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男子三人珍道中!

 そうして、この日がやって来た。青葉、健、和人、健が言う『いつメン』の仲良し三人トリオだ。今日は三人ともそれぞれのオシャレをしている。青葉は灰色のシャツに青いジャケット、ジーンズを着込んで、キャップを被っている。健は、白シャツに黒いベストと短パンを着て、首からはプレートネックレスを着けている。和人は柄物のシャツに、ヨレヨレのジーンズを合わせていた。

 三人は楽しそうに軽やかな足取りで泉ヶ丘遊園地に向かった。

 泉ヶ丘遊園地は建物が老朽化している部分があり、何度も閉園の噂を聞いた。ショッピングセンターの方は、青葉達が産まれてしばらく経った時に全面リニューアルして、建物ごと取り壊して、新しくしている。古そうな名前なのに、全面吹き抜けで、全体が綺麗なのはその為である。

 ところが、遊園地は小さな改修工事は何度かあったものの、全面改装される気配は無い。昭和風情漂う遊園地が珍しいからだろうか。青葉は、今の遊園地の雰囲気が好きだから、このままでいて欲しいと思っているが、そう上手く行くかどうかは分からない。

 三人は、遊園地に来て早速、シューティングゲームで遊ぶ事になった。そこは、この泉ヶ丘遊園地でも、最新鋭の技術が取り入れられた新しいアトラクションで、休日には、子供連れが多く行列に並ぶ。三人も、その中に並んだ。

「健、こういうゲーム好きなのか?」

「はい!久美とよく遊ぶっス!」 

三人の出番が来ると、健は慣れた手付きでガンを持った。

「このガンで敵をロックオンしてトリガーを引くっス!」

「おっと…、了解」

 メガネもかけず、画面らしきものも分からなかったが、目の前は廃墟のようになっていて、敵と思われるモンスターが次々と現れる。しかも、それは飛び出てるように見え、目の前に迫って居る事がすぐ分かった。

「これが最新鋭のVRか…、カッコいい!」

 青葉は拳銃を使った事はなかったが、シューティングゲームは得意な方で、先にやっていた健よりも、高得点を叩き出していた。現在、青葉が650点、健が420点、和人が290点である。

「青葉、上手いっス!」

「そうかな?」

「あのボスいけるんじゃない?」

和人は、岩の巨人を指差した。

「あいつ撃ったら高得点っスよ!」

青葉はガンのスコープを覗き、岩の巨人の胸に合わせてトリガーを引いた。岩の巨人は崩れ去り、青葉の点数は一気に跳ね上がり、780点になった。

「凄い!」

「流石、青葉、最高っしょ!」

青葉はガンを持ち直して二人を見た。すると、部屋が突然暗くなり、轟音と雷光と共に、黒竜が現れた。

「あいつを倒せば最後っス!三人で倒すっス!」

三人は一斉にガンを構え、黒竜を狙った。黒竜は飛び回り、狙いを定めるのは難しかったが、制限時間間際で倒す事が出来、三人はそれぞれ300点追加された。

「よっしゃあ!」

「ハイスコア達成っス!でも…、青葉には敵わなかった…」

「みんな頑張ったよ、お疲れ様」

三人は、シューティングゲームの部屋から出て、園内に戻った。

 三人は遊園地の東側に向かった。そこは、オープンカフェがあり、女子が好みそうなパステルカラーのアトラクションが並んでいる。健は、その中にあるコーヒーカップを指差した。

「あれ乗るっス!」

「え、あれ?」

 コーヒーカップはパステルカラーで、可愛いらしいデザインである。健は乗る気だが、二人は一瞬腰が引けた。

「あれ、乗るの…?」

「久美と、いつも乗ってるっス!」

「あれは久美ちゃんと乗るから楽しいのであって…」

「乗るっス乗るっス〜♪」

青葉と和人は、健に連れられてコーヒーカップに乗った。コーヒーカップは三人が乗るにはやや狭く、真ん中にはターンテーブルがあった。

「おっと…、コーヒーカップ乗るならこうしなきゃな!」

和人は、勢い良くターンテーブルを回した。すると、コーヒーカップは高速回転を始め、青葉と健は振り落とされそうになった。

「和人!やめるっス!」 

「遊園地はこうでなきゃな!アハハッ」 

和人は大笑いをしてターンテーブルを回し続ける。

「和人、意外とはっちゃけてるタイプ…?」

青葉は目を回しながら、和人の方を見つめた。


 三人がコーヒーカップが降りた時、丁度昼時だった。三人は、オープンカフェのテラス席に座った三人は、メニューを広げて考え込んだ。

「う、後ろ女子ばっかりだね」

青葉がチラッと後ろを見ると、携帯電話を手にした大学生や高校生らしい女子が大勢居る。このオープンカフェに、中学生男子トリオは場違いな気がした。

「何にする?」

すると、健はメニューの中からサンドイッチを指差した。

「このサンドイッチプレートなんてどうっスか?みんなで出し合ったらこれくらいいけると思うんっスけど…」

「おっ、良いね!」

サンドイッチプレートは1200円、一人400円ずつ出せば十分買える。

「飲み物は、個人で頼むっス〜」

メニューにある飲み物は、ホットは、コーヒー、紅茶、ココア、レモネードがあるが、今は冷たい飲み物の方がいい。アイスは、ホットのメニューに加えて、コーラ、アップルサイダー、ジンジャーエールといった炭酸飲料、アップルジュース、オレンジジュース、グレープジュースといった果汁飲料、烏龍茶もあった。その中から、青葉はアップルサイダーを、健はコーラを、和人はジンジャーエールを注文した。

「健、コーラなんか飲むんだね」

「お母さんと居る時は飲めないから、今日は特別っス!」

「そういや、普段飲まないよなぁ…」

「俺、瓶のコーラを見たことあるっスよ、久美と出掛けた時、一緒に飲んだっス!」

健は、メニューを置いて、二人に話した。

「その時は、二人で歩いてて、無茶苦茶疲れたっス、喉も滅茶苦茶渇いてて…、その時に、たまたま近くにあった古そうな酒屋さんで、キンキンに冷えた瓶のコーラが置かれてたっス!二人で飲んだそれが美味しくて…、忘れられないっス。その後もコーラ飲んだっスが、あれに勝る味は無かったっスね…」

健は、目の前に運ばれてきたグラスに入ったコーラに、口を付けた。

「俺達も普段ジュースなんて飲まないからな、一緒に飲もうぜ」

「あんまり飲むと、サンドイッチ食べられないぞ?」

青葉がそう言った時、三人の前にサンドイッチプレートが運ばれた。

「そう言ってたら、出て来たぞ?」

「おう、さっ、食べるか」

三人は、むしむしとサンドイッチを無言で食べ始めた。すると、和人が周囲とサンドイッチプレートを見て、こう言った。

「健ってそういう女子らしい趣味あるよな?女兄弟が居るからか?」

すると、青葉は首を振った。

「いやいやいや、俺だって千歳姉居るけど、全然そんなの無いし!」

そういう青葉が女装をして女警官アクアマリンになっている事は秘密だ。

「可愛らしいものって…、あまり見ないよなっ?」

「ま、まぁ…」

「二人とも、男らしさって…、女らしさって…、何スか?」

「えっ?」

青葉と和人は、お互いを見合わせ、考え込んだ。

「男らしさ…、男は泣くな、とか、カッコいいものが好きとかかな。女らしさ…、愛嬌が良くないと駄目とか、可愛らしいものが好きとか…」

「男の子だって、可愛いもの好きでも良いと思うし、女の子だって、カッコいいものに憧れても良いって、俺は思うっス」

健はそう言って、コーラを全部飲んだ。

「健は可愛らしいもの好きなのか?」

「俺、久美と毎週欠かさず『おまかせ☆魔女っ子ガール ミルキーバニラ』を応援してるっス!」

「ええっ?!」

二人は丸い目をして健を見つめた。

 『おまかせ☆魔女っ子ガール ミルキーバニラ』とは、いわゆる魔法少女モノのアニメだ。冴えない中学生の少女の白羽真帆が、魔法少女ミルキーバニラに変身して、世に蔓延る悪魔と戦うといった内容で、青葉達が幼い頃からやっていた。青葉は、千歳の影響で何度か見た事があったが、千歳が見なくなるのと同時に、青葉もいつの間にか見なくなっていた。

「まだやってたんだ、あのアニメ…、千歳姉の幼稚園の時の夢が、ミルキーバニラになりたい、だったような…」

「健がまさか見てるとは…、みんなにバレたらオタクと思われるぞ?」

すると、健は平然とした顔でこう答えた。

「別にオタクでも良いっス、好きなものを好きって誇れる、それって素敵な事だと思わないっスか?」

青葉と和人は、お互いを見合わせて考え込んだ。青葉は、今はすぐ近くにいない千歳の事を考えていた。

「(千歳姉、すっかり見なくなったけど、まだ憧れてたのかな…あのミルキーバニラに)」

千歳がピンクジュエルになるのは、幼い頃からあった変身願望からなのかも知れない、と青葉は思うのだった。

 


 三人はサンドイッチを食べ終わった。そして、遊園地の北側まで歩き、子供向けのアトラクションが並ぶ所までやって来た。そこには、メリーゴーラウンドやおもちゃの汽車があり、幼稚園やそれより幼い子供達が楽しそうに遊んでいた。

 幼い子が遊ぶ中に、三人と同い年と思われる少年が立っていた。それは、和人と同じクラスの誠だった。和人は、誠を見ると駆け寄り、話し掛けた。

「誠、どうしてこんな所に居るんだ?」

「和人こそ…、俺は遊びに来ただけだよ、トイレから帰ってきた時、たまたま涼平を見つけて、ほら」

誠が指差す先に、涼平が居た。涼平はどういう訳か、動き回るおもちゃの汽車をじっと見つめている。その目は、何処か悲しそうに見えた。

「話し掛けてないの?」

「ずっとあんな感じだからな」

「じゃあ、俺が話し掛けるっス!」

和人の後ろに居たはずの健は、すっと前に出て、涼平の横に立った。

「りょうへー!俺達と遊ばないっスか〜?」

すると、涼平は健を睨みつけ、視線で黙らせた。何かを感じた健は、驚き、慌てた顔をすると、落ち込んだ様子でトボトボと青葉達の元に戻ってきた。

「大丈夫か、健?」

「…弟、っス」

健は、涼平から離れてベンチに座った。健は、涼平に睨まれて怖がっている、というよりも、先程の涼平と同じように悲しそうな顔をしていた。


 健の事が心配になった青葉達は、健の横に座り、そっと見つめた。すると、健はポツポツと、こんな事を話しだした。

「りょうへーには、弟が居たっス…、港平って言って、久美の一つ年上だったっス…。」

「弟…、あの涼平にか?」

「俺は、りょうへーとも、こうへー君とも、仲良かったっス。だけどある時、こうへー君が、死んじゃったっス…、理由は分からない…、りょうへーも、そこだけ口を閉ざして教えてくれなかっス…」

健は、手を握り締め、泣きそうな顔でそう言った。

「人と出会って何かを得て、人と別れて何かを失うって言うけど、それは違うと思うっス。人と出会って失ったものや、人を失って何かを得る事だって、あるはずっス!俺はまだそれが何か分かってないっスけど…」

「健…」

青葉は、健を慰めようとしたが、言葉が上手く出てこない。


 すると、落ち込んでいる健にトコトコと、幼い少女が近づいてきた。少女は健にぎゅっとしがみつき、じっと顔を合わせた。

「久美…」

「お兄ちゃん…」

健は、久美の頭をそっと撫でた。久美は健とよく似た赤みがかった茶色の髪の毛を、ショートカットにして内側に巻いていた。服装は、襟付きのシャツに半ズボン、足元は黄緑のスニーカーにハイソックスといったものだった。

 久美は健の顔を見ると、安心したように笑った。

「久美…、この子が健の妹さんか?」

「あっ、和人は初めて見るっスか…、そうっスよ?」

青葉は、幼い頃から健と友達だったので、何回も久美に会い、遊んだ事があった。一方、和人は四年生の時に泉ヶ丘に引っ越して来たので、あまり会う機会が無かったのだ。

「青葉お兄ちゃん!と、この人は…?」

「俺は淵垣和人、健の友達だよ、よろしくね」

和人は笑顔で久美に挨拶をした。

「久美ちゃん、一人でここまで来たの?」

久美は首を横に振って後ろを見た。すると、久美よりも小さな女の子が駆けて来る。その子はなんと、ちえりだった。

「ちえりちゃんが、一緒に遊園地に行きたいって言ったの」

ちえりは青葉の顔を穴が開くほどにじっと見つめた。

「お兄ちゃん、誰かに似てる気がする」

青葉は思わずちえりから顔を背けた。

「気のせいだよ、きっと…」

青葉は、久美の方に顔を合わせた。

「久美、まさか二人で来たとか言わないっスよね?」

「うん、お父さんとお母さんも来てくれたから」

すると、二人の人物が健の前に現れた。二人の顔立ちは健と久美によく似ている。一方は男性で、白シャツに革のジャケットを着て、メタルのチェーンや指輪を至る所に着けている。だが、チャラチャラとした印象は無く、焦げた顔と少し残した髭で、ダンディーな雰囲気を感じた。もう一方は女性で、顔は白く、薄く化粧をしている。服装は、ワンピースにジャケットを合わせていた。

二人は健を見ると、似たような笑顔で笑った。

「お父さん?!お母さん?!」

二人は、健の父親の立花康之と、健の母親の律子だった。

「どうしてもここに居るっスか…、俺は、友達と遊びに来ただけっス!」

「健、ご両親の前でもその口調なんだな」

健は両親から目を背け、久美と手を繋いだ。

「たまたまよ…、まさか健も遊園地に居たとは思ってなかったから、ちょっと話し掛けただけよ」

健は、久美を連れて青葉達の所に近づいた。

「久美を連れて行って良いっスか?」

健は素っ気無い口調でそう言った。

「ああ、全然構わないけど…」

「俺達も付いて行っていいか?」

誠と涼平が何処からともなく現れて、青葉達に混じった。

「それじゃあ中学生軍団に付いて行っていきましょうか、ちえりちゃん、良いよね?」

ちえりはこくんと頷いた。

「な、なんでっスか?!」

「大勢の方が楽しいでしょ?」

「別に、いいっスのに…」

両親と一緒になって嫌なのか、健は急にしょげこんで、久美と一緒にゆっくりと歩いて行った。


 誠は、しばらく黙ってその様子を見ていたが、急にぽつりとこんな事を呟いた。

「俺、先輩を探してたんだった、なぁ和人、一緒に探してくれない?」

「えっ?」

和人は、突然話を振られて戸惑った。

「俺の野球部の先輩だよ、今卒業しちゃってるんだけどよ」

「俺サッカー部だから全然知らないのに…」

和人はハァッとため息を吐いて困った顔をした。


 そうして、大所帯で歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ?青葉?」

青葉が声のする方を見ると、そこには千歳と花恋とりんかの女子三人組がこちらを向いていた。

「千歳姉!」

千歳が、怪訝な顔で青葉の背後に居る人々を見つめた。

「何この大所帯…」

青葉は苦笑いを浮かべて、千歳を見つめた。

「元々三人で行ったはずなのに、いつの間にかこんな事になってな」

健は、嫌そうな顔で両親を見つめた。

「久美は分かるっス、だけど、何でうちのお父さんとお母さんが居るっスか?!」

健は久美の手を強く握った。

「久美がどうしても行きたいって言うから…」

「みんな、お待たせ!」

聞き覚えのある声と同時に、二人の人物がやって来た。一人は、千歳と仲が良い結菜だ。もう片方の、背の高く顔の整った男性は、青葉達は見た事がない。女子達は、その人は結菜の彼氏、いや、オトコと思って大騒ぎになった。

「あ!あのオトコですよ!」

「うわっ、ホントにオトコじゃないの…」

ところが、誠だけは何かに気づいたようにハッとなり、その人物に駆け寄った。

「まさか、あなたは…!」

誠はその人物に近寄り、深々とお辞儀をした。

「お久し振りです、祐一郎先輩」

「えっ?!」

祐一郎は口元を緩めて、誠を見た。

「妹と同じクラスなんだね、世話になってるよ」

「まさか…、結菜ちゃんのお兄さんっスか?!」

健は驚き、大声を上げた。

「比良祐一郎です、妹の結菜がお世話になってますね」

祐一郎はさっきの誠以上に、深々とお辞儀をした。

「あっ、よろしくお願いします…」

「なんか…、ごめんなさい」

「祐一郎君って、高校生球児の?」

「そうですね、今日は久々の休日なので、妹と遊びに来たんです。高校は寮に入っているので、中々帰れなくて…」

祐一郎はそう言って結菜を見つめた。

 それぞれ三人で休日の遊園地に行っていたが、いつの間にかこの大所帯になってしまった。あの男性の正体も分かった所で、続きはまた次回に話すとしよう。この後はさらなる波乱が待ち構えているかもしれない。

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