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第27話 100年越しの仲直り


「フレッドさん、おはようございます」

翌朝、クリスはいつもの時間にフレッドの元を訪ねた。

部屋にはエドもいて、どうやら足の様子を見てもらっているらしい。


「こっちはどうだ」

フレッドは無骨な指で繊細に患部を触診する。

「その辺は痛みなくなりましたね」

「じゃあここは?」

「あーその辺り痛いっす」

エドはわずかに顔を顰めるが、本気で完治を目指しているのだろうか真剣に受け答えをしていた。


「ま、あと少しかかるだろうな。それまでは無理するなよ」

「わかってますって。もうあんな無茶はしませんから」

エドは罰が悪そうに苦笑する。


「おう、クリスおはよう」

フレッドは部屋まで入ってきたクリスに挨拶をする。

「さてと、それじゃ俺は行きますわ」

「いや、ちょっと待て」

エドが杖を片手に立ちあがろうとするのをフレッドは静止した。

「クリスもそこにかけてくれ」

促されるまま2人は椅子に座る。


「クリスは行くんだろ?」

「はい。わがまま言って弟子にしてもらったのにトワを診てもらったらすぐ辞めますなんて虫が良すぎると思います。でも、1日でも早く彼女を不死から解放してあげたいんです」

昨日のフレッドとの会話や短期間だが築き上げた関係性から誤魔化しは通用しないと考えていた。

だからクリスは自分の不義理を認めながらも、本心を語った。


「そうだろうな。それで良い」

フレッドはやはりわかっていたのか、納得して頷く。

「俺だってこの街と、そこで生きる人が優先して嬢ちゃんを診ないでいたんだ。自分のやるべきことがあるなら誰に何言われようがその大切なものを死守する。それが俺の考え方だ。だからクリスのことは責めないしむしろ短い間だったが感謝してるぜ」

フレッドはクリスに手を伸ばす。

師匠の意志を注いでこの街を守り続けたそのしわがれた手をクリスは両手で包み込むように受け止めた。

「お世話になりました」

「達者でな」


「それでだ」

しんみりとした雰囲気から一点、妙に明るい声色でエドの方を見る。

「弟子がいる生活に慣れたせいか、俺は新たな弟子を求めている。エド、お前俺の弟子になれ」

全く予想していなかった展開にエドは数秒フリーズした。

そして言葉の意味がようやく理解できた頃、焦って首を横に振り始めた。

「いやいや、俺には無理ですよ。だってほら、勉強とか苦手ですし、不器用ですし」


「そんなもん続けてりゃそのうちマシになるんだよ。怪我治るまでどうせ動けねえんだからここでみっちり仕込んでやるよ」

フレッドはその大きな手でエドの肩をボンと叩く。

「勘弁してくださいよ」

「な?」

肩に置かれた手に一層力が入る。

そこには有無を言わせない雰囲気が漂っており、エドも勘弁して両手を上げた。

「お手柔らかにお願いします」




「ここがモネのお墓か」

クリスはフレッドに聞いてトワと共にモネの墓参りに来ていた。

大きな木の木陰にぽつりと建てられた墓標は枝葉をかき分けて差し込む日差しにキラキラ光っている。

「この木もモネの木って言うらしいよ。こっちではよく使われる薬草なんだって」

「モネの母親も医者だったからな、それで名付けたのかもしれないな」

トワは色とりどりの花束をモネの前におくと手を合わせた。


モネ、ずっと勘違いしていてごめんなさい。

100年もかかってしまったけど、モネの気持ちがわかって嬉しかった。

モネと私を引き合わせてくれたのは横にいるクリスなんだ。

本はクリスに預けようと思う。

私よりもずっと役立ててくれそうだし、必ず大切に扱ってくれるから。

今一緒に旅してる友達もすごく良い人たちなんだ。

私と旅を続けてくれるのか聞いたら、「友達なんだから当たり前じゃん」って言ってくれるような温かい人。

「使命があるから断られてても着いていく」と言いながらいつも守ってくれる誠実な人。

次にここへ来るときは2人も一緒に連れてくるから紹介するよ。

いつになるかわからないけど、必ずまたここに来るからまたね。

ありがとう。


「もういいの?」

トワが目を開けたことに気づきクリスが尋ねる。

「ああ、伝えたかったことは伝えられた。それにいずれ、もっと大きくなれた時にくるさ」

「そうだね。また来よう」




「2人にはいろいろ迷惑かけちゃったな」

同じ頃、エマとレオンハルトはエドに会っていた。

「それでもエドが生きてることがわかって私は嬉しかったよ」

レオンハルトはエドのことをもうクレイグとは呼ばない。

「僕はもっといろんな話聞きたかったなあ。レオンハルトのちっちゃい頃の話とかさ」

エマが悪戯っぽく笑うとエドもつられてニヤリと笑う。


「そうだな、あれはレオンハルト坊やが12の時なんだが」

「おい、その話はよせ」

慌ててレオンハルトはエドの口に手を塞ぐ。

「えー良いじゃん、教えてよ。レオンハルトのケチ」

「良いわけあるか!絶対話すんじゃないぞ」

エドはレオンハルトの手の下で口をモゴモゴ動かしている。


「ちぇ、つんまんないの。ま、こんなに焦ってるレオンハルトも初めてだからそれはそれで貴重かもね」

エマの笑顔を見てレオンハルトも肩を落としながら苦笑いする。

「今日のところはそれで勘弁してくれ」


「それじゃ、エドさん元気でね!」

「エマもな!」

「エド、私はもう少しだけ色々見てから結論を出すことにするよ」

「ああ、俺には選べなかった道を進んでくれ」

エドが小さく手を挙げるとレオンハルトも同じだけ小さく手を挙げる。

レオンハルトはそれでクレイグに2度目の別れをした。




「おーい、お待たせ!」

街の入り口で待ち合わせていたトワとクリスにエマが手を振る。

「そんなに待ってないよ」

「ならよかった」

「じゃあ行こうか」

トワは100年ぶりにこの街を出る。

2度と戻るまいと思った街を惜しみながら、また訪れる日を想いながら。

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