局のスタッフも、決してサボっているのではないこともわかっています。
……でもね。
微熱のある患者を寒風吹きすさぶ屋外に、小一時間放置って……、どうよ?
病気が悪化したらどうするんだ!
静かに怒りに燃えつつ処方薬を受け取り、再びヘロヘロ自転車をこいで、帰宅。
と・に・か・く・寒・い!
正午なんぞ大幅に過ぎていますから、病中の身であってもお腹が空いています。
手洗いうがいの後、電気ポットの再沸騰ボタンを押し、部屋着に着替えて買い置きのカップラーメンをひとつ、取り出します。
火傷しそうなほど熱い、ガツンと来るものが食べたい!
もって行き場のない怒りのくすぶる心身は、おかゆなんぞでは癒されません。
お湯が沸きました。
上蓋を剝ぎ、容器の内側の線まで湯を注ぎ……3分後。
いかにもジャンクな、でも美味しそうなにおいが立ち上ります。
夢中ですすりました。
濃い醤油味の熱いスープが絡む麺がこれほどまでに美味しかったのは、おそらく人生で初だったでしょう。
ありがとう、カップ○ードル。
確かに美味しかったのですけど。
もうあんな風に、何かを食べたくはないですね。
美味しいものは怒りと共にではなく、楽しい気分でゆったり、味わいたいです、やっぱり。