2.料理
洗濯を終えたガルドスは気分が浮き立つのを感じていた。
「俺にかかればこんなもんだぜ。」
見るからに有頂天である。
今にも鼻歌を歌い出しそうだ。
「ええと。次にやらなきゃいけないのは料理、か。」
次に彼が目をつけたのは、料理だった。
「こう見えても、料理は毎日食っているからな。どうやって作るのか、なんとなくわかるぜ。」
食べることと作ることにはなんの関連性もないのだが、ガルドスは自信たっぷりであった。
「とりあえず、焼肉にするか。」
「まあ、最初だしな。焦っても仕方ないだろう。」
肉を、焼くだけ。焦げ無ければ問題ないという神の料理。
これならいかにガルドスでもできるだろう。
保存していた肉を取り出して、洗濯跡地に行く。
水天神を受けた跡地は、爆心地のようにえぐれていた。
しかもびちゃびちゃしている。
だが、ガルドスにとっては瑣末なことのようだった。
「とりあえずこんなものか。」
鉄板の上に肉を置いている。準備は完了したとでも言いたげだった。
「来たれ 地獄の業火よ 獄炎神」
黒色の炎が顕現した。
舐めるように、鉄板を焼いていく。
どう考えても、火力が過剰である。
「フハハハハ。いいぞ。いい炎だ。」
ガルドスは悦に入っている。
火力の違いなど、頭にはないようだ。
獄炎神。
地獄の業火を呼び出し、すべてを焼き尽くす魔法である。
国一の魔法使いであるところのガルドスならではの魔法だ。
間違っても肉を焼くのに使うものではない。
雨の湿気は吹き飛ばしたが、それどころの騒ぎではない。
あんなに美味しそうだった肉は一瞬で黒焦げになった。
「⋯⋯ ?」
ガルドスは状況がよくわかっていないようで焦げた肉をつまんで首をひねっている。
焦げているという状態がどういうものなのかわかっていないようだ。
少なくとも、これはこれまで食べてきたものには程遠いということだけはわかった。
「いいだろう。リヒトにできて俺にできないはずがない!」
失敗も原動力に変えるのが彼の美徳であり欠点である。
追加の肉を持ってきて、もう一度鉄板に置く。
予算など考えている様子はない。
彼はただ料理ができればそれで良かった。
もちろん2回目でできるとは言っていない。
ダークマターを10回ほど錬成した後、ガルドスは何かに気づいたようだった。
「焼けてはいる。おそらく、焼き過ぎが原因だ。」
途中までは確かに合っていた。
ただ、火の勢いを弱めるという発想はガルドスにはなかった。
「なら、再生魔法を使えばちょうどいいくらいになるんじゃないか?」
違うそうじゃない。
「すべて 混ざりゆく定め 原初に戻れ 生神」
国一のアークメイジだからこそなし得る再生魔法。
物体を元の状態に戻す。それはもちろん生き物でも可能である。
もともと大雑把にしか戻せないと言う弱点こそあったのだが、今回はそれこみでうまくいった。
地獄の業火が強すぎて、再生がぴったりと焼き肉の状態にしたところで止まったのだ。
「フハハハハ。自分の才能が恐ろしいな。」
ガルドスは高笑いをしているが、力技にも程がある。
もうちょっと繊細なコントロールとか、できないよな⋯⋯ 。
ガルドスだもんな⋯⋯ 。
そんなこんなでなんとか料理を仕上げたガルドス。
そこにパーティメンバーが帰還してきたのであった。
剣士リンクル、拳闘家ミラノ、僧侶クリス。
今回は、拠点の近くで魔物狩りである。
基本的にガルドスがいくと換金部位が残らないため、資金に余裕がない時は、この体制でいくことが多い。
「ちょっと待って。何これ。」
涼やかな美青年といった顔立ちのリンクルは、野営地の惨状を見て顔をしかめた。
「どうせガルドスさんが暴れたんでしょ。いつものことだよ。」
拳法家のミラノはショートの髪に身軽な服装の少女だ。活発そうな顔に諦めを載せている。
「ふふふ。それがガルドス様ですから。」
微笑むのは僧侶のクリス。
パーティ唯一の回復職であり、生命線である。
リヒトもポーションを持ち運んではいたが、基本的に強敵との戦闘では彼女の力が必須となる。
「おう、お前ら帰ったか。とりあえず飯を食え飯を。」
「へえ、これは美味しそうだ。」
「やっぱりリヒトくんはいい仕事するね。」
「そういえば、リヒトはどこにいるのでしょう。姿が見えませんが。」
「聞いて驚け。俺が作ったんだぜ?」
「またまた。冗談を言う歳でもないでしょうに。」
「私でも嘘ってわかるよ。」
「謝ったら神様も許してくれますよ。」
「俺リーダーなのに信用なくない?」
「それはだって、リーダーですから⋯⋯ 。」
三人は口を揃えて言った。
三人で共通認識があるらしい。
恐らくそれは当たっている。
「とりあえず食ってみろよ。うまいぞ。」
「はいはい。」
「説明してよね。」
「そうですよ。」
「食ったらな。」
そうやってごまかしながら、ガルドスは、どう説明したものかと頭を悩ませていた。
自分の中には一本芯の通った理由があるのだが、これを言うと、こそばゆい。
つまりは恥ずかしい。
仲間だからこそ知られたくない恥ずかしさと言うか、そんな感じだ。
ともかく、再生魔法で戻した焼肉の評判は上々であった。
ガルドスは、焼肉の作り方(力技)を覚えた!