不可能な盗み
予告の日、ピンクジュエルは川下家に侵入した。数々の呪宝を盗んでいるだけあって、洋館に慣れていたピンクジュエルだったが、この屋敷は、今までの屋敷よりも古く、構造も特殊だった。セキュリティは甘いものの、一歩間違えれば一部が崩れる可能性もある。
「大分老朽化が進んでいるわね…」
ピンクジュエルは先に進んで行った。
アクアマリンが川下家に入ると、そこで厄神警部とりんか、それから涼平が待っていた。
「おお!待っておったぞアクアマリン君!」
アクアマリンは辺りを見回した。すると、普段居るはずの臼井刑事の姿がない事に気が付いた。不思議に思ったアクアマリンは、厄神警部に聞いてみた。
「厄神警部、臼井刑事はいらっしゃらないのでしょうか?」
「ああ…、誘拐事件の事情聴取をしてるよ。遂に犯人が逮捕されたんだ。だが、肝心の少女、太市ちえりが見つかっていない」
「ちえりちゃんが見つかってない?!」
アクアマリンは、思ったよりも大声を上げてしまい、自分でもびっくりした。
「そんな…、しかし、どうしてちえりちゃんだけが見つかっていないのでしょうか」
「両親は見つかっていないし、施設に行ったという情報もない。幼い少女が保養も無しに生きていく事は難しいだろうに…」
「我々も捜索してるのだが、未だ手掛かりはない」
アクアマリンは何故、姿が見える時にちえりを引き留めようとはしなかったのだろうと後悔した。もう少しちえりと話しておけば、もう少し早くに保護されただろうし、勇吾だってすぐ逮捕されただろう。
ちえりの言動、行動が一般的な小学生にしては異様なものだという事に青葉は気づいていた。だが、気づいただけで何も行動には移していない。
もっと早く行動していれば、こういう事にはならなかっただろうに、だが、後悔しても無駄なだけだった。
「(そういえば…、健の所に来てたりしてないかな)」
ちえりが一人ぼっちになったのなら、きっと優しい健と久美の所に行くはずだ。青葉も一人は堪えられない。もし、今のちえりと同じような目に遭ったら、自分もそうするだろう。
そう考えたアクアマリンは、健に聞いてみる事にした。
「すみません、少しここから離れて宜しいでしょうか?」
「ああ…、構わないが…」
アクアマリンは、厄神警部達から離れて、屋敷の外に行った。
屋敷の外に出たアクアマリンは、携帯電話を取り出して健に電話をする。電話はすぐに繋がり、受話器越しに健の声が聞こえた。
「もしもし、健」
「青葉!携帯から掛けてくるなんて珍しいっスね…」
夕方の六時だというのに健の携帯電話が通じる。どうやら、自分の部屋で宿題をしていたようだ。
「ちえりちゃん来てない?もしかしたらこっちに来てるかもしれないなって思って…」
「ちえりちゃん…?来てないっスよ。そういえば最近見ないっスね…、久美がずっと会いたがってたっス。どうしてなんっスかね?」
アクアマリンは、ちえりが誘拐の被害者だという事を健に伝えようとしたが、健が慌てると考えて言わない事にした。
「青葉、ちえりちゃんの事何か知ってるっスか?」
「また後で電話する!」
アクアマリンは通話終了のボタンを押して、屋敷の中に戻って行った。
そして、アクアマリンは厄神警部の元へ戻って来た。アクアマリンが外に出た理由を厄神警部は何も知らなかったので、驚いていた。
「アクアマリン君、突然外に出るなんて…、珍しいね」
「そうですか…?」
「本当、珍しいですよ」
りんかが怪訝な顔でアクアマリンを見つめた。
しばらく経って、この屋敷の主人である川下基博が現れた。洋館の主人と言うのに、基博は着物姿で、手には何故か扇子を持っている。また、髪の毛も眉毛も白髪だった。
「『魔神の壺』って何方にあるのでしょうか」
涼平が丁寧な口調で基博にそう伺うと、戸惑った様子でこう答えた。
「ええ…、実は…」
基博は危なっかしい足取りで倉庫に向かった。
倉庫の中には、基博が集めたとされるありとあらゆる種類の壺が、ところ狭しと並んでいた。壺は全て陶器製で、一部が欠けたり、割れたりしているものもあった。
「この中のどれかなのであります。ですが、もしかすると別の場所にあるのかもしれません。私も如何せん年で、色々大切な事を忘れておるのですよ」
「ええっ?!」
アクアマリンと涼平、それからりんかは必死に『魔神の壺』を探した。だが、手掛かりもないのに見つかるはずかない。
「そんなに大切なものなのに、どうして忘れてしまうのですか?!」
「ええ…、年ですからな…仕方ないのさ。とりあえずその…、二つの倉庫と地下室を警備してくれ」
基博は、警察でもないのに、警官達に指示をする。
「…だそうだ。このお方は財閥の重役、常に専属のSPが付いている程の人物だ」
流石の厄神警部も、基博には反発せず、仕方なく指示に従った。
「元、ですな…、今はあの財閥とは全く関係ないただの富豪ですよ」
基博は倉庫の中から立ち去ろうとする。それをアクアマリンは呼び止め、こう問いかけた。
「財閥は、何を隠しているのですか?」
基博は、アクアマリンの方を振り向かずにこう答えた。
「大人の世界には踏み入ってはならないよ…、若造よ」
そして、基博は自分の部屋に戻って行った。
取り残された厄神警部、アクアマリン、涼平、それからりんかは、大量の壺達を見て回った。
「仕方ない…、この中のどれかが『魔神の壺』、ピンクジュエルのお目当てだ。」
壺をくまなく見て回っていた涼平は、ピンクジュエルの依頼状を見ていたアクアマリンなら『魔神の壺』を知っているだろうと思い、アクアマリンに聞いてみた。
「青葉、依頼状見たんだろ?どれか判るか?」
アクアマリンは、涼平がさっきまで見ていた壺達をみた。
「この壺達の中に『魔神の壺』はない…」
「えっ?!」
「じゃあ…!何処にあるというのかね?!」
「先程川下氏は二つの倉庫と、地下室と仰っておりました。ここにないのなら、もう一つの倉庫か地下室ではないかと思われます」
「ああ、それぞれの場所に警官達が居る。確認してみよう」
厄神警部はトランシーバーを持って警官達に連絡した。
「アクアマリンさん、壺の特徴って何かご存知ですか?」
「えっと…、蓋が付いてた」
「蓋が付いている壺だ、誰か見たか?!」
厄神警部はトランシーバー越しの声を聞いて首を振った。
「駄目だ、見つからないようだ」
「僕達が分からないのなら、ピンクジュエルも分かるはずないよね…」
「そういえば…、ピンクジュエルの姿を見ないな、彼奴は何処に行ったのだか…」
アクアマリンは、一つの壺を持ちながら、ピンクジュエルの身を案じた。
そのピンクジュエルはと言うと、警官達が見張っていない部屋に居た。
誰も居ないその部屋をピンクジュエルは進んで行く。この部屋は、革のソファーや金縁のテーブルが置かれている。また、天井は高く、シャンデリアまであった。
昔、誰かが部屋として使っていたのだろうが、今は使った形跡はない。
ピンクジュエルが何故この部屋に入っているのか、自分でも分からない。少々休憩するはずだったが、いつの間にかその部屋を探り始めている。
その部屋の奥には、隠し部屋があった。そこは、倉庫のようだったが、警官達の姿はない。ピンクジュエルは恐る恐る進んで行く。すると、その部屋の明かりが一斉に着いた。
「誰も居ないからって、油断してたでしょ?」
広い部屋の中で、聞き覚えのある声が響いた。ピンクジュエルは前を見る。
そこには、蓋が付いた金色の『魔神の壺』を抱えて立っているちえりの姿があった。




