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第25話 届いた言葉

「フレッドさん、来ましたよ」

昨夜あまり寝付けなかったクリスは眠い目をこすりながらもトワと約束の時間にフレッドを訪ねた。

「おう。入ってくれ」

出迎えがないのは信頼の証と受け取り、勝手に扉を開けるとリビングまで進む。


「それで、どういう事情で診察をご所望なんだ?」

フレッドの向かいにクリスが、その隣にトワが座る形になる。

「実はトワは不老不死なんです」

そこで一呼吸置いて反応を伺うが、フレッドは次の言葉を黙って待っていた。

それを理解してクラスは説明を続ける。


「300年前に人体実験を受けて以来、トワは老いることなく傷ついてもすぐに治癒して生き続けているんです。それで、トワの不老不死を治療する方法を探して僕らは旅してました。フレッドさんにはトワを診て原因を調べて欲しいんです」

「クリスが説明してくれた通りです。信じてもらえないようであれば証明するのでどうかお願いします」

クリスとトワは深々と頭を下げた。


「わかった。診るだけ診てやるよ」

フレッドは少し困り顔ながらも2人に頷いた。

「信じてもらえるんですか?」

「いや、まあ信じられるかって言われると難しい話だけど、クリスが嘘つくとは思えないからな。嘘じゃないとは思ってる。それに……いや、これはいいか。証拠も見れるなら見てみたいがな」


「わかりました」

トワはすぐに懐に忍ばせていたナイフを取り出して自分の腕を切りつけようとした。

が、そこで一瞬躊躇う。

いきなり自傷行為に走ることはフレッドを混乱させてしまうのではないだろうか。

それはモネとのやり取りを思い出して得た気づきだった。


「嬢ちゃん、何しようとしてるんだ」

振りかざした途中で止めた右の手首をフレッドが掴む。

「傷つけて、それがすぐに治癒する様を見るのが手っ取り早いので」

「そんなことしたら血で汚れちまうだろ。それとも出血もしないのか?」

フレッドはトワの右手をゆっくりと机に置く。


「それに、痛みはないのか?」

「ありますけど、すぐ治りますから」

フレッドはトワの腕から手を離すと手を組んで椅子にのけ反る。

「だったらなおのことダメだな。痛くない方法もあるだろ?爪とか髪とか切るのはどうなんだ?」

「できますけど、命に関わらない傷は治りがそんなにはなくないので不老不死の証明にはあんまりかと」

「いや、それでいい。それでいいから見せてくれ」

そしてトワは髪の毛を数センチ切って見せる。


「夕方くらいには多少の変化がわかるはずなのでそのタイミングでまたきます」

トワは切った毛先をまとめると立ち上がる。

「待てよ。まだ診てないだろ」

「でもまだ証明には」

「出来ればでいいんだよ。とりあえず色々診ていくから、クリスも立ち会うよな?」

「えっ、僕もですか?」

「これも勉強の一つだ。それに一緒に旅してるなら日々体調を診て変化なんかをつけられた方がいいだろ」


それから小一時間程、フレッドはトワの体調や傷が治る時の様子、身体の変化について見て聞いて触って確かめた。

「不老不死なんて当然ながら初めてだ。だから何とも言えないが、嬢ちゃんの体は至って健康だな」

毎回想像しているとはいえ、やはり落胆してしまう。

「むしろ悪いところが見つからない。どんなに健康な人でも多少は悪いところもあるのにそれが一切ないのは正直気味が悪いくらいだ。怪我を負っても傷跡ひとつ残らないし、俺としては人体が100パーセント万全の状態になるよう、常に修復されている、そんな気がする」


2人とも返事は出来なかった。

「まあ今日の状態は記録できたわけだし、今後はクリスが嬢ちゃんの様子を見て変化を見つけていく様にしよう」

「そうですね。それだけでも収穫ですよね」

クリスは空元気を出してフレッドの言葉に頷く。

一方トワはこの旅がこれからも終わらないことを悟り、クリスたちと別れる覚悟を決めようとしていた。


沈黙を嫌ったクリスが話を変えようと鞄から本を取り出す。

「フレッドさん、この本なんですけど」

クリスはフレッドに借りていた本を差し出した。

「それがどうかしたか?」

「最後のページを間違って見ちゃって……ごめんなさい」

自分以外の誰かに宛てた遺書を見てしまった罪悪感からクリスは謝罪の言葉を口にした。

チラリとしか見ていないから定かではないが、フレッド宛でもないかもしれない。

それでも今の所有者がフレッドである以上、謝罪の対象はフレッドしかいなかった。


「最後のページってどういうことだ?」

「あの、師匠さんの遺書が書かれてたのに気がつかなくて少しだけ見ちゃったんです」

「なんだそれ?」

フレッドはクリスから本を受け取ると最後のページを開いてみる。


「師匠いつの間にこんなの書いてたんだ?」

「フレッドさんも知らなかったんですか?」

「ああ、師匠が死んじまってからこの間までこの本はしまいっぱなしだったからな……そうか、やっぱり」

フレッドは最後のページを読みながら二言ほど呟いた。


「嬢ちゃんの名前ってトワだよな?」

「そうですけど?」

「もしかして100年くらい前にこの街来たことあるか?」

「なんでそれを」

フレッドは本をトワに差し出す。


「この本はこの文章は俺の師匠モネから親友のトワに宛てたものみたいだ」

トワはよくわからないままに本を受け取ると最後のページを読み始めた。

そこにはトワの元から立ち去った理由と謝罪、それからもトワのことを想い進めた研究、そして大切な親友に対する感謝が綴られていた。

「なんだ……これは……」


一文読み進めるごとにトワの頬を涙がつたう。

浅はかだと戒めた自分の行動や分かり合えないと切り捨てた友情に対する後悔とモネが最期まで自分のことを想ってくれていたことへの感謝と負い目。

様々な感情がないまぜになったトワはそのページから目が離せなかった。

一番最後の一番新しく綺麗なページは涙でしわくちゃになっていた。

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