怪盗をする理由
二人は屋敷に戻って風呂に入ると、一斉にソファーにとびこんだ。机の上には『王妃の首飾り』とピンクのレターセットがある。伸人はそれ見ると、手紙を一枚持ってきた。
「まさしくご依頼通りのもの…、ありがとうございます、千歳様」
「まぁ、私の手に掛かればこれくらい何ともありませんよ、後、ピンクジュエルの名義で手紙も書いておきました」
「ありがとうございます…、これらは大事に梱包した後、専門業者に持ち主の所へ届けさせます」
「奴らの所には漏れないですよね?」
「心配には及びませんよ」
伸人は、『王妃の首飾り』と手紙を持って、執務室に戻って行った。
「あいつらの目に入ったら確実に怪しまれる」
千歳と青葉が言う『あいつら』それは、両親が行方不明になった原因を造った五星財閥だ。二人は、宝の警備の為に五星財閥の屋敷に行ったきり、戻ってない。二人の母、朱里は警察官、父の洋司は貿易会社の社長だった。洋司は、海外から様々な宝物を集め、先祖代々住んでいる屋敷にコレクションしていったのだ。だが、それは二人が失踪した時に全て奪われ、屋敷は空っぽである。
「あの財閥が、呪宝を奪ってる可能性がある」
青葉は、千歳を見て腕を組んだ。
「二人共、帰ってきたのね」
すると、扉が開いて中から、老夫婦が現れた。竜野克洋と竜野雅美、二人がお世話になっている竜野夫妻だ。二人は、母方の親戚で、幼い頃に何度かお世話になった。二人には子供が居るが、既に成人している。夫妻は身寄りが無い二人を心配して養っていた。
「ご飯、まだよね?すぐ用意するわ」
雅子は疲れた二人を見て、台所に入った。
それを待っている間、青葉は千歳に今まで気になっていた事を聞いた。
「呪宝を集めて持ち主の元へ返す…、それがお父さんとお母さんを見つけるのにどう役立つんだ?」
「あの財閥が盗んだものには、お父さんとお母さんの物もある。それを探す事が出来れば。あるいは…、それが財閥の内部の情報に繋がってると思っているからよ」
「それが分かるのに途方もない時間が掛かるのに?」
「でも、何も動かないよりはいいよ」
千歳は、伸人の執務室の方角を見た。
「俺も、警察が掴んだ情報を頼りにして探してみるよ」
「うん、怪しまれない程度にね」
二人が話していると、夫人が料理を持ってきた。洋風の大広間には似合わない、日本食だった。ご飯と味噌汁と筑前煮、更にはほうれん草のお浸しというラインナップである。
「みんな、食べようか」
克洋がそう言って手を合わせる。
「いただきます!」
二人は、少し遅めの晩ごはんを食べた。洋食が得意な伸人と異なり、雅美は和食が得意である。しかもそれは、庶民的なものばかりだった。伸人の料理ばかりを食べていた二人にとっては、それが新鮮に見えた。
「朱里も、これを美味しい美味しいと言いながら食べていたのよ」
「そうだったんですね」
「何処に行ったのかしら…」
雅美はそう言って寂しそうな目をする、それを見て千歳と青葉は頷いた。
(何としてでもお父さんとお母さんを探し出して見せる。)
二人の決意は、誰にも揺り動かせない程、強固なものだった。