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聖杯争奪戦

 その日の夜、千歳は青葉と二人で話し合っていた。トパーズからの挑戦状についてだ。

「どうしてあいつは、俺達と争う事をわざわざするんだろうな」

「さぁ…、でも、今回の呪宝である『失楽園のゴブレット』って物凄く貴重なものなんだよね?」

千歳は、呪宝の情報が載せられている古い図鑑を見て、そう言った。

「まぁな、しかし、なんでプリンス・トパーズは呪宝を狙ってるんだろ」

ピンクジュエルは、何度とトパーズと接触しているが、目的については何も明かされた事は無い。

「そういえば…そうだよね」

「怪盗を名乗る者として、争いに負ける訳にはいかないだろ?レディ・ピンクジュエル…。ま、俺もその争いに多少水を差させてもらうけどな」

「青葉…」

青葉はそう他人事のように言うと、二階に上がっていった。


 予告したその日、ピンクジュエルは床の穴から博物館に侵入した。争奪戦になる前に、まず『失楽園のゴブレット』の在り処を見つけなければならない。

「出来れば、争いは避けたいんだけど…」

すると、自分と同じように床から侵入してきた人が居る事に気付いた。それは、プリンス・トパーズだった。

「こんにちは、ピンクジュエル」

「トパーズ…、どうしてここに」

「僕達に危機を感じたのか、博物館側が『失楽園のゴブレット』を隠したそうなんだ」

「なんでそんな事を私に教えるの?」

「宝を探すのは、君と協力しようと思って」

トパーズは、そう言って隙間から地上に上がった。


 アクアマリンは、博物館に来て早速厄神警部の所にやって来た。厄神警部は、りんかと他の警官と共に、博物館の館長と話している所だった。

「えっ?『失楽園のゴブレット』の在り処は私達にも教えられない?」

「この中にスパイが居るかも知れないのでね…、トパーズは変装術にも長けているという噂もあります」

「ですが…」

「とにかく、教えられません!」

厄神警部は、仕方ないと呟いて、アクアマリンの方を見た。

「それじゃあ、警備の意味は…」

「あなた達は泥棒を捕まえてくれば良いのです」

館長はそう言って、他の展示物を見て回った。

 この博物館では、大型の展示会が行われていたはずだが、ピンクジュエルが来る事から、一時的に休館となっている。その為、大勢の人が居るはずの博物館には、人一人居なかった。

「アクアマリン君、ピンクジュエルは『失楽園のゴブレット』以外の宝は狙ってないのかね?」

「そうだと思いますよ」

何故アクアマリンにピンクジュエルの事をわざわざ尋ねるのか、アクアマリンは疑問を抱いた。

「ところで、今日子連れ刑事は?」

厄神警部は首を振った。

「今日は見てないな」

アクアマリンは、他の警官達にもその事を聞いてみたが、首を振る一方だった。

 りんかは、アクアマリンの横に立った。

「アクアマリンさん、ピンクジュエルとトパーズが宝を奪い合うって本当なんですか?」

「ああ…、ってどうしてそれを?」

「警察側にも、挑戦状が叩きつけられたんですよ。それで、いつもにも増して警備が厳しいんです」

アクアマリンが、警官の数を数えると、普段の倍程の人数だった。

「グラマラスキャットも来る可能性があるし油断出来ん!」

厄神警部は苛立ちを見せながら、他の警官達と何処かに行ってしまった。

「アクアマリンさん、怪盗が見つける前に『失楽園のゴブレット』を見つけに行きましょうよ!」

「餌で釣るっていう作戦かな?」

「はい!」

アクアマリンとりんかは、二人で博物館のバックヤードに入って行った。

 バックヤードの中は埃を被っていて、展示物もあまり目立たない。その中に、『失楽園のゴブレット』もあるはずだが、よく目を凝らして探さないと見つかりそうにない。すると、りんかが突然アクアマリンの顔を真正面から見つめてきた。

「アクアマリンさん、まさかアクアマリンさんが誰かの変装って訳無いですよね?」

りんかは、アクアマリンの頬を摘んで、引っ張った。アクアマリンは痛がってりんかの手を無理矢理離す。

「痛いじゃないか!もう…」

「良かった、変装じゃなさそうですね」

アクアマリンはりんかに振り回され、ピンクジュエルと出会う前からぐったりとしていた。

「そういえば…、アクアマリンさんって帽子外した事無かったですね」

「えっ?!」

アクアマリンの鬘は帽子と繋がっている。今帽子を外せば、りんかの目の前で青葉の姿になってしまう。そうなれば、りんかがどういった行動に出るか分からない。アクアマリンは、慌てて帽子を押さえた。

「いやいやいや、ちょっと待って!勤務中だから」

「ええ…」

りんかはむすくれて、アクアマリンの腕を強く引っ張った。

「見せてくれないなら、さっさと探しに行きましょうよ」

「分かったよ…」

アクアマリンは半分呆れながら、りんかと一緒に『失楽園のゴブレット』を探しに行った。


 アクアマリンがりんかと一緒に行動していたその頃、ピンクジュエルとトパーズは、二人が居るバックヤードとは別のバックヤードに侵入していた。

「なんで私と一緒に行動するの?」

「争うのは、呪宝が見つかってからにしようかな」

「なんでそんな…」

ピンクジュエルは、トパーズの思惑が何かさっぱり分からなかった。

「ところで、トパーズはどうして呪宝を探しているの?」

「それは…」

トパーズは何か言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。

「…君には関係ないだろう」

ピンクジュエルは、更に問い詰めようとしたが、口を押さえられた。

「そう言う君は、どうして呪宝を探してるんだ?」

「それは…」

「それと一緒だ」 

一緒に呪宝を探そうと言いながら、トパーズはピンクジュエルの先を行く。

「『失楽園のゴブレット』は僕がもらう」

「ちょっと待ってよ!」

ピンクジュエルは慌ててトパーズを追いかける。

「君は…、グラマラスキャットとは違うんだね」

「違うって、どういう事?」

「そういう事だ」

トパーズはそう言って微笑むと、何処かに行ってしまった。



 アクアマリンは、りんかと一緒に『失楽園のゴブレット』を探している。その見た目は、蛇が巻き付いた黄金の杯だが、それは見つかりそうにない。

「ホントに見つからないですね」

「ああ…」

アクアマリンはバックヤードを見渡して、ある事を閃いた。

「もしかして…、隠したっていうのは嘘かもしれない」

「えっ?」

「『失楽園のゴブレット』って、本来はどこに展示される予定だったんだ?」

「えっ?えっと…」

りんかは、バックヤードを抜け出して、博物館の奥の部屋にやって来た。

「確か…、ここだったと思います」

りんかが指さした先には、黒い布で包まれた何かがあった。

 展示コーナーには大勢の警備隊が居て、侵入するのは難しい。更に、防犯カメラや装置があちらこちらに設置されてあった。

「これかもしれませんね、どうします?」

「見張っておこうか」

アクアマリンとりんかは、その何かの背後に隠れ、様子を伺った。

「怪盗が二人も三人も居ると厄介ですね」

「ああ…」

「もしかしたら、協力してきたりとか」

りんかはそう呟いた。


 一通りバックヤードを見たピンクジュエルとトパーズは、もうここには『失楽園のゴブレット』は無いと踏んだ。

「もうここには無いな」

「ここに無いなら、何処にあるの?」

トパーズは、バックヤードを抜け出して、展示コーナーに出てきた。

「やっぱりそうだ、警備も厳重にされている」

大勢の警備に気づき、トパーズは柱の影に隠れた。

「どうやって近づくの?」

「これくらい、容易い事だろ」

トパーズは、物陰で警官の姿になると、一番奥の展示物に触れた。

「うん?君、何してるのかね?」

厄神警部が近づいてくる。トパーズは、その包みを剥がすとそこには黄金の杯があった。

「まさか…!お前は!」

「待て!トパーズ!」

トパーズは『失楽園のゴブレット』を胸の中に抱き、警官達から逃げ出した。

「さぁ、ここから争奪戦の始まりだよ、レディ・ピンクジュエル…」

「待て!」

 ピンクジュエルとアクアマリンは、同時にトパーズを追い掛ける。続いて、りんかと厄神警部も後を追った。

「乱れ咲き!」

ピンクジュエルは、閃光弾を投げつけ、周囲を撹乱させる。だが、トパーズには効かなかった。

「そんなので僕を捕まえられると思ってるの?」

「トパーズ!」

アクアマリンは、一気に近づいた。

「返してもらおうか、それを」

「フッ…、そういう訳にはなかないな」

トパーズは、華麗にアクアマリンを振りきり、窓から博物館を飛び出した。ピンクジュエルとアクアマリンは、トパーズから『失楽園のゴブレット』を奪おうとしたが、トパーズは一瞬の隙も与えない。

 トパーズは、群衆に煙幕弾を投げつけ、表に出た。すると、それを待ち構えていたかのように、グラマラスキャットが目の前に現れる。

「呪宝はね、最後に奪った人の物なのよ?」

「グラマラスキャット!」

グラマラスキャットは、鞭を取り出して『失楽園のゴブレット』を絡め取った。

「くっ…!どうして」

「あなたの実力じゃ私には敵わないわ」

グラマラスキャットは、鞭でトパーズの頬を打った。トパーズはその場に仰向けになる。

「なんでだよ…」

「待て!トパーズ!」

大勢の警備隊が、トパーズを追う。トパーズは、慌てて警備隊から遠ざかり、闇の中に消えた。



 一方、ピンクジュエルとアクアマリンは、煙幕の中から逃げ、従業員用のトイレで着替えていた。千歳と青葉は、薄い壁を挟んで、話し始める。

「呪宝、奪われたな…」

「うん…」

「やっぱり…、千歳姉はトパーズには敵わないのか?」

「そうだね…」

千歳は着替え終わり、青葉の方を見る。

「で、どうやって脱出するのよ」

「そっか…、りんかに見つからないようにしなきゃな」

青葉はトイレから出て、地下水路を指差した。

「ここから出るか」

「えっ?!」

「それしかないだろう」

青葉は、何も躊躇いもなくマンホールを開いて地下水路の中に入った。

 地下水路は、異臭が漂い、汚水がすぐ近くを流れている。青葉は、そこから町の方向に向かって歩いて行った。

「グラマラスキャットもトパーズも強い、今回は俺達の負けだ」

「うん…」

青葉は、錆びついた梯子を見つけて登り、地上に出た。外は既に真っ暗で、人はあまり居ない。

「まだ、頑張らなきゃね…」

「そういえば…、もうすぐ夏休みか」

千歳も青葉も、ぐったりとしていて、やる気も自信もなかった。


 その一方警察側では、ピンクジュエルとアクアマリンが突然消えたと騒ぎになっていたが、『失楽園のゴブレット』はグラマラスキャットの手に渡ったと知ると、二人を探すのを諦めて帰ってしまった。


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