第19話 快晴に見送られ
不死鳥が飛び立って1日たち、トワたちがソネラを離れる時が来た。
「なあエマ、この間話してた作ってるもの、出来上がったぜ」
見送りに来たジェンセンがエマに見せたのは、人と変わらないサイズで組まれた木製の支柱だった。
「東の石碑があった場所って元々地盤緩いだろ。また石碑が倒れたら大変だから、ひとまずはこれでバランスを取ろうと思ってな」
「それすごくいいじゃん! あれめちゃくちゃ重かったもんね」
エマの言葉を聞いてジェンセンは嬉しそうににやける。
「それに崩れてできた穴が広がらないように何とか支えたいし、低い位置にある家は浸水して家具が腐っちまったらしいから代わりの家具も作ってやりてえ。俺はこれから家具とかそういうの作って村の復興を手伝いてえと思ってるんだ」
褒められた勢いに乗せて、ジェンセンがこれからを楽しそうに語る。
「いいじゃないか。ジェンセンは手先が器用だし、物作りが好きそうだからきっと天職だと思うぞ」
トワは1つだけ色が違う足を持った椅子を思い出した。
「こんなどうしようもない村だけど、今回の一件で少しずつ変われそうな気がするんだ。だからジャック、ジョン、ジェームズ、これからも俺についてきてくれねえか?」
「もちろんですよ!」
「一緒に村を変えてきましょうぜ!」
次々に同意する仲間を他所に、ジョンが浮かない顔をしていた。
「あの……お頭、話があります」
「ん? どうした? 物作りは嫌いだったか?」
1人先走ったのではないかとジェンセンは、はにかんだ。
「いえ、違うんですよ。ただ、僕、他にやりたいことを見つけたんです。不死鳥の伝承を正しく解き明かしてみたくて……実は伝承を改めて確かめていたら、『祝福』の言葉を見つけました。だから色々欠けている伝承をもっと正確に伝えられたら500年後は今回みたいな過ちは起こらないと思って。石碑の読めない文字とかにもきっと込められた意味があるはずだから……」
ジェンセンは驚いた顔を見せ、すぐに笑顔に変わった。
「いいじゃねえか。ジョン、お前は元々考えたり調べたりが好きだったんだし、そういうの向いてると思うぜ!」
ジョンの肩に手を回すと、心の底から祝福の言葉を口にした。
「ありがとうございます! もちろん、村には残るのでお仕事も手伝いますよ」
「おう、俺たちもお前の調査が捗るように手伝うから、これからもよろしく頼むぜ!」
ジャックとジェームズもジョンをもみくちゃにするように抱きついた。
「俺たちがこうして新しい道に進めるのも、みんなとの出会いがきっかけだ。最初は襲ってしまってすまなかった。それにこの村でのこと感謝してもしきれねえ。本当にありがとうな。これからの旅、気をつけて」
「ああ、ジェンセンたちも達者でな」
惜しむように林へ入ろうとしたトワたちを少女の声が呼び止めた。
「待って! トワおねえちゃん!」
ジェシカが慌てて走ってきた。
「はあはあ。これ、おねえちゃんの羽根入れたらきれいだと思って、私のタカラモノ入れ持ってきたの」
ジェシカの汗ばんだ手には透明なガラスの小箱が握られていた。
トワは箱を受け取って羽根をそっと入れる。
蓋を閉じると、ガラス越しにうっすら灯火のように柔らかな光が漏れた。
「やっぱり! 思ったとおりにきれいだ! これ、トワおねえちゃんにあげるね!」
ジェシカは弾ける笑顔で箱をトワの胸に押し込んだ。
「でもこれ、ジェシカの宝物入れだろ? いいのか?」
「いいの! トワおねえちゃんのこと大好きだからあげる!」
「ありがとう。大切にするよ」
トワは押し付けられた箱を大事に抱きしめた。
「それとエマおねえちゃんにはこれ!」
少し寂しそうにトワとジェシカのやりとりを見ていたエマに、ジェシカミサンガを渡す。
「エマおねえちゃん、きしさんになるのがユメって言ってたから。それが叶うようにってお兄ちゃんと作ったの!」
すかさずエマの顔がほころぶ。
「うわーほんとにもらっていいの? ありがとう。嬉しいなあ」
エマは受け取るとすぐさま足首に巻いてみせた。
赤、黄、橙でできたそれはエマの足元に彩りを与えた。
ジェシカの贈り物に盛り上がっている中、ジェンセンはこっそりとクリスに話しかけた。
「なあクリス、最初の頃、俺に気い遣ってくれてありがとうな。結構あれで助かってたんだ」
ぽんぽんと背中を優しく叩く。
「でも僕、そんな大したことはしてないですよ。それよりもずっと家を貸してくれてとても助かりました」
「それこそ大したことじゃねえ。家も片付けてもらえたしな」
ジェンセンはニヤリと笑う。
「クリス、俺にとって大したことなくてもクリスが助かったように、クリスにとって大したことなくても誰かはすごく助かってることもある。最近何か悩んでるみたいだけど、あんまり1人で考えすぎるなよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、また会おうぜ」
こうして4人はフロウと共にソネラへ来る時に使った獣道へと進んだ。
ジェンセンたち5人はいつまでも手を振り続けた。
振り返ると来た時の土砂降りと違い、どこまでも青く心地よい晴れ空が広がっていた。
***
「ところで、ヴァルナメリアまではどれくらいかかるんだ?」
獣道を歩きながらトワが尋ねる。
「ベルイストに馬車を呼んでいるから、それで2日半もすれば着くぜ」
「馬車か……」
トワの顔が曇る。
「何か問題あるのか?」
「いや、ちょっとな。馬車は苦手で」
「酔うのか?」
「そういうわけではないが」
「つっても歩きじゃどれだけかかるかわからねえしからなあ」
「そうだな。我慢する。多分大丈夫だから……」
トワは青い顔で自分に言い聞かせる。
「フロウさん、ヴァルナメリアまでの道って険しい山とかはありますか?」
今度はクリスが尋ねる。
「いや、割と平原とかが多いぜ。いくつか川を越えたりはあるが、起伏はそこまでねえ。なんだ、クリスも酔うのか?」
「そう……ですね。でも、それなら大丈夫そうです」
歯切れの悪い回答を見せつつも、クリスは安心した表情を見せた。
「トワ、思い違いだったら悪いんだけど、開けた土地を進むみたいだし、順番に外を見張ればきっと大丈夫だと思うよ」
クリスはトワが不死になる前に仕組まれた事故がトラウマになっているのではないかと予想していた。
まさしくその通りだった。
「クリスには図星だったか……今の話を聞いて少しだけだが気分が晴れたよ。ありがとう」
相変わらず浮かない顔だが、先ほどまでより幾分か血の気が戻った表情でトワは歩いている。
ベルイストはもうすぐそこに迫ってた。




