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精々逝生

作者: 黙示

 バイトを辞めた。

出勤日数一日で辞めた。

店長に電話したとき、性懲りもなく泣いた。

泣きたいのはあっちだぞ。自分で自分を責めて、最後に店長の労りの言葉でむせた。

兎に角早く、俺は絶命すべきである。


 毎日、毎日毎日考える。

苦しみながら、もがきながら、俺が生きる意味を。

そして答えが出ないことに絶望する。






 ピコン。スマホがLINEが来たことを知らせた。

母親だ。

一ヶ月前に『バイト決まった』なんて送った自分が眩しい。スタンプまで添えている。グッドじゃない。全然グッドじゃないよ。


『じゃあ今月から仕送りしなくて大丈夫?』

『うん。ありがとう』


バイトが決まるまでは仕送りしてくれるって決まりだった。

もう7月だ。もうすぐ夏休みだ。そんな長い間仕送りをさせた。

別に目的も目標もなく、自立から逃げるために進学した。わざわざ奨学金を借りた。そんな人間に仕送りなんて申し訳なくて、すぐにバイト決めようって、あの時は頑張ってたなー。

面接落ちまくってもうダメだ期に入って、ここまでかかったけどやっと仕送り卒業できたなー。


『バイトはどう?』


母からのメッセージが胸に刺さった。

辞めたよ。続けられなかったよ。

自分ってこんなクソだったんだなあ。

はじめは誰だってできないのに。そんなの当然なのに。わかってるくせに、責められることに耐えられなかった。いや、本当に責められていた?職場の人は皆優しかったよ。

俺は布団に潜り込んだ。

ああやめよう。考えるのやめよう。


『大変』


俺はそれだけ返信して、寝た。






 意味なんてものは本当は存在しない。人間が勝手に作り出した幻想だ。

だから俺は俺の生きる意味を自分でつけなくちゃならない。でも、俺が、生きる意味なんてものは無いって思ってるから、もう、どうしようもないんだよなー。


 徒歩よりかはいくらかマシだから後輪がパンクした自転車で登校する。生活費を浮かすために学校からトイレットペーパーパクってリュックに忍ばせて帰る。

だらだらと大学に通って、それ以外は寝る。なんて生活。

こんな俺の人生に、何か、ちょっとはマシになる何かが起こらないかなー。

今日はいつもと違う道で行ってみよう。今日は仕送りが振り込まれる日だ。

俺は財布と鍵を鞄に入れて家を出た。

100mくらい歩いたところで通帳を忘れていたことに気づいた。

家にとりに戻った。

俺はどんくさいやつだ。

前に、バイトを辞めさせてくださいって店長に電話したとき、最初間違えて別の店舗に電話しちゃって。恥ずかしかったな。同じこと、高校んときのバイトでもやったし。学習しろよ。

思えば俺の人生クソなことしかない。こんなことなら生まれたくなかった。母ちゃん、なんで子供なんか産んだかなー。

あ、また他人のせいにしてる。

ホント俺ってクソだ。

いつのまにか郵便局に着いてた。

考え事をしていたせいで景色なんか見ていなかった。

これじゃいつもと違う道通った意味ないじゃん。

 人生を諦めたものに、惰性で生きるものに物語はやってこない。

自分で自分を嘲笑しながらATMの前に立つ。

通帳を入れる。

そこでふと、気づく。

そういえば今月から仕送りなくなるんだった。

バカだ俺。すっかり忘れてた。

俺の全財産は今財布に入っているだけだ。そしてそれは150円だった。

俺はATMの前で座り込んだ。

......でも、これでいいのかも。

これでやっと俺は死ねる。餓死でもなんでも、俺は死ねるんだ。

俺は機械の中に入ってしまった通帳の記入を選択した。

シューと直線的に出てきた通帳を受け取る。

畳もうとして、最後の欄に、書き足されている文字に目が留まった。


『給与 8403』


残高が、8403円になっていた。

なんだこれ、なんのお金だ。

母の仕送りにしては端数がおかしかった。






 スーパーのレジ袋を提げて家に帰る。

今日は疲れたなーと思いながら布団に寝転がる。

まあ、なにもしてないんだけど。

俺は財布に残ったお札を眺めた。

なんなんだろうなこのお金。

ピコン。

LINEだ。母からだ。母以外登録してないから確定。

俺は腕を伸ばして鞄を探る。

きっと、学校はどう?とか、バイトはどう?とか、俺が正直に答えたって何も変わらない質問をしてくるんだ。

バイトとか......。

俺は財布を手に取る。

これ、まさか、まさか、バイトの給料......?

たった、一日働いただけなのに?

一日で辞めたのに?

こんなの要らないのに......。

5000円札と2枚の1000円札を握り潰して俺は泣いた。

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