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第1話 傷痕の残る街

ヴァルナメリアを出て数日、クリスたちは万能の名医・フレッドがいるという街、モナベッラに到着した。

街はヴァルナメリアほどではないが活気に満ちており、露天からは客引きの大きな声も聞こえる。

一方で建物は塗装が剥げかけていたり、一部が崩れて骨組みが剥き出しなものも立ち並んでいた。

道はデコボコに荒れて、端には瓦礫の破片が寄せ集められ、山積みのまま放置されていた。

人々の活気と風景の荒廃感がどこかチグハグした雰囲気を醸し出している。


「なんか、こう言うとアレだけど、ボロボロな家が多いね」

エマはキョロキョロと周りを見回しながら小声で呟く。

「ここは先の戦争で最後まで戦地になっていたからな」

レオンハルトは言葉数少なに返事を返す。

その表情はどこか沈痛な面持ちだった。


「さすが騎士殿はお詳しいですな」

フロウが茶化すようにレオンハルトの肩を叩く。

その表情に笑顔は無く、ともすれば嘲っているようにも伺えた。

乗せられた手を軽く振り払いながら、レオンハルトは無言で歩みを早める。

「この街は帝国との国境に位置しているからな、戦いの最前線にあって、連邦の民も帝国の兵も多くがここで命を落としてるんだよ」

フロウが突きつけたその事実は誰に向けられたわけでもないが確実に4人へ届いて、そして霧散した。


一時、沈黙が流れる。

やがてそれを嫌ったクリスが別の話題を切り出す。

「フレッド医師の診療所があるって噂の通りはもうすぐだけど、あまり大人数で押しかけても悪いし、宿を探すのと二手に分かれない?」

「そうだな。医師のところへは私と……医学に詳しいクリスでどうだ?」

トワはすぐに首肯する。

「詳しいって言われると自信ないけど……でもフレッド医師にあって話してみたいのは事実だから行かせてほしいな」

この数日で自分の意見を前面に出せるようになりつつあるクリスをトワは微笑ましげに見守っている。


「じゃあ僕たちは宿を探そう。ついでに晩御飯のお店も!」

「悪いが俺は女王様からの依頼もあるんでそちらを優先させてもらうぜ。宿とかは勝手に見繕っとくから気にしないでくれ。街を出る前にはちゃんと顔見せるからよ」

絵馬の出鼻を挫くようにフロウは手をひらひらと横にふりながら別行動を申し出る。

もともと、別任務に合わせての動向だったため、それを止める者はいなかった。

「何か用があれば適当に探して見つけてくれ」

それだけ言い残すとフロウはあっという間に人ごみの中に消えていった。


この広い街で適当に探して見つかるわけがない。

「なんて適当な……」

トワは額を抑えて項垂れた。

「ま、まあ気にしてももう仕方ないし、気を取り直して目的地に行こうよ」

ヤケクソなエマの掛け声で一同は二手に分かれた。




「レオンハルト、何だか元気ないみたいだけど大丈夫?」

特段当てもなく、宿屋と飯屋を探してふらつくエマは、レオンハルトの顔を覗き込む。

「そんなことはない。気にするな」

「さっきフロウに変な絡まれ方したから気にしてるとか?」

「だからいつも通りだと言ってるだろう」

段々レオンハルトの返答に苛立ちが込められてきているのをエマは察知した。


「その態度がいつも通りじゃない気がするんだけどなあ……まあ頑固なのはいつものことか。どっちにしたって気にするなって言うなら気にしない事にするよ。何かあれば言ってね」

「そうしてもらえると助かる」

レオンハルトの返事は愛想の欠片もなく、それがやはりいつも通りでないことをエマに実感させた。

「……気持ちだけはありがたく受け取っておこう。ありがとう」

少し間をおいてかけられた優しい言葉もやはりレオンハルトらしさからは程遠いような気がした。




「確かこの辺なんだけどな」

エマたちと分かれた後、手書きの地図を頼りに診療所近くまで辿り着いたクリスたちだったが、あたりにそれらしい建物が見つけられず、同じ道を何度も往復していた。

先程までの大通りから少し外れており、日陰に沈んだその道はこの街の荒廃した雰囲気をひと所に寄せ集めたような暗さがあった。


「地図が間違っていると言う線もあるか?」

クリスの地図を覗き込みながらトワが尋ねる。

手書きの地図はヴァルナメリアを出る時に、グレース女王が集めた情報を元に書かれたものだった。

「その可能性もあるね。一度大通りに出て誰かに聞いてみようか」

細い道を引き返そうとすると、大通り側から一人の男が歩いてきた。


男は左手で杖をつき、右足を僅かに引きずるようにクリスたちの方へ向かってきた。

そういうとクリスは男の元へ駆け寄り、肩を差し伸べた。

「よければ肩をお貸ししますよ」

「ああすまないね、でももうすぐだから大丈夫だよ」

近づいてわかったが、男はクリスよりもかなり身長が高く、肩を貸すには適切な身長差とは言えなかった。

「気持ちだけ受け取っておくよ」


まだ若いその男性は、屈託のない笑顔で応えるとゆっくりとしかし確実に歩みを進め始めた。

「どちらへ向かわれてるんですか?」

細い通路を、邪魔にならないように後ろから確かな距離を保ちつつ尋ねる。

「かかりつけの診療所だよ。すぐそこなんだ」

男は空いている右手で小汚い民家を指差した。

「僕らも実は診療所に、フレッド医師に用があって……ついていっても大丈夫ですか?」


遠慮がちなクリスの問いかけに、男はまたしても笑顔で答えた。

「医者に罹ろうと言う人間を止めるような真似はしないよ。ただ、少し気難しいひとだからその点は気をつけてね」

男が一見民家にしか思えない診療所の扉に手をかけた時、中から扉は開かれた。

「誰が気難しいって?」

現れたのは、杖をついた男よりも一層身長の高い、白髪の老人だった。

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