ライバル出現!スタートパーズを探せ!
予告したその日の夜、千歳は金剛邸にマンホールから忍び込んだ。地図は読み、頭の中にしっかり入れているはずだ。だが、今回の地図には『スタートパーズ』の在処は記されてなかった。
千歳は、監視の目を掻い潜って様々な部屋を調べて行った。以前のような宝物庫は無いようである。その代わり、金色に塗られた金庫が至る所にあった。
「金属だったら金属探知機が使えるけど、今回のは宝石か…」
千歳は部屋の中にあったそのうちの一つを手に持ってみた。金庫は軽々持ち上がり、なかに何か入ってる気配もしない。
「この金庫は…、フェイクね。金庫が持ち上がったら入れる意味なんてないから。問題はそれの何処に『スタートパーズ』があるか…」
千歳は隙間から廊下の様子を眺めた。警備員はどんどん増え、警備は厳しくなっていく。ただ、何処か特定の場所を守っている訳ではなさそうだった。
千歳は、まだ警備が手付かずのこの部屋から直接上の階に上がった。
青葉はアクアマリンの姿になって、警官達と厄神警部と共に金剛邸に向かった。金剛邸の主人、金田光良は厄神警部に真っ先に会うと、警官達は散らばって警備するように伝えた。
「『スタートパーズ』の在処は伝えないんですか?」
「幾ら警察とはいえ教えませんよ。スパイが居るかも知れませんからね…」
金田は、金色の腕時計を覗き込んでニヤリと笑った。金田の服装は、黒いスーツに金色のネクタイというものである。
「(かなり厳重だな…、まぁ、スパイが居るとはあながち間違いではない)」
アクアマリンはそう心の中で呟くと、辺りを見渡して、今日はりんかが来ていない事を気にした。
その後、アクアマリンは警部に指示された場所を警備した。そこは屋敷一階の奥深くにある狭い部屋で、綺羅びやかとはかけ離れた場所だった。そこは今は使われてない部屋らしく、棚やランプには埃が被っており、天井には蜘蛛の巣が張っていた。中央には金色の金庫が置かれていて、厳重に鍵が掛かっている。
「この中には金色の金庫が至る所にあり、その中に『スタートパーズ』がある。金庫は開けると警備システムが作動するようになっていて、フェイクの金庫でも開けたら直ぐに警備隊が来るようになっている」
持ち場に行く前に、金田がそう言っていた。
「用意周到にも程があるな…」
アクアマリンが金庫に寄り掛かってしゃがみこんでいると、突然、部屋の小さい窓が割れる音がした。
「誰だ!」
窓の中から入ってきたのは、赤い王冠を被った人物、黄色の上着に緑色のかぼちゃパンツを着ていて、オレンジのマントを背中にしていた。顔にはピンクジュエルと同じように仮面をしていて、素顔は見えない。
「まさかお前が、プリンス・トパーズか?!」
「ああ、そうだよ」
トパーズは、アクアマリンの背後にある金庫に目をやった。
「何故こんな所に金庫があるか…、気になるな?お前は警察だから在処も知ってるんじゃないか?」
「私だって、在処は教えてもらってない!」
「…そうか、」
トパーズは、ロープが巻き付いた鍵爪を取り出すと、アクアマリンの背後にある金庫をぶち破った。中から黄色く輝く宝石が飛び出し、トパーズの手に渡る。
「やっぱりそうだな…『スタートパーズ』」
トパーズが逃げようとすると、屋敷中に警告音が鳴り響き、小さい扉から大勢の警備隊達が集まって来た。
「金庫を破ったな!追え!」
「邪魔が入ったな…」
トパーズは、鍵爪を小さな窓に伸ばし、そのまま外に飛び出した。アクアマリンは同じように窓から外に出て、トパーズを追う。この部屋が一階にあったのが、アクアマリンにとってせめてもの救いだ。
「待て!プリンス・トパーズ!」
トパーズは屋敷の外…、ではなくどんどん奥に向かっていく。
「同じようにピンクジュエルも追われてる所だな」
「あっ、そういえば何処に行ったんだ?!」
「あいつの居場所も知らないのか?兄弟のくせに」
トパーズが二人しか知らない秘密を平然と口に出した事に、アクアマリンは腹が立った。
「まさか、お前…!」
「僕はピンクジュエルに会わなければならないんだ」
トパーズは石を投げて屋敷の窓を割ると、その中に入っていった。
ピンクジュエルが『スタートパーズ』が入っていた金庫を二階で探していたその時、屋敷中に警告音が鳴り響き、大勢の警備隊達が押し寄せて来た。
「お前か!ピンクジュエル!」
「いや私何も取ってないですって!」
「追え!」
警備隊達は、ピンクジュエルの声も聞かずにドカドカと押し寄せて来る。勢いはあるが統制は取れておらず、何人かは流れに押されて倒れていた。ピンクジュエルは煙を撒いて警備隊から逃げ、一階に降りた。
一階にも警備隊や警官達が居た。だが、ピンクジュエルを追っているような雰囲気ではなく、まるで他の何かを探そうとしているようだった。
「どういう事…?」
「あ!ピンクジュエルだ!」
警官の一人がそう叫ぶと、警備隊達が一斉にピンクジュエルを見た。
「追え!」
「何としてでも『スタートパーズ』を奪還するんだ!」
「いや、だから私は!」
ピンクジュエルが警備隊達から逃げようとしたその時、目の前に煙が広がり、警備隊達はバタバタと倒れていった。目が覚めているのはピンクジュエルだけだ。
「一体何よ…」
ピンクジュエルが目を擦って前を見ると、煙の中から一人の人物が現れた。赤い冠を被り、王子のような格好をした人物…。
「ようやく会えたね、レディ・ピンクジュエル」
「まさか…、あなたがプリンス・トパーズ?!」
トパーズはピンクジュエルに向かって恭しくお辞儀をすると、袋の中からあるものを取り出した。それは、星のようにキラキラと輝く黄色の宝石…。
「これは…、『スタートパーズ』?!」
ピンクジュエルが手を伸ばそうとすると、トパーズはすぐさまそれを引っ込めた。
「おっと、それは頂けないな」
「いつの間に…、取ってたの」
トパーズは『スタートパーズ』を袋の中に戻してピンクジュエルの方を見た。
「今日は僕の勝ちだね?」
ピンクジュエルは呆然としていた。不思議な事に怒りや悔しさという感情が湧き上がって来ない。トパーズは妙に得意気で、袋を肩に掛けていた。
「レディ・ピンクジュエル…、君は何故呪宝を欲しがる?」
「私は…、呪宝が欲しい訳じゃない」
ピンクジュエルはそう言って拳を握り締めた。
「君はグラマラスキャットとは違うんだね、あいつだったら欲しい宝があれば…、血を浴びてでも強引に奪い去るっていうのに…」
トパーズがそう言うと、警官のうちの一人がうっすら目を開けた。
「さてと…、それじゃあね、レディ・ピンクジュエル」
トパーズは割った扉から抜け出して外に出た。ピンクジュエルも同じように出ていく。その姿はまるで、宝を持ち出そうとしたが、諦めて屋敷から出た泥棒だった。
アクアマリンはトパーズを追っていたが、いつの間にか見失った。気づいた時には眠りについていて、そこから覚めた時には、ピンクジュエルもトパーズも消えていた。
「催眠ガスか…、とんでもないものを使う奴だな」
厄神警部は、他の警官達を起こしてそう呟いた。
「これから警戒しないといけないな…、怪盗王子、プリンス・トパーズ、お前もだぞ?アクアマリン」
「はい…」
アクアマリンはそう答えたが、心の中では姉の事を考えていた。
「(千歳姉、大丈夫かな…)」
アクアマリンは屋敷を出て警部達に別れを告げると、真っ先に千歳を探した。
「千歳姉!何処に行ったんだ…?」
「青葉!」
千歳は着替えを済まして青葉の先を歩いていた。
「千歳姉!無事だったんだ…」
青葉はかつらと帽子を外して千歳の手を取った。
「まぁね、呪宝は取れなかったけど…」
「あいつ…、俺達が兄弟なのを知っていた」
「えっ…?!」
千歳はその事に驚いて声を上げた。
「俺、あいつの正体を追う事にするよ」
青葉は千歳を置いて先を歩いた。千歳は慌てて青葉を追い駆ける。それを何者かが影から眺めていたが、青葉は既にそれに気づいていた。
「(まっ、俺も何となくだが正体は分かってるんだよ。自分からヒントを与えまくって…。生憎そんなのはいらないよ)」
青葉は影に向かって不敵な笑みを浮かべた。