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第5話 手がかりを探して

生贄(いけにえ)(ささ)げるということは儀式的なものが()り行われるのだろう? そこまで話は進んでいるのか?」

「正確な日取りはまだ……ただ村長は一刻も早くと言っているから早ければ2~3日後かもしれない……」

「あまり時間はないな……」

 皆が黙り込んで、どうするべきか模索(もさく)した。


 最初に声を上げたのはジャックだった。

「やっぱり、この雨を止ませるのが一番じゃないか?」

「それができりゃ苦労しねえだろうよ」

 ジェンセンはもどかしそうにジャックの顔を見る。


「ジェンセンの言う通り、3日で原因を特定して天候を変えるのは難しいだろうな。村長たちの間でどのように認識されているかは知らないが、雨が止んでも不死鳥が来なかったら生贄の話が消えない可能性もある」

「そっか。雨がやめばみんなハッピーだと思ったんだけだな」

 レオンハルトからも指摘を受け、ジャックはしょんぼりとする。


「いっそこの村から逃げ出すのも……」

 続いてジョンが呟いた。

「逃げるのは良いが、資金は大丈夫か? まだ小さいジェシカには野宿はきついだろうし、衣食住を安定させながらの逃亡は現実的ではないぞ」

 トワが実体験に基づく忠告をする。


「ジェシカちゃんそっくりの人形を作って、その人形を生贄にするとか!」

 エマが思いついたままを言葉にする。

「そんな人形どうやって作るんだよ……」

 クリスは(あき)れながら指摘する。

「だよね……」

 再びしばしの沈黙が流れる。


「あーもう、まどろっこしい。こうやってじっとしてても始まらねえ。雨止ませる方法探しに行ってくる」

 ジェンセンは両手で激しく頭を()きむしりながら叫ぶと、はあ、と息を吐いて外へ出ようとした。

「さっき無理だって言ったのお頭じゃないですか」

「うるせえ。無理とは言ってねえだろう。どうせ座って考えようが動いて考えようが一緒なら、外で何か手がかり探した方が有意義ってもんよ」

「じゃあ俺も行きます」

「俺も」

 ジャックとジョンはジェンセンに続いた。


「ジェシカのことお願いしても良いですか?」

「もっちろん。僕たちに任せてよ」

 エマはトワの左手でトワの肩を寄せ、右手でポンと胸を叩いた。

「え? 私もなのか?」

「もー当たり前じゃんか」

 トワは掴まれた肩をパシパシと叩かれ、困った表情で笑った。


「じゃあ僕はジェンセンさんたちに着いて行こうかな……お邪魔ですかね?」

「そんなことねえよ。ありがとよクリス、レオンハルト」

「私は行くとは一言も……確かに祭壇(さいだん)石碑(せきひ)を見ておくのは悪くないか。同行しよう」

 こうしてエマとトワはジェシカの子守りをジェンセンたち5人は村周辺の探索を行うことにした。



***



「ここら辺はぬかるんでるから気ぃつけろよ」

 先頭を歩くジェンセンが後ろを振り返って忠告する。

 雨は一層激しさを増し、最後尾までは声が届かない程だった。

 5人は順々に伝言ゲームの要領で後ろへ言葉を伝える。


「着いたぞ。ここが1つ目の石碑だ」

 ジェンセンの家から南に進んだ高台に石碑があった。

 石碑は村と林の境目にあり、この林を西に進むとクリスたちがソネラへ来るときに使った獣道がある。

 高さ2m、幅1m程の大きな石でちょっとやそっとじゃ動かないほどに質量があった。


「これと同じものが村の東西にもあって、村の北に位置する場所に祭壇があるんだ」

「なるほど」

 レオンハルトは石碑の後ろに回り込んだり、細かい傷や(くぼ)みをよく観察していた。

「ところでこれはなんと書いてあったかわかるか?」

 レオンハルトは石碑の前面に掘られた文字の跡を指さした。

 長い年月をかけて薄れていった文字は、注意深く観察しなければ文字であったことさえ見逃してしまうほどに削れていた。


 ジョンはレオンハルトと一緒になって文字の後を覗き込んだ。

「それは俺が生まれた頃にはもうその状態で……伝承の中にも記載がなくてなんとも。それに(わず)かに読み取れるところを見ても、今と使われている文字が若干違うみたいなんですよね」

「つまり手掛かりにはならないと言うことだな」

「すみません」

「いや、謝ることではない。それより、残る2つの石碑と祭壇も見てみたい。次に進もう」

「ん、じゃあ時計回りにぐるっと回っていきますか」

 ジャックはジョンをチラリと見ると、ジェンセンに代わって先頭を歩き出した。



***



 西の石碑は今は崩れて使えない街道の近くにあった。

「ここは(さく)で囲ってあるんですね」

 クリスは石碑を囲う柵を指さした。

 柵は高さ3m、横幅2m程の大きさで石碑を四方に囲っており、先程のように近づくことはできなかった。


「ああ。ここが村の入り口ってこともあって石碑を無闇に触る観光客が後をたたなくてな。それで昔からここだけ柵で囲んでるのよ」

 ジェンセンは近くに倒れていた立ち入り禁止の看板を拾い上げると、地面に突き刺す。

 雨でかなりぬかるんでおり、看板は刺したそばから斜めに傾いた。


「柵の中に足跡があるようだが」

「嘘だろ!?」

 レオンハルトが見つけたソレは確かに1人分の足跡だった。

「跡の残り方から見てそんなに時間は経ってなさそうだな。靴のサイズ的には成人男性といったところか」

「でもどうやって入ったって言うんだよ」

「おそらくは上から入ったんだろう」

 レオンハルトは空を見上げた。


 柵は四方こそ囲っているものの、上は塞がれていなかった。

「誰がなんの目的かは知らんが、私たち以外にも石碑を調べている人間がいるようだな」

「ここまですれ違わなかったんだ。この先に進めば会えるかもしれねぇ。さっさと北の祭壇に行こうぜ」

 再びジェンセンを先頭に、5人は北へと進んでいった。


「あーあ。バレちゃったじゃん。どうすんのよリゲルちゃん」

 街道の岩陰から5人がいなくなったことを確認して、フロウとリゲルと呼ばれた男が出てきた。

 リゲルは中性的な顔に20代男性の平均的な体型をした生真面目そうな男だった。

 左側に流した髪の毛は雨にぬれて左目を隠すように垂れていた。


「半分はフロウさんのせいですよ! ちゃんと見張ってくれてたら証拠くらい消して隠れたのに」

 均整の取れた顔を(しか)めながら文句を垂れる。

「あーそうかもな。でもあいつら、何だって石碑調べてんだろうな」

 フロウに反省の色は無く、そのまま話を進める。


「僕達と一緒で石碑と村の『祝福』について何か手がかりを得たとか?」

「んーだったらこの件はあいつらで解決してもらいてえなあ。俺たちがあんまり目立つのは良くないし」

「そうですね。それにしてもあの盗賊たち、村に戻ってきてたんですね」

「なんだ、リゲルもちゃんとあいつらのこと把握してたのかよ」

「ええ。ただ、村の豪雨調査を優先させるべきと判断したので、放置してました。正直、彼らがそこまでの悪事を働くようには見えませんでしたし」

「その判断はまあ間違って無いと思う。そもそも俺たちもこんな人手不足じゃなきゃどっちも対応できたんだろうしな」

「そうですよ! ずっと増員希望出してるのに全然人が増えないのなんとかならないんですか」

 突然、リゲルは思い出したかのように怒りを爆発させた。

「気持ちはわかる。だけど俺たちの仕事は誰彼構わず望めば出来るってわけじゃないのも事実だろ。お上も苦労してんのよ」

 フロウは自分たちを取り巻く環境が単純ではないことをリゲルに説いた。

「すみません。軽率でした」

「いや、気にすんなよ。そうやって意見あげることも大切だからな。それより今はこの村の問題解決できるようにこっそり準備しようぜ」

 フロウはリゲルの頭をポンと叩いた。



***



 一方、クリスたちは北の祭壇に辿り着いていた。

 祭壇はクリスたちの背丈と変わらないくらいの高さで、非常にこじんまりとしていた。

 木製でできており、所々に複雑な模様が掘られていた。

 中央には握り拳2つ分程の小さな部屋のような空間があったが、中には何も入っていなかった。


「この空間で不死鳥は羽を休めると言われてます」

「と言うことは不死鳥って思っていたよりもかなり小さいんですね」

「ただ、伝承に書かれている絵には非常に大きな鳥が不死鳥として描かれているんですよね。おそらく、クリスさんたちが想像するような不死鳥と変わらないサイズのものです。だから何かしらの形で小さくなるのではないかと考えています」

「そうなんですね」

 祭壇からはそれ以上の手がかりは見つからなかった。


 祭壇の奥に目を向けると、切り立った崖が広がっていた。

「村の北側はこんな地形になってたんですね」

 これまでの森や街道と違い、祭壇の立っている場所はかなり危険な場所だった。

「はい。そしておそらく、ジェシカを生贄に捧げるとしたら、ここから突き落とすことになるんだと思います」

 ジョンは声を沈めた。


「そうならねえようにこうしてみんなで手がかり探してるんだ。悪い想像ばっかするんじゃねえよ」

「そうだよ。疲れてちょっとマイナス思考になってるだけだ。ジョンは家も近いんだし、東は俺たちに任せて一度帰ってゆっくりするといい」

 ジェンセンがすかさずフォローを入れ、ジャックもそれに合わせる。


「お頭、ジャックさん、ありがとうございます。でも行きますよ。俺もちゃんとジェシカのためにできることは全てやっておきたいですから」

「でも東の石碑は……」

 ジャックが言葉を濁す。

「……あっ!」

 ジェンセンもそれを受けて察しがついたのか慌て出す。


「2人とも気を使わなくても大丈夫ですよ」

 ジョンはそう言うと、不思議そうな顔をしているクリスとレオンハルトの方を向いた。

「俺の両親が事故で死んだって話しましたよね。その現場が東の石碑のところなんですよ。1年前の事故以来、辛くて立ち寄ることは無かったんですけど、そうはいってられません。さあ行きましょう」

 ジョンは覚悟を決めたように堂々と先頭をたって東の石碑へ向かった。

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