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第16話 ダリアの消息

 ダリアの消息を追っているリゲルは南部の町を訪れていた。

 かつてクリスたちが働いていた酒場でダリアの情報を集める。


「では、数週間前に突然ダリアさんは消息を絶ったということですね?」

「ああ。それまでは毎日のように店にも顔を出してくれていたんで、おかしいと思ってな、常連たちにも話を聞いてみたんだが誰も見てないって話だ。何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかと心配で俺たちも町中に聞いて回ってるんだが一向に目撃情報が出てきやしねえ」

 マスターは行方知れずのダリアを思いひどく気落ちしていた。


「ありがとうございます。最後にダリアさんがこのお店に来た時、何かおかしなことは話ていませんでしたか?」

「いや、いつも通りだったよ。カウンターの端っこ、そこなんだけどよ、そこに座っていつも通りにお酒が美味しいって言ってくれて……」

「そうですか……ありがとうございます。私の方でも何かわかればご連絡差し上げますので」

 マスターに礼を伝えると足早に酒場を後にした。

 リゲルは捜索の手がかりを求めて、その後もダリアが懇意(こんい)にしていた店を巡ったが、情報は一切得られなかった。


(ここがダリアさんの隠れ家か……)

 フロウに貰った情報を頼りにダリアが使っていた部屋を訪ねたが、もぬけの殻だった。

 ベッドや机の上はきれいに片付けられ、食品などは残っていない。

 貴重品なども残っておらず、残っているのは不必要なものや生活用品だけだった。


(何か事件に巻き込まれたにしては片付きすぎている。あらかじめ必要なものをまとめたうえで部屋を去ったようだな)

 このことからリゲルは一つの仮説に至る。

(ダリアさんは自らの意思で命令を放棄した。そしてこの町を去った)


 事前に周到な用意をされたのであれば、今からその行方を追うのは困難を極めるだろう。

 既にダリアが消息を経ってから一週間以上の時が経っている。

(しかし理由がわからない。国を裏切ったらどうなるかわからないわけではないでしょうに)


 リゲルやフロウ、ダリアといった諜報員が任務を放棄した場合、即座に捜査網が張り巡らされる。

 そして捕らえられれば厳しい罰は免(まぬが)れない。

 自国を含め、多国家の秘密を探る身である以上、命令に反いた場合は命の保証もない。

 これまで何度かそういった例はあったが、例外なく逃亡者は捕らえられ、処分されていた。


(逃げるとすれば帝国側への亡命しかないだろうな。国境を渡るとなればこのまま単独行動するのは危険だ。一度ヴァルナメリアへ書簡を送って判断を仰ごう)


 リゲルはすぐに書簡を送ると、返事を待つ間、町周辺の森の捜索にあたった。

(計画的な逃亡であればこんな近くにいるはずはないが、何もせずに待つわけにもいかないからな。)



***



 町をでたリゲルは南部の森に入り、そのまま東へと進んだ。

「なんだこれは……」

 小一時間進んだところでリゲルは抉(えぐ)れた木を見つけた。

 巨大な爪で引っ掻いたような傷は周囲の木にも確認できる。

(動物の傷にしてはあまりに大きすぎる……巨大な武器でついた傷だと考えるのが妥当だろう。あれは!)

 傷ついた木々を掻き分けて進んでいくと、そこには血痕(けっこん)があった。


 剣を抜き、周囲を警戒しながらぽつぽつとこぼれ落ちた血の滴を辿る。

「うっ……」

 血痕の先にはズタズタに引き裂かれた人間の死体だった。

 顔も体も必要以上に切り刻まれた惨(むご)たらしいその死体こそがダリアだった。

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