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第11話 ゲイルのルーツ

「大変恐縮なのですが」

再びゆったりと話を始めたゲイルは、うっすら笑みを浮かべながら、へりくだる。

わざとらしく空けられた間は、カイルは疑問の言葉を挟ませる。

「なんですか?」

「飲み物を頂いてもよろしいでしょうか?話していたら少し、喉が渇いてしまって」

「ああ」


カイルにはゲイルの言動や仕草がどれも自分を馬鹿にしているように感じられ、不快だった。

それでもカイルの出自を知っている以上、無碍には扱えない。

台所へ行くとカイルは水を2人分汲んだ。

「どうぞ、水です」

一つをゲイルの方へ差し出すが、ゲイルは受け取ろうとしない。

「机に置いていただければ結構です。手渡しは……受け取り損なうかもしれませんから」

言葉も話し方も鼻につく。

カイルはそれでも苛立ちを鎮め、ゲイルの目の前にコップを静かに置いた。


「ありがとうございます」

置かれたコップをゲイルは丁寧につかみ、一口含むとまた話を始めた。

「カイル様は、不老不死の研究はご存じですか?」

「藪から棒に、何の話ですか?」

「おやおや、ということはご存じないのですね。カイル様の先祖が行っていた非道な研究のことを」

ゲイルはまたしてもカイルを小馬鹿にするような、あざけるような言い回しをわざとらしくとる。


「さて、何のことでしょうか?」

カイルは机の下で拳を握りしめながらも、努めて平静を装った。

「実は今から250年ほど前ですかね?この村から見ると丁度南にずっと進んだ先で、不老不死の研究をしてたのですよ。当時の皇帝の命で行われていたそれは、幼い子どもたちを中心にそれは酷い実験でした。私の祖先は当時、実験を主導していたんですよ」


「作り話にしても現実味が薄すぎるのでは?」

カイルは意趣返しに、半ば呆た口調で切り返す。

「ほう、どのような点に現実味が薄いとおっしゃるのですか?」

「大切な国民を実験体にするような真似、誇り高い私の先祖がするはずがない。それに不老不死など、あり得ないでしょう」

「なるほどなるほど。確かに、普通の人間ならばそう思うのも無理はないでしょう」


そこでまた、ゲイルは言葉を区切る。

試すような目つきは一瞬落胆の色に変わり、かと思えば次の瞬間には大きく見開かれた。

「しかし、カイル様、あなたがそのような発言をするなど、私にはそれこそあり得ませんよ」

机を両手で力強く叩くと、ゲイルは立ち上がり、身を乗り出してカイルに迫る。

カイルは思わず椅子をひいて大きくみじろぎしてしまう。

「今!この瞬間この場所こそが!カイル様にとって2つのあり得ない現実を証明する答えではありませんか!」


ゲイルは再び机を両手で叩くと、その勢いのまま立ち上がり、両手を大きく掲げる。

そしてカイルに背を向け、入り口付近をゆっくりと彷徨いながら、とめどなく言葉を連ね始めた。

「カイル様もご存知の通り、この村は帝国には正式に存在していません。それは帝国がとある事実、『祝福』の存在を隠蔽するための隔離施設だからです。罪なき人々をこんな最果ての檻に閉じ込めたのは、それを許したのは、誰ですか?そう、あなたの先祖ですよ」

ゲイルは大仰に振り向き、カイルを指差した。

カイルが反論しようと口を開こうとした瞬間、ゲイルは間髪入れずに言葉の波を再びカイルに浴びせ始める。


「それは仕方のないこととお考えですか?もしそうだとしても口にするのはやめてください。これ以上私はあなたに落胆したくない。もし、仕方なければ許されるのであれば、帝国を繁栄させるため、憎き連邦を討ち滅ぼすため、不老不死の研究をすることもまた、許されることになるのではないでしょうか?」

演説するかのように今度は強く拳を握りしめ、ゲイルはカイルに詰め寄る。


「そして、『祝福』が存在する以上、不老不死があり得ないなど一体誰が断言できるのでしょう。私にはできません。実際にそういった人間がいてもおかしくないですし、その能力の仕組みさえ解明できれば他の人間が同等の力を得ることは不可能ではないはずです。だから!」

ここまで言葉を捲し立てていたゲイルは一息ついてゆっくりと息をためる。

そして今までで一番穏やかな口調でカイルの耳元に囁いた。

「私はその研究のため、ここにきたんですよ」


カイルは勢いよく立ち上がる。

その衝撃で座っていた椅子はガコン、と倒れた。

「ここで人体実験を行うつもりなら、それは看過出来んぞ」

カイルはゲイルに詰め寄って胸ぐらを掴むと、鋭く睨みつけた。


「もちろん、そのようなことは致しませんよ」

「信用ならんな」

「ならば、もう少し話を聞いていただきたい」

ゲイルは胸ぐらを掴んでいるカイルの右手にそっと左手を重ね、離させた。


「先程も申し上げた通り、私の祖先はいくつかの誤りと過ちを犯しました」

「不老不死の研究が日の目を見ていないと言うことは、失敗したのか?」

「ええ、惜しいところまではいっていたそうですが、先祖は残念ながら志なかばで実験体の反逆に合って命を落としました。そのまま研究施設は壊滅、きっと実験ごと闇に葬られたのでしょう」

「だとしたら、お前はなぜそこまで詳しい話を知っているんだ」

「当時の研究資料が一部、生き残った実験体の手で持ち出されていたんですよ。それを生き残りの末裔が私に売ってくれたんですよ」


懐かしむような眼差しで天井を見つめるようゲイルの顔はどこか幼く映った。

「当時の私は自分のルーツというものに関心がある少年でしたからね。びっくりしましたよ。名前と最低な噂の一つしか残っていない先祖の名前が書かれた書類を路地裏の露店で見つけた時は。10歳前後、同い年くらいの少女にありったけのお小遣いをはたいて買い取りました。彼女との出会いはまさに運命だったのですよ。そしてそんな先祖の残した研究が私の人生を大きく狂わせてくれました。本当に感謝しかありません」


そういうとゲイルはカバンから紙束を持ち出した。

カイルはその一枚を手に取ってみたが、ところどころ焦げたり掠れたりした紙は解読が困難だった。

「これらの束を解読するのに5年を費やしました。しかしそれはそれは素晴らしい時間でした。おかげで私自身の理解も深まった」


カイルは諦めて紙を置くと改めてゲイルに尋ねた。

「それで、結局お前はここで何がしたいんだ」

「おっと、そうでした。つい話が逸れてしまいますね。先程の話、謀反にあったというのが先祖の誤りです。つまり実験対象の扱いを軽んじました。私は、この村にいる力ある方々に研究のお手伝いをしていただきたいですが、あくまで自然かつ、医師という立場から逸脱しない範囲で行います。ですから、危害は一切加えません。ご安心を。ただし、実験体が望むのであればそれはまた別のお話になりますがね」

ゲイルは気色悪い笑みを浮かべながらウインクをして見せる。


「そんなやり方で先祖の研究を完成させることができるのか?」

カイルの問いにゲイルは首を横に振る。

「先祖の研究を完成させるつもりなどありません。それこそが先祖の過ちです。私は過ちを正さねばなりません」

要領を得ない言い回しにカイルは首を傾げる。

「失礼」

ゲイルは再び水を一口含と、ふーっと息を吐いた。

「ここからは未来の話をしましょう」

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