表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/191

第4話 帝国騎士団

 泥のように眠っていたクリスは、村の喧騒(けんそう)で目覚めた。

「なんだか騒がしいな」

 まだ眠い目を(こす)りながら、窓の外を覗くと、太陽はまだ昇り始めたばかりであたりは薄暗かった。

 いつもとは違う村の雰囲気を感じ取り、一度外に出てみる。

 すると十数名の騎士が散り散りになって村人と話していた。


 クリスが暮らす村・アルフはセルメギス帝国の辺境に位置している。

 国境近くに位置するものの山や森に囲まれており、国境を越えた先も山や森が続く田舎ということで、特に争いが起こることもない。

 そういった理由から村に帝国騎士は駐在しておらず、何かあれば山を一つ越えた町・ヘイダから駆けつけるという形になっていた。

 もっとも、平和な村で事件が起きることはこれまでなく、たまに様子見に数名の騎士が訪れるだけだった。


(一体何の騒ぎだろう……)

 事態の異常さを感じ取り、近くで話していたマーサの元へ駆け寄った。

「おはようございます。朝早くから一体どうしたんですか?」

「あぁ、おはよう。なんでも人を探してるらしいんだよ」

「人ですか?」

 クリスは昨日の少女を思い出す。


 するとマーサと話していた騎士がクリスへ丁寧に問いかけた。

「そうなんだ。君はこの近くで銀髪の少女を見なかったかい?」

(昨日の少女のことに違いない)

「なんでも、貴族のお嬢様が家出されたそうなんだよ。それで騎士様達が探し回ってるみたい」

 マーサが聞いたばかりの情報を付け加える。


 それを聞いてクリスは昨日考え続けた疑問に一つの結論を出す。

(あの子は貴族の娘だったのか。それで家出して山に逃げたところを怪我した。でも村に連れていくと追手の騎士に見つかって連れ戻されちゃうから村に来ることを拒んだわけか)

 クリスは自らの結論と昨日の状況を照らし合わせて納得した。


 言われてみれば、少女にはどことなく気品(きひん)があったようにも思える。

 そういう事情であれば、少女には悪いが無事に保護してもらうのが良いはずだと考え、クリスは昨日の出来事を騎士へ伝えることにした。

「その子でしたら、昨日山で見ましたよ。薬草をとりに行った時に川岸であったんです。傷だらけで応急手当てはしてたんですけど、そのあと逃げ出しちゃって、今どこにいるかは……」

「本当かい! ありがとう、君のおかげで捜索範囲がだいぶ絞れるよ!」

 騎士はクリスの肩をポンっと叩いて労った。


「よければ僕が出会ったところまで案内しましょうか? 僕たちも今日その子を捜索しようとしていたんですよ。山にも慣れてますし、お手伝いします」

「それはありがたい。しかし、これは騎士の役目。ここからは私たちに任せてはもらえないだろうか」

「でも」

 人手は多いに越したことはない。

 それに土地勘は騎士たちよりもクリスたちの方があるはずだ。

 拒否される理由がわからず、食い下がろうとしたところに大柄の男性が割って入ってきた。


「何か進展はあったかね」

「お疲れ様です、アンダーソン隊長。実はこの少年が、山中にて少女を見かけたそうです」

「何だと! それは本当かね?」

 隊長と呼ばれたその男は、クリスの両肩をがっしりと掴んだ。


「えぇ。ですので見かけた場所まで案内しようかと……」

「なるほど、そういう話だったのか。いやしかし、ここは我が小隊に任せてはもらえないだろうか。その少女も高貴な身分故、色々と事情があるのだよ」

 クリスは両肩を掴んでいるアンダーソンの手に力が入ったように感じた。


 高貴な身分と言われると、村で育った平凡なクリスには想像がつかず、萎縮してしまう。

 未だかつて貴族にあったことのないクリスはアンダーソンの言う事情というものの検討がつかず、これ以上食い下がることはできなかった。

「わかりました。見つけた位置とその子が進んだ方向を地図に書くのでそれを参考にして頂ければ」

「おぉそれはありがたい。助かるよ」

 地図に情報を書き込みアンダーソンに手渡すと、クリスは先生の診療所に向かった。



***



「なぁんだ、色々準備したけど必要なくなっちゃったね。まぁ騎士様が捜索してくれるなら安心だね」

 エマは憧れの騎士達から色々と話を聞けたらしく、ご機嫌だった。

「じゃあ僕は一度帰って午後から昨日取り損ねた薬草を採ってきますね」

「あぁすまないね。でも昨日の分でそれなりの量はあるからまた今度でも大丈夫だよ」

「いえ、せっかくなので今日のうちに採ってきますよ。色々ありがとうございました」

 先生にお礼を言って自宅へと向かった。


 騎士は全員山へ入ったようだ。

 村は早朝の喧騒から一段落し、静寂(せいじゃく)を取り戻していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ