第1話 4人の旅人と4人の盗賊
「お頭! 向こうに旅人の姿が見えましたよ」
物見矢倉の上で周囲を偵察していた男が下に向かって叫ぶ。
声の先には無精髭を生やした恰幅のよい男がいた。
お頭と呼ばれていることから、彼がこの盗賊団の頭領であることが窺える。
手には荒く削られた木製の棍棒を持っており、その姿と相まって野蛮な印象を受ける。
頭領の両隣には同じく棍棒を手に持った男が一人ずつ立っていた。
4人はお揃いで緑色のバンダナを頭に括り付けており、一目で彼らが仲間同士だということがわかる。
「ジャック、そいつら金持ってそうか?」
矢倉の上で旅人の動向を窺う男に、頭領が呼びかけた。
「はい! 4人組の若い男女ですが、身なりは結構綺麗で金持ってそうです。武器も持ってますけど、俺たちの相手じゃないっすね」
「けっ、坊ちゃん嬢ちゃんのピクニックかよ。いっちょ俺たちの恐ろしさ教えてやるか。ジャック、降りてこい」
「はい!」
ジャックは矢倉から降りると立てかけてあった棍棒を手に取る。
「このまま街道沿いに進んでくるはずなので、いつも通りそこの岩陰に隠れましょう」
男たちは巨体を揺らしながらそそくさと岩陰に隠れる。
「久々にお金持ってそうですね」
「最近しけた奴らしかいなかったからな」
「ジョン、ジェームズ静かにしねえかボケ」
既に浮かれ気分な2人に頭領が釘を刺す。
「ほら見てみろ、獲物がやってきたぞ」
旅人の姿を確認するため、こっそりと慎重に岩陰から顔を覗かせる。
すると旅人が立ち止まって声を上げた。
「待て、そこの岩陰から気配がする。盗賊かもしれないから注意するんだ」
先頭に立つ金髪の青年が声をあげ、旅人の集団はそこで立ち止まる。
青年は木刀を抜き、身構えた。
これを受けて盗賊の男たちは慌て出す。
「おい、バレちまったじゃねえかよ」
「お頭が顔出すからでしょう」
「んだよ、俺が悪いってのかよ。ええい、行くぞお前ら」
盗賊たちはドテドテと岩陰から姿を表す。
「よっしゃあ、殺さない程度に痛めつけて、今夜は豪勢にいくぞ!」
「「「おー!」」」
4人は棍棒を空に掲げ旅人に襲いかかる。
「くるぞ!」
金髪の青年、レオンハルトが声を上げると、クリス、トワ、エマの3人は数歩後ろに退き、固まって剣を構えた。
「うおおおー」
棍棒を高々と掲げ、盗賊たちが駆け寄ってくる。
それに合わせてレオンハルトも前へと踏み込む。
盗賊の1人、ジョンが振り下ろした棍棒を紙一重でかわすと、腹を薙ぎ払う様にして振り抜いた。
「ぐげぇ」
重い一撃を受け、手に持っていた棍棒を取り落としてジョンはその場に倒れ込む。
「ジョン、大丈夫か!」
頭領の声を受けて、ジャックとジェームズもジョンを見る。
「お前ら、まずはこいつから片付けちまうぞ! いけすかねえ金髪野郎が」
頭領は足元に落ちていた石を拾い上げると、レオンハルトに向けて投げつける。
「くっ、小賢しい」
咄嗟に石を避け、敵が視界から外れる。
頭領はその隙に一気に距離を詰め、棍棒を薙ぎ払うように振り回した。
一瞬判断が遅れたものの、すぐさま棍棒を木刀で受け止める。
弾き飛ばされるように、後ろへよろけた所へすかさずジャックとジェームズが追い討ちをかける。
辛くも攻撃をかわしながらジリジリと後退する。
レオンハルトは一発も攻撃は受けておらず心身ともに余裕は残っているものの、3人の猛攻に攻め手を欠いていた。
そこへ突如、拳ほどの大きな石が飛んできた。
ゆったりとした放物線を描いた石は見事にジャックの後頭部にヒットするとそのまま地面にごとりと落ちた。
それと同時にジャックは頭を押さえながらもんどりうって倒れた。
「なんだ、何があったんだ」
頭領は振り返って周囲を見回した。
すると少し後方で両手を上げてはしゃぐエマの姿があった。
「よーし、かんっぺき! どんどん行くよ」
エマは足元の石を大きいものから選んで頭領とジェームズへ投げつけようとした。
「テメェ舐めてんのか! ああっ!」
2人は踵を返してエマの方へ向かう。
「さっきのレオンハルトへのお返しだよー」
あっかんべーをして挑発すると2人は顔を真っ赤にしながら走り出そうとした。
それをレオンハルトは見逃さなかった。
ガラ空きの背中に木刀を打ち込む。
無駄なく一発ずつで確実に仕留めた。
***
レオンハルトとクリスは気絶した4人を木に縛る。
「本来ならこの国の騎士団にでも引き渡したい所だが、私も目立つわけにはいかないからな」
結び目をキツく縛り上げながら呟く。
「ありがとうございました。やっぱり強いですね」
「まあこれくらいならな。それに今回はエマに助けられた」
その言葉にエマはピクッと反応して駆け寄る。
先程まで暇を持て余し、道端の石から投げやすそうなものを探していたため、手には程よい楕円を帯びた石を持っていた。
「僕もなかなかやるでしょ」
にんまりとした笑顔を浮かべて自慢げに語りかける。
「調子に乗るんじゃない。あんな大きな石を投げて肩を痛めるぞ。それに私に当たったらどうするんだ」
「ちゃんと当てたんだからいいじゃんか。何さ、活躍した時くらい面と向かって褒めてくれてもいいじゃんか」
エマは口を尖らせて不満を露わにする。
「気を逸らすのが目的なんだから当たったかどうかは重要じゃないだろう。……まあ確かに助けられたよ。ありがとう」
レオンハルトもあまりヘソを曲げられても困ると思い、感謝を素直に口にした。
エマはたちまちパアッと笑顔を咲かせ、鼻歌まじりにトワの元へスキップして戻っていった。
「小さな子どもみたいだな」
「そうですね。っと、これでよし」
2人のやり取りを横で聴きながらクリスは黙々と作業を続け、最後の1人を縛り上げた。
「お疲れ様」
「いえいえ」
「ところでクリス、最近筋肉ついてきたじゃないか」
肩まで捲りあげらて露わになった二の腕をレオンハルトは指差した。
「そうですか? 一応、毎日素振りしてますからその効果ですかね?」
照れながら袖を戻して二の腕を隠すと、頭をかいて誤魔化す。
「恥ずかしがることは無い。弛まぬ丹念の成果なら誇るべきだ」
「そういうものですかね」
旅立った頃に比べてクリスの体つきはかなり逞しくなった。
しかし、旅立ってから今に至るまで、戦いに勝った事はない。
それどころかレオンハルトの強さを目の当たりにして、己の弱さを痛感していた。
クリスにしてみれば成果のない肉体の成長を誇ることが少し気恥ずかしかった。
「準備できたから行こうか」
話を切り上げてクリスはトワとエマに声をかけてその場を後にした。
***
4人がその場を離れた後、フロウが気絶した盗賊達へと近寄った。
「おい、大丈夫か。生きてるか?」
フロウは意識を確認するようにペチペチと頭領の頬を叩いてみる。
「うう……あんたは……スカーさんですか!?」
頭領はフロウの顔を見て驚きを露わにした。
「あーそうか、お前らといた頃はそんな名前名乗ってたな」
ボソッと呟くと頭領は不思議そうな顔をした。
「気にすんな、こっちの話だ。それよりお前らまだこんなくだらねぇことやってたのかよ。前に斡旋してやった働き口はどうした?」
口調こそ柔らかいものの、言葉尻には棘があった。
「最近までちゃんと働いてたんですよ。でも村が雨続きで仕事どころじゃなくなっちまって仕方なく……」
「なあ、仕方ないならこういうことしてもいいのかよ」
フロウはドスの効いた声を出し、顔を近づけながら頭領を睨みつける。
「いえ……ダメです」
消えそうなほどの小声を振り絞るように出す。
顔面は蒼白で、額には脂汗が浮かんでいた。
「だよなあ。ダメだよなあ。わかってんならするんじゃねえよ!」
突然怒鳴り上げられ、頭領は今にも泣き出しそうだ。
「今回は痛い目にあった様だし、見逃してやる。次は無いからな。隣でいつまでも寝てる子分どもにも伝えとけ」
そしてポケットから取り出したナイフで紐を切ってやる。
「いいんですか?」
「こんなところでくたばられても困るからな。マジで次はないからな」
「はい! ありがとうございます!」
まぶたに溜まった涙を堪えながら、頭領は土下座して感謝を述べた。
「こんなの野放しにして。リゲルの奴は何してやがんだよ。まったく」
愚痴を一つ吐き捨てると再び4人を追いかけていった。




