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第15話 護るための戦い

 戦いは一方的な展開になっていた。

(何やってんだよレオンハルトのやつ。さっきから守ってばかりで全然反撃しないじゃないか)

 エマは物陰に隠れながら戦いをもどかしく見つめていた。

 不死鳥の煌々(こうこう)とした炎に照らされ、レオンハルトの姿ははっきりと、タイラーの姿は若干影混じりに確認できる。


 タイラーは左右の拳を交互に振り下ろし、それをレオンハルトが剣でいなしていた。

 一見大ぶりに見える攻撃だが、タイラー自身の体格がそう見せるだけで実際には無駄がなく、最高効率でレオンハルトに襲いかかってくる。

「どうしたどうした! 攻撃してみろよ! その剣は飾りか? あん?」

 拳と剣がぶつかり合い、金属の鋭い音が響く。


 ヴェスティガッセ連邦に入って以来、他国での殺傷を最低限に抑えるために木刀を選んでいたが、今回レオンハルトの手には鉄の剣があった。

逼迫(ひっぱく)した状況とフロウからの依頼もあって鉄製にしたが正解だったな。木刀であれば一発で折れていただろう)

 レオンハルトは汗一つかくことなく冷静に状況を分析する。


(あーもう、もどかしいなあ。ジェンセン達に襲われた時みたいに僕が石を投げて気を()らしてあげよう)

 エマは足元の手頃な石を探し始めた。

(って、何言ってんのさ。僕は戦いに来たんじゃないか! 石を投げてサポートなんてしてる場合じゃない。ちゃんと戦うんだよ)

 目線を地面から上げると、再び2人の戦いに目を()らした。

(なんかレオンハルトの動きが変だなあ。調子悪いのかな? (すき)をついて敵の死角から一太刀浴びせてやろう。それで倒せなくても隙ができればレオンハルトと合わせて一気に倒し切れるはずだ)

 神経を研ぎ澄ませ、瞬きさえ惜しんで2人の一挙手一投足のみに意識を集中させた。


 レオンハルトの背後は常に照らされていた。

「いい加減ちょこまかと鬱陶(うっとう)しいんだよ」

 タイラーの背後は暗く、顔にも陰りが見え始めていた。

 目的とする不死鳥を目の前にしていながら、常にその間にはレオンハルトが立っていたからだ。

 しかも自分の攻撃をうまく受け流され続けているせいで、他人の肉に拳を抉り込む快感を未だ味わえていないことはおろか、余計な体力を使ってしまっている。

「なんとか言ったらどうだ」

 黙々と機械的な対応を続けるレオンハルトに対し、怒りに任せて右の拳を大きく振り下ろす。


 またしてもいなされたことにより、この戦いで初めてタイラーに明確な隙が生まれた。

 レオンハルトはそれを見逃さず、すかさず攻撃に転じる。

 タイラーもすんでのところで踏ん張って剣をガントレットで受け止める。

 そしてここで再び生まれた隙をここまで2人だけを観察し続けていたエマが見逃さなかった。


 物陰からエマが勢いよく飛び出した。

 突然の第三者にタイラーそしてレオンハルトは思わず音の方向を向いた。

「たあああーー!」

 気がつかれたのをいいことに、エマは大きく声を上げてタイラーの腹部を切りつけた。


 メキッ。

 鈍い音が響く。

 それはタイラーの体ではなく、エマの手元から発せられていた。

 エマが手に持っていた愛刀ー手作りの木刀ーが根本から綺麗に折れていた。


「あんだよ。ハエでもぶつかったのかと思ったじゃねえか」

 タイラーは無傷でエマの方に向き直り、空いてる左拳を振り上げた。

「えっ?」

 仕留められずとも最低限の隙は生み出せる算段だったエマは動揺を隠せず、混乱の中で目の前に迫った拳を呆然(ぼうぜん)と見つめるだけだった。


 キインッ。

 次に響いたのはこの夜何度も響き渡った金属音だった。

 レオンハルトは強引にエマの前に回り込み、タイラーの拳を剣でいなすのではなく、受け止めた。

「まさかここまでとは」

 一時は競り合っていた拳と剣だったが、タイラーは地面を(えぐ)るように足に力を込め、全体重をかけて拳を振り抜いた。

 求めていた肉を抉る感触ではなかったが、その一撃は確実に仕留めたものだった。

 レオンハルトは大きくよろけてエマを巻き込みながら尻餅をつき、剣はエマの木刀同様に折れて地面に伏した。

 こけた拍子にレオンハルトは頭をぶつけ、視界が一時的にぐらつく。


「ようやく俺に祭壇を明け渡してくれたなあイケメン君」

 タイラーはニタリと笑う。

 その姿は不死鳥の炎を一身に浴びて輝いていた。

「小娘! 例を言うぞ。お前が手助けしてくれたおかげでこいつの鬱陶(うっとう)しい剣をへし折れた!」

 タイラーはレオンハルトを見下ろしながら下品に笑う。

「違う……僕はそんなつもりじゃ……」

 焦燥した表情でエマは地面を握りしめた。


 タイラーは祭壇の炎を覗き込む。

「本当にこの中に不死鳥がいるのかよ? まあとりあえずぶち壊してみるか」

 大きく振りかぶったタイラーの拳が祭壇目掛けて振り下ろされた。

「やめろ!」

 振り下ろされた拳にトワが飛び込んだ。

 エマを追っていたクリスとトワがタイラーの笑い声を聞きつけて追いついたのだ。


「トワ!?」

 トワの腹部にはガントレットにあしらわれた禍々(まがまが)しい(とげ)がいくつも突き刺さる。

 トワは暗闇へ吹き飛ばされ、後に続いていたクリスはトワの元へ駆け寄る。

 それでも、トワの介入によって祭壇は未だ健在だった。


「なんだ今の? まああの手応えならしばらく起き上がれねえだろう」

 再びタイラーは祭壇に照準を定める。

「待てよばか!」

 エマは握りしめていた土をそのままタイラーに投げつける。

「てめえ殺されてえみてえだなあ!」

 タイラーの拳はたちまちエマへと向けられた。

「くるなら……こい」

 腰が抜けて未だに立ち上がれないエマはガサガサと後退りをする。

威勢(いせい)だけは一人前だがそれで生き残れるほど甘かねえんだよ! 死ね!」


 その時、闇を切り裂いて一筋の光が飛んできた。

 光の正体は矢でタイラーの掲げられた右腕を見事に射抜いた。

「ぐああっ」

 思わずよろけて腕を押さえる。

「すげー本当にあんなの当てられるんだな」

「これくらい当然です。いちいち驚かれても困ります。というか騎士殿の剣折れてるみたいですよ。早く武器を渡してあげないと」

「おっといけねえ」

 暗闇の向こうからはボソボソと声が断片的に聞こえた。


「騎士殿! 遅くなってすまない。これを使ってくれ!」

 闇の向こうからフロウの声がし、それと同時に新しい剣が飛んできた。

 目眩(めまい)も治ったレオンハルトは立ち上がってその剣を受け止めると、鞘から抜いてタイラーに向き直る。


「てめえ……さっきの二の舞にしてやる」

 タイラーは左腕を振りかざす。

「片手を負傷し、祭壇からも離れた今、貴様は脅威ではない」

 タイラーの拳は空を切った。

 ほぼ同時に視界が(ゆが)み、身体中に痛みが走る。

「なに……しやがった……おい……」

 朦朧(もうろう)とする意識の中で譫言(うわごと)のように言葉を発しながら、受身を取ることもできずにタイラーは倒れた。


「さっすが騎士殿。瞬殺だな」

 近くに駆け寄ってきたフロウはレオンハルトを労った。

「主犯格と思われたから気絶させるに留めている。尋問するなり処刑するなり、後のことはお任せする」

 レオンハルトは剣を鞘に収めるとフロウへ渡す。


「ああ、それはお礼だ。貰ってくれよ」

「そう言うわけにはいかない。私はもう一本持っているし、最悪どこかで買うから問題ない」

「そう言いなさんな。ここまでしてもらって礼のひとつもないんじゃ女王様に怒られちゃうよ。それとも、こっちの方が良いわけ?」

 フロウはニヤニヤしながら親指と人差し指で丸を作る。

「報酬のために戦ったわけではない。しかしそこまで言うなら一時的に預かるとしよう。謁見させて頂くのであれば、直接返却させてもらう」

「それはそれで(おそ)れ知らずな気もするが……まあいいや」

 フロウはピクリとも動かないタイラーと茫然自失(ぼうぜんじしつ)のエマ、そして暗闇から出てきたトワとクリスを交互に見やる。

「色々と言いたいことはある……がしかし今は後処理だな。兎にも角にもこれでおそらくゴライアスは鎮圧できただろう。お疲れさん」


 誰からともなく村人が避難している東の方に目をやった。

 東の空は今まさに白みはじめていた。

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