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女神の瞳は何処に

 今日は終業式、その日は、一学期の通知表と宿題のプリントを貰う。蒸し暑い体育館の中、校長先生の話を聞く。そして、部活の顧問に夏休みの予定表を貰って帰る。千歳と青葉は、お互いの予定表を見比べていた。

「夏休みだね、青葉」

「まぁ、そうだな…」 

 青葉のサッカー部の予定は、週に三回か四回入っていて、ほとんどが練習だった。もちろん、試合もするのだが、ほとんど勝った事は無く、予定通りにいかないのが常だった。

「今年三年生が居ないのか…、俺達でやらなきゃ」

「まぁ、頑張れ」

「そういう千歳姉は週に一回くらいしか入ってないだろ?」

青葉も、千歳の予定表を見て呟いた。

「まあね、ってか放送部って夏休み活動する理由ある?」

「…無いだろ」

「そうだよね…」

千歳は、自分の予定表をファイルに入れてカバンの中に仕舞った。



 翌日の事だった。夏休みに入って早速、二人の元に依頼が届いた。伸人が二人に依頼状を手渡すと、そこには、次の呪宝である『女神の瞳』の事が書かれてあった。

「『女神の瞳』…、古代の女神の石像に填められていた宝珠です。歴史上見ても貴重な一品ですが、何故か目の部分にあたるこれだけが抜き取られてあるのです。依頼主は女神の石像の所有者です。先祖代々この石像を管理しているらしく、この『女神の瞳』が無くなったと聞いて大慌てで探しておりました。」

依頼状の中には手紙と、『女神の瞳』の写真が入っていた。

「これを見つければ良いのね」

「『女神の瞳』は鈴蘭邸にあります。くれぐれもご注意を」

伸人はそう言って何処かに行ってしまった。

 千歳と青葉は、何時、どのように鈴蘭邸に向かうか話し合った。すると、青葉が手紙を見ながらこんな事を呟いた。

「また屋敷の中に呪宝がある…、やっぱり、あの財閥と関わっている者が、奪った呪宝を管理しているんじゃないか?」

「そう…、なの?」

青葉はパソコンを開いて、何か調べ物をし始めた。

「警察はこういう問題には動いてくれないからなぁ……、どうすればいいんだよ」

「どうやって盗もう…」

「トパーズやグラマラスキャットが動かなきゃいいんだけどな」

 青葉は、千歳以上にライバルの怪盗のトパーズやグラマラスの事について悩んでいた。千歳の方は、依頼と言えどいつも呑気に構えていて、何か合った時どうするかあまり考えていない。

青葉は、そんな千歳をいつも心配していた。




 予告の日、青葉はアクアマリンになって、鈴蘭邸の中に入った。すると、厄神警部とりんか、鈴蘭邸の主人白鳥隆夫が居た。厄神警部は、アクアマリンの姿を見ると、大声を出して近づいて来た。

「おお!また来たか、アクアマリン君!」

「ええ、また来ましたよ」

アクアマリンは、厄神警部に向かって敬礼をすると、りんかの横に立った。

「鈴蘭邸にある『女神の瞳』を何としても守るのだ!」

「はっ!」

厄神警部を囲んでいた大勢の警官達は一斉に散り、それぞれの持ち場に行った。

「今日も凄い警備ですね…」

「そうだろう?」

厄神警部は、青葉に地図を見せた。地図には、警備隊の配置図が記されてあり、どのように侵入者を追い詰めるかも書かれてある。

「このまま彼奴に盗られ続ける訳にもいかないからな」

アクアマリンは警官達を見渡した。すると、普段そこに居るはずの子連れ刑事の姿がない。

「あの…、子連れ刑事は?」

「見ていないぞ?」

「ええっ…」

アクアマリンは、子連れ刑事を探そうとしたが、厄神警部がそれを止めた。そして、りんかと一緒に指示された持ち場を警備する事になった。


 ちえりは、警官達が居る広間から離れ、廊下に出た。そして、何歩か歩いた先にある扉を見て、耳を当てる。

「ちえり、どうした?」

勇吾はちえりの横に立って目線の先を見る。

「なんか、怪しい…」

ちえりは、扉をすこしずつ開けて先を見た。扉の向こうは、クローゼットになっていて、ドレスなどが仕舞われてある。

「ちえりはこういうのに興味あるのか?」

ちえりは勇吾の問いに答えず、クローゼットの中に入っていく。クローゼットは、一つの部屋くらいの広さで、ところ狭しと服や装飾品が並んでいた。

「ここに誰か居るの」 

ちえりはゆっくりと奥に入っていった。すると、物陰に何か居る。ちえりはそれに近づいて行った。

「えっ?」

それは、ドレスを着た千歳だった。ちえりはそれを見て驚き、口を塞ぐ。千歳も、ちえりの姿に驚いたが、すぐにこう話しだした。

「ちえりちゃん、どうしてここに?」

「千歳姉ちゃんも、どうして…」

二人はお互いを見合わせて首を傾げた。

「私、ピンクジュエルを追ってるの」

「へぇ…、そうなんだ、それじゃあね」

千歳は、ちえりに手を振って何処かに向かった。

ちえりは手を振って、勇吾と一緒に何処かに向かおうとしたが、一瞬立ち止まって振り向き、千歳の事を睨みつけた。


 千歳は、ドレスの姿で慌てて廊下に出た。

「ふぅ…、危なかった…」

千歳はドレスの裾を捲って、袖口で汗を拭く。絶対に誰も来ないと思っていたので、まさかちえりが気配を嗅ぎつけて来るとは予想出来なかった。

部屋の扉を開けて着替えると、ピンクジュエルの姿になった。

「なんであんな所にちえりちゃんが居るの…、ってか『女神の瞳』は何処にあるの?」

 ピンクジュエルの格好は非常によく目立つ。その為、行動に気をつけなければならない。ピンクジュエルは見張りに気を付けながら、『女神の瞳』の在り処を探した。


 アクアマリンは、りんかと一緒に宝物庫の警備をしていた。

「アクアマリンさん、『女神の瞳』の在り処ってお聞きになられましたか?」

「いいや…、分からなかった」

「そうですか…」

りんかは、

「アクアマリンさん、他の怪盗達は来ていますか?」

「見たところ居ないけど、どうなんだろう…」

「どうやったらそれが分かりますか?」

「う〜ん…」

アクアマリンの脳内ではそれが理解されていたが、りんかにそれを説明するとなると難しい。アクアマリンは、頭を抱えて唸った。

「本当に、予告通りの時間に来るんでしょうかね」

「さあ…、分からないな」

「アクアマリンさんって、ピンクジュエルの事よく分かってますよね?何でピンクジュエルが来るタイミングでいつも現れるのですか?」

「え、えっ…」

アクアマリンは、また頭を抱えて唸った。ここで真実を明かす訳にもいかないからだ。

真実を知れば、りんかもきっと納得し得るが、今ここで明かすのは今後の活動に影響が出る可能性がある。

 だが、りんかにどう言い訳をすれば良いか、アクアマリンは全く考えつかなかった。 

「ピンクジュエルが現れる度にアクアマリンさんは現れますよね?」

「そうだけど…何?」

「やっぱり、何処かで繋がってると思ってるのですが…」

「(それ、本人の目の前で言う事か?)」 

アクアマリンは、そうりんかに言いたかったが、りんかがすぐにアクアマリンをじっと見つめてきたので、言い出せなかった。

「アクアマリンさん?」

「さっ、りんか、警備続けようか?」

「はーい…」

りんかは、やる気のない返事をして、アクアマリンとは離れた場所を警備し始めた。



 ピンクジュエルは、宝物庫に辿り着いた。影から覗いて見た所、中の警備は厳重で、入り込めそうにない。ピンクジュエルは宝物庫の扉を締め切って、煙を焚いた。

「げっ、アクアマリンまで居るじゃん…」

ピンクジュエルの目線の先には、アクアマリンが居る。ピンクジュエルは、アクアマリンには当たらないように催眠ガスを煙と伴に撒き、アクアマリンの背後に立った。

「ここにあるのね、『女神の瞳』」

ピンクジュエルは、アクアマリンの背後にあった棚を抉じ開けて、小さな宝珠を手に取った。すると、それに気づいたのか、アクアマリン以外の人影が、ピンクジュエルに近づいて来た。

「うん?待て!ピンクジュエル!」

それは、アクアマリンとは別の場所を警備していたはずのりんかだった。どうやらりんかは、催眠ガスをまともに吸ってないらしく、行動する事が出来るようだ。

「曲者!御用だ御用だ!」

「警察は御奉行じゃない、りんか!」 

りんかは、アクアマリンに先立ってピンクジュエルを追い掛けた。りんかは思ったよりも足が速く、追われるのに慣れているはずのピンクジュエルも、すぐに追い付かれた。

 逃げるのに必死のピンクジュエルは、窓から屋根に飛び移り、一番上まで駆け出した。りんかも同じように屋根に乗り移り、ピンクジュエルを追う。

「りんかちゃん、意外に速いんだ…」

「何でピンクジュエルが私の名前を?」

「げっ!」

ピンクジュエルは、りんかに自分の事を悟られる前に、屋根から飛び降りて姿を晦ました。

 アクアマリンが来た頃には、ピンクジュエルはすっかり消えていた。

「くっ…、逃したか」

「ピンクジュエルを取り逃がすなんて、らしくないですよ?」

「りんか、意外にも足速いんだね」

「警察官を目指すなら、運動神経良くないと!」

「本気で警官を目指してるんだ…」

正式な警官ではない二人だが、ただ、演技で警官をしているアクアマリンとは異なり、りんかは本気で警官を目指したいと思っていた。

「私は警官になってみんなの暮らしを守るのが夢なんです、そして、格好いい所を青葉センパイに見せるんだ!」

りんかか憧れている青葉は今、りんかの目の前に居る。それをりんかは知らないはずだ。今まで、アクアマリンの前で青葉の名前が出た事はなかった。青葉は、りんかには正体はバレていないと思ってはいるが、こう見えて学年トップの成績のりんかだ。実は既に正体を暴かれているかも知れない。

 もしや、アクアマリンの正体を知った上で、あえてこのような態度を取っているのだろうか。りんかの真意を知らないアクアマリンには、全く分からなかった。


 その一方、ピンクジュエルはいつものように茂みの中に頭に突っ込んで、抜け出せなくなっていた。『女神の瞳』は無事だが、今は確認出来る手段はない。

「げっ!千歳姉!」

 遅れてやって来た青葉は、ピンクジュエルの足を掴んで引っ張った。ピンクジュエルは茂みから抜け出し、怒りながら青葉の目を見た。

「遅かったじゃないの!」

「りんかを振り切るの大変だったからさ…、勘弁してくれよ〜…」

青葉は、りんかの対応で疲れ切ったのか、しゃがみ込み、大きな溜息を吐いた。

「りんか、あいつ分かって言ってるのかな」

青葉は、さっきのことをまだ根に持っていた。

「りんかちゃんはあんまり相手にしなくて良いと思うけど…、そういえば、ちえりちゃんが私を追ってきてね…」

「ちえりがか?まぁ、あいつも詮索深い所あるからな…今度から、あの二人の動きによく注意しなきゃな」

ピンクジュエルは、仮面と帽子を外し、上着を脱いで千歳の姿になった。そして、二人は鈴蘭邸の後にして、海洋邸に戻って行った。

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