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第10話 レオンハルトという男

 3人は約束の広場に着いた。

 周囲を見回すと人目に付きづらい木陰(こかげ)から金髪の男が出てきた。


「やはり、約束通りに来てくれたか」

 レオンハルトは3人がやってくることを信じて疑わなかった様子で迎えた。

「一方的な指定で約束などではなかったがな」

 トワは嫌味ったらしく毒づく。

「確かにそれもそうか。とりあえず、場所を移そう」

 レオンハルトはトワの嫌味など意に介さず話を進めようとする。


「おいちょっと待った。ここで話をするんじゃないのか?」

 トワは先程よりも強い語気でレオンハルトを睨みつける。

「ここは集合場所としてわかりやすいから指定しただけだ。お互い、町の中ではおおっぴらに話せない事情があるだろう?」

 またしてもトワの言葉は聞き流され、レオンハルトは話を進めようとする。


「ちょっとタンマ」

 エマが会話に割って入ると、2人の肩に手を回して顔を近づける。

 そして2人にしか聞こえないようにひそひそと声を出す。


「これってトワが言ってた良くないパターンじゃない?」

「どうだろう。ちょっと生真面目すぎるだけかもよ?」

「クリスさ、流石にそれは呑気すぎない? 僕も周りにあいつの味方はいなかったって言ったけどさ、よく考えたらこの3日間で準備してるかもしれないし」

「だから言ったじゃないか。とはいえ今更逃げる訳にもいかんだろう。私に考えがある。このまま奴のペースで話をされるのは不味いからな。少し(あお)ってみるとしよう」

 トワは2人に向かって不敵な笑みを浮かべた。


「何を話しているのか知らないが、話を(さえぎ)られるのはあまり気分の良いものではない。そろそろ続きを話しても良いだろうか?」

「ああ、すまない。そうだな、場所を変えると言う話だったな。そうやって仲間の元に誘き出すつもりだろう。相変わらず騎士団は姑息(こそく)な真似をするな」


「今、何と言った?」

 トワの予想通り、レオンハルトはその言葉を看過(かんか)できなかったようだ。

「君がこれまでどのような仕打ちを受けてきたかは知らん。しかし私をひいては皇帝陛下と国を守る気高き騎士団を愚弄(ぐろう)するのは許さん!」

 レオンハルトは先程までの落ちつきとは打って変わって(まく)し立てるように一息で反論した。


「その騎士団の、しかも隊長ともあろう御人(おひと)は随分と悪逆非道(あくぎゃくひどう)だったぞ」

出鱈目(でたらめ)を言うな!」

「出鱈目かどうか確かめるために私たちを呼んだんじゃないのか?」

「くっ」

 売り言葉に買い言葉で否定したレオンハルトではあったが、不可解なアンダーソンの死の真相を確かめることもトワたちを呼び出した理由の一つだった。


 少なくとも彼は騎士団の公明正大な姿を信じており、彼自身もそうあるために日々努力をしている。

 しかしどんな立派な組織でもその規模が大きくなれば腐敗が生じることは歴史が証明していた。

 それを知っているからこそ、自らの手に入れられる限りの情報で真実を判断したい。

 それがレオンハルトの本意であった。


「すまない。冷静さを欠いてしまった。どうすれば君たちに信じてもらえるだろうか」

 額に手を当て、ふうと一息吐くと冷静さを取り戻し、本題に戻る。

 先程までの正当さにかまけた強引さは無くなっていた。


「そりゃあ気高い騎士様からすれば罠など無いことは当然で、その前提の下に私たちを他の場所へ呼び出すことは至って普通の申し出かもしれない。しかし私たちからすれば騎士様に対する一切の信頼感はないわけだ。にもかかわらず、私たちは手紙で指示された通りにここへやって来た。だったら今度は私たちの指定した場所に来るくらいの誠実さを見せてくれないと不公平じゃないか?」


 トワはこの男の持つ純粋さを少し信じ始めていた。

 だからこそ、これ程までに好戦的に彼の騎士道精神を良くも悪くも刺激するような物言いをしており、強引に自分のペースに持っていっていた。


「確かに、配慮が足りなかったかもしれない。申し訳ない。ではどこに迎えば良いだろう?」

 殊勝(しゅしょう)にも謝罪の言葉まで口にされ、やや毒気が抜かれたが、トワの思惑通りレオンハルトの指定する場所に連れて行かれることは回避できた。

「そうだな、場所は……ちょっと待ってくれ」


 場所のアテなど自分には無い事を思い出して、トワは問答を黙って見守っていた2人に向き直り、肩にてを回して再び密談を始めた。

「2人はどこか、人目につかない場所を知っているか?」

「僕は3日前にここに来たばかりだし全然知らないや。クリスは?」

「うーん。あっ、市場の先に空き地があるんだけど、そこはあまり人が来ないから大丈夫かも」

「クリス、出来したぞ!」


 トワは2人の肩から手を離すとレオンハルトに向き直った。

「待たせてしまってすまないな。町の市場を抜けた先に空き地があるんだ。そこなら人目にあまりつかないからうってつけだ。そこでどうだろうか?」

「そちらに場所は任せたのだ。従おう。ただ、あまり目立つルートは通りたくない。市場を迂回することはできないだろうか?」

「クリス、行けそうか?」


 頭の中で、市場近辺の地図を思い浮かべるといくつか候補が思い浮かんだ。

「多分大丈夫」

 こうして4人はクリスの案内のもと、フロウとの特訓に使われていた空き地へと向かった。



***



「ここから行きましょう」

 市場の手前まで来たところで、クリスは路地を指さした。

 それはクリスがレオンハルトに襲われた路地だった。


 特に気にする様子もなく進むクリスに対してレオンハルトが申し訳なさそうに語りかける。

「手紙にも書いたが、先日は済まなかった。怪我などはしないように加減したが大丈夫だったか?」

 その言葉を聞いてクリスは思わず笑い出す。

「なぜ笑う?」

「だって、突然襲いかかっておいて相手の怪我を心配するなんておかしいじゃ無いですか。それに逃げる時、律儀にお金を置いていったのも変ですし」

 あまり大きな声を出さないようにと口に手を当てて、音を殺しながらクリスは笑う。


「確かにそう言われると私の言動は実に奇妙だったかもしれない。しかし、あの時君を強引に引っ張って食材をダメにしたのも事実。金銭だけで解決する問題ではないが、それでも可能な限りの補償は必要だっただろう」

 レオンハルトの騎士としての誇り、正しくあらんとする心持ち、根っからの真面目さ、それらが合わさることで生まれたチグハグな行動を思うとクリスの笑いは止まらなかった。

 それと同時に、やはりクリスはこの男を疑うことはできなかった。


「異国で様々な制限がある中ではあれが精一杯だったのだ。あまり笑わないでくれるとありがたい」

 レオンハルトはこの日初めてみせる恥じらいの表情でクリスに懇願した。



***



「着きましたよ」

 空き地には想定通り誰もいなかった。

「へー確かにここなら人がくる心配はなさそうだね」

 エマは軽く走りながら空き地を見回す。


「ついて早々で申し訳ないが」

 レオンハルトはトワとクリスを見ると、表情を険しくする。

「クリス、トワ、私と手合わせ願いたい」

 レオンハルトは腰に下げていた木刀を2本抜くと2人の前に1本ずつ置き、自身も木刀を抜いた。

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