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第18話 そして旅を始める

「いよいよ明日、出発されるのですね」

 ヴァルナメリア最後の夜、クリスたちはレジーナやグレースと食卓を囲んでいた。

「ああ、長い間居候(いそうろう)させてもらってありがとう」

 それぞれが名残惜しむようにゆっくりと食事を楽しんでいる。


「お礼を言うのは私たちの方ですよ。ねえ、お母様」

 レジーナは隣に座るグレースに微笑みかける。

 親子の間にはかつての気まずさや気遣いからくるすれ違いはなくなっていた。

「その通りです。レジーナのことといい、ソネラでのことといい、我が国はトワ様たちに感謝してもしきれませんわ」

「そんな、私たちは何も」


「私、皆さんが旅に出た後も街に出てみます。そしていつか、レアともちゃんと話をしてみます」

「大丈夫、レジーナならきっと出来るよ。既にお姫様が迷子を助けたって良い噂も流れているみたいだし、レジーナのことをちゃんとわかってくれる人もいるはずだ」

「ええ。こんな能力ですが、私の一部です。この『祝福』を愛せるよう、私は私にできることをしていきますわ」


「女王様、よろしいでしょうか」

 団欒(だんらん)にラナが割って入る。

 ラナはグレースの耳元に口を近づけると、口早に何かを告げる。

 その言葉を受けてグレースは離席してしまった。



***



「一体何があったのですか?」

「はい、リゲル様から書簡が」

 ラナは一通の封筒を取り出す。

「書簡であれば先日届いたでしょう。ダリアは国外逃亡した可能性があるから増援を求む、と」

「それが先程、新たに届きまして、どうやら事態は急を要するみたいです」

 グレースが受け取った封筒には諜報機関で緊急事態を知らせる暗号が刻まれていた。

「わかりました。ありがとう」

 手紙を受け取ると足早に執務室へと消えていった。


『ダリアさんの遺体には無数の切り傷がありました。およそ獣の仕業とは思えない傷で、出血が酷く殆ど血が抜かれたような状態でした。また、近辺にはわざとらしく傷つけられた木がありましたが、実際に争った場所は別にあると考えています。追加で情報がわかり次第、追って報告します』


「フロウ、どう思いますか」

 リゲルから届いた手紙を一読したグレースは、すぐにフロウを呼びつけた。

 暗号で書かれた手紙の内容は、要点だけ書き記されていた。


「多分、女王様と同じこと考えてますよ」

 2人の表情は暗く、ダリアの死を(いた)んでいた。

 そして、その内容から1人の女性を連想せずにはいられなかった。

「裏切り者の弟子を独断で粛清(しゅくせい)したとみるか、何か別の意図があるとみるか。俺にはなんとも言えませんが、どっちにせよ気分のいい結末じゃありませんね」


「ダリアにはトワさんの調査を依頼してました。その任務をあなたに引き継いでからは、そのまま残ってもらってその地一帯の観察を」

「ええ、私もそのように聞いています」

「ブレスレットの件は彼女から聞いていますか?」

 グレースはトワが左手につけていた、ダリアからもらったというブレスレットについて尋ねた。

「いえ、何も」


「彼女にはブレスレットを渡すといった命は下しておりません」

「つまりダリアの独断で行われたと」

「はい。そこが私には不自然なのです」

 フロウもその点については納得だった。

 任務を引き継いだとはいえ、調査対象に接触して贈り物など考えられなかった。

「トワがこの件に関与していると?」

「彼女たちの意思の外側で、という可能性はありますが……」



***



「いよいよ行ってしまわれるのですね」

 昨晩同様、レジーナが名残惜しそうにトワとエマの手を握る。

「きっとまた、レジーナの元を訪ねるからそれまでしばらくの間お別れだな」

「きっと……いえ、絶対ですよ」

「そんなに悲しい顔しないでよ。僕まで寂しくなるじゃんか」

「そうですね……笑顔で、それで次に再開するときも笑顔で会いましょう」


「悪いな、4人でって話だったのに結局俺まで加えてもらっちゃって」

「いえ、目的地も一緒ならわざわざ別で行く理由もないですよ」

「助かるわ。ちょうどタイミングよくモナベッラに届け物があってな」

 グレースはフロウと協議の末、嘘の任務を利用してトワたちの護衛と観察を続けることにした。


「確かに、フロウがいれば入国手続きもスムーズに進むだろうな」

 ヴェスティガッセ連邦はいくつかの国で構成されている。

 モナベッラは今いるランフェイゲン王国とは属する国が異なるため、簡易的な手続きが必要だった。

「おう、そこんところは任せといてくれよ」


「フロウ、皆様のことよろしく頼みますよ」

 グレースの言葉が持つ意味をフロウ以外誰も知らない。

「私からもお願いしますわ」

「はい、お任せください」


「それじゃあ行こうか」

「そうだね」

 懐かしいやり取りに、クリスはふと旅を始めた日を思い出す。

(色々あったけど、トワの不死を治したいって想いはやっぱり変わってない。ここから、ここからもう一度始めよう。トワのための、僕の旅を)


「おーい、何をぼーっとしてるんだ、早く行くぞ!」

 いつの間にか先へ進んでいたトワが呼びかける。

「すぐ行くよ!」

 小走りで駆け寄る。

 クリスの旅がまた始まる。

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