はじまりの事件
「やあ、待ってたよ。」
シンジは、階段に立っているカズヒサに向かって言った。
「お前さ、このエリアって未開放な場所だろ(笑)」
「こんな所に入れるなんて、何したんだよ」
「バイバイって掲示板サイトがあるじゃん。あそこで書き込んだんだ」
シンジは、垢抜けた顔で言った
「バイバイって、掲示板経由で色んなものが売り買いされてる実質はオークションサイトのあれ?」
「そうだよ。」
「シンジ〜。こんなところに入れるチケットなんて売ってるやつドコのどいつだよ」
「支払いも電子通貨じゃないんだろ?バイバイってやばいもんが売ってるから、
現金でやり取りしてるってじゃん。」
「相手がどんなやつかわからんじゃんかー」
シンジは、空を見上げてカズヒサの言葉にはあまり耳を傾けなかった。
「カズヒサ。まあいいだろ。このエリアの建物で一番高いし見晴らしも綺麗なんだ」
「こんな景色を見たかったし、まだ開発途中のエリアだけど僕にとっては面白いことがたくさんあるんだ。」
「確かに、景色はすごく綺麗だけどさ〜」
「なんか、誰も居ないしメンテナンスが来たら嫌だなあ」
「げ、シンジ。ここ高いわあ。それに壁もガラスもないっと思ったけど、こっから飛べそうだな」
カズヒサは、無防備にシンジへと近づいてくる。
「そうなんだ。ここってバイバイで手に入れただけあって特別なんだよ」
「例えばさ…」
手の届く範囲に近づいてきたカズヒサに向かって、拳を振り抜いた。
全く予想外の行動にカズヒサの顔面に拳がめり込みぐらついた。
見たことのないような、光が見えたよう気がする。
「ちょ、ちょちょ」
慌てているカズヒサにめがけて、さらに力を加えた拳を叩きつける。
「ぶ、ぶは…」
鼻から血がボタボタと垂れて、殴りつけたシンジもカズヒサもビックリする。
「あはは、血が出てるよ。赤いのな。これ大丈夫か??」
カズヒサがビックリして、逃げようとする。
「待って、待って逃げんなよ」
カズヒサが手と足を地面につけてまるで四つ足の動物のように逃げようとしているのを捕まえて
壁のない外側の方へ蹴飛ばした。
カズヒサは、赤く染まり必要以上に流血している状況に困惑しているのか
それとも、それ以上の苦痛が実際に体感できているのか?わからなかったが
シンジの手にはジンワリと痛みを感じた。
「殴ると、痛えんだな」
「俺、昔さお前にこんな感じで殴られたんだよ」
「えっ?ちょっと意味わからなんだけど」
「どういうこと?昔?お前とは最近知り合ったばかりだし殴ったことなんてないだろ…?」
困惑しているカズヒサ。
「確かに、お前と知り合ったのは最近かもな。」
「でも、どうだっていいんだよ。お前のせいでさ嫌なことを思い出したから」
「それをリセットできればそれでいいんだ」
「もういいよ。カズヒサ。もう何も口に出すな。」
シンジは、あらかじめ準備していた鉄パイプを取り出した。
「これで殴ると痛いから、最悪殴っただけで死んじゃうかもしれないけど」
「え?シンジ。何言ってるんだよ。意味わかんねえよ」
困惑しているカズヒサに、鉄パイプを叩きつけた。
ズガっと鈍い音がしてカズヒサの顔面からさらに血が出た。
「あれ?これ意識飛んだか?」
「すげえな。リアルだ。ほんとリアルだわ」
「僕には、こんな趣味もないから終わらせてしまおう」
シンジは、動かなくなってしまったカズヒサを引きずり
壁のない場所から地面へ向かってカズヒサを捨てた。
「念のために、下へ見に行こう。メンテナンスがいないとはいえエンジニアに見つかったら大変だ」
シンジは、下に落ちたカズヒサを確かめに階段を降り始めた。
「意外とあっさりだったな。」シンジは思った。
「カズヒサ。死んだかな。」
「僕が小学校の時に受けた苦痛や痛みに比べたら大したことじゃないだろう」
「カズヒサ。お前が虐めてた事を告白さえしなければ僕はこんなことしなかったよ」
「小学校の時に、女子の前でズボン脱がされたりさ、イライラするって言って殴ったり」
「ほんと、辛かったわ。忘れてた記憶なのに。ほんと嫌なやつだわ」
シンジは、階段を降りながら小学校の時のイジメの体験を思い出していた。
カズヒサが地でぐちゃぐちゃになっている。
「げ、リアル」
「ここまで、細かく作り込まなくてもいいんだよ。いやいいのかな??」
「これ、死んだな。カズヒサ死んだわ。」
「俺の思い出とともに成仏してくれ。」
「実際に、お前が俺をいじめた本人じゃなくっても俺の気持ちは晴れたからさ」
「ぼちぼち、エンジニアがメンテナンスを動かすかもしれない」
「そろそろ、ログアウトしなくっちゃ」
シンジは、ブツブツと言いながらカズヒサの粉粉になっている身体を
確認した後でメニューを目の前に出し、ログアウトした。
ヘッドマウントディスプレイを取り、<現実>に帰ってきたシンジ。
カズヒサを殴った手が痛むのを感じる。
シンジは、少し放心状態であったがスマホから着信音が鳴る。
突然の着信音にびっくりするが、携帯に付いているディスプレイを見た。
着信者は、バイバイで違法のVRデバイスを販売していたヤツからだった。
シンジは、電話を手にとって通話を押した。
「売ったものは、手に入ったよな」
「あ、無駄口は発しなくていいからな」
「ああ。」っとシンジは答えた。
「金は、現金で新宿西口の改札付近のロッカー。132番に入れておけ」
「ロッカーの鍵は、そのまま上にテープで止めて置いておけ」
「近くから見てるからな。変な真似すんなよ」
「ああ。」っと静かに答えた。
売ったヤツの声が、女?だったがボイスチェンジャーで変えてるだけかもしれないし
声の質でどうこう思うような時代でもないしリスキーなので考えないようにしたシンジ。
取り外した、違法のヘッドマウントディスプレイをその場で分解し始めた。
内部機器、外装、カメラなどいくつかに分解をし通信機器やGPS機能系の
ハードをハンマーで叩いて粉々にした。
粉々にした部品はトイレに流し、その他の部品は袋に詰めて店を出た。
数日後
「警部。この遺体ですが、目立った外傷もなく最近起きてる事件と同じかと」
「遺体を見る限り、そうだな。」
ヘッドマウントディスプレイをつけた男が倒れ込んている。
「遺体の名前は、ナカムラ カズヒサ。この部屋も本人の自宅のようです」
「VRコミュニケーションアプリ リンクを使用中にショック死したようです。」
「警部、最近多いですね。この手の遺体」
警部は、手を当てて拝み終わると顔を上げた。
「このデバイスとソフトを作ってるインダストリアルデザイン社が精神とリンクしすぎるって
いう話でアプリケーション内の暴力行為や危険行為は禁止してるはずなんだがな」
「インダストリアルデザイン社は、訴えられまくってるから早くデバイスを回収すべきですよね?警部」
「デバイスを回収して技術班に回しておけ」
「はい」
「デバイスに改造した気配がないから、ソフトを調べろ。徹底的に。」
「その結果次第では、他殺もありえるぞ」
「わかりました。」




