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女子三人珍道中!

 そうして、この日がやって来た。千歳はなけなしの小遣いを持って、花恋とりんかと泉ヶ丘遊園地に行く。今日の千歳の服は、ピンクの可愛らしいチュニックに、活動的なジーンズ、普段はピンクの紐で留めてある髪の毛も、今日はリボンで留める事にした。

 三人が行く泉ヶ丘遊園地とは、泉ヶ丘に昔からある遊園地で、泉ヶ丘ショッピングセンターの隣にあった。開園当初から動く観覧車、スリル満点のローラーコースター、子供向けの汽車やメリーゴーラウンドといったアトラクションが充実している。また、レトロな雰囲気のレストランや、新しく出来たオープンカフェ、お土産を買う売店などもあり、一日中居ても飽きない。

 もちろん、電車に乗って少し遠い所に行けば、今流行りのテーマパークに行ける。外ではなく屋内の遊園地やボーリング場、カラオケ店など、町を少し出れば、休日楽しめる場所は充実している。若者は、今となっては時代遅れの遊園地には興味がないはずなのだ。だが、この泉ヶ丘の人々は、何十年も前から町に根付いているこの泉ヶ丘遊園地と泉ヶ丘ショッピングセンターの事が好きで、大切に思っているのだ。この町に、新しくショッピングモールが出来る事も、遊戯施設が出来る事も無いのは、その為だ。

 泉ヶ丘ショッピングセンターと遊園地の人々は、開園当初から、ここをただのお金を稼ぐ所ではなく、泉ヶ丘の憩いの場にしたいと思い、大切にしている。



 三人も、泉ヶ丘遊園地とショッピングセンターが大好きで、ずっと大切にしている。だが、遊園地という楽しい所に行くはずなのに、二人の足取りはやけに重かった。

それは、『学校の厄神様』と銘打つトラブルメーカーの厄神りんかが居るからだ。学校でも色々やらかしてくれるのに、それが遊園地に行くというなら、何が起こるか分からない。

「せっかく仲良し三人トリオで行こうと思ったのに…」

花恋は、何かする前からぐったりとして、溜息を吐いた。

「結菜ちゃんは後から合流して来るって言ってたでしょ?元気出して」

「まぁ、そうだけど…」

「センパイ!あれ乗りましょ!」

 りんかが千歳の手を引っ張って、何かを指さした。りんかの指の先にはローラーコースターがあり、行列が出来ている。

「えっ…あれ?」

「乗りましょうよ!」

千歳と花恋は、りんかに半ば強引に連れられ、ローラーコースターの行列に並んだ。行列には、カップルと思われる男女や、小学生くらいと思われる子供を連れた親が並んでいる。三人は、仲良く並んで待った。ローラーコースターの席は十人乗りで、二周半して四分くらいで戻ってくる。

 意外にも、三人の出番はすぐにやって来て、三人は乗り込んでシートベルトを締めた。りんかは一番前の席に座り、千歳と花恋は並んでその後ろに座った。

「私、絶叫系苦手なんだよね…」

花恋のボヤキも全く気にせず、りんかは乗り気で、走る前から叫びそうだ。花恋と違って絶叫系は平気な千歳だが、あの厄神様と一緒に乗るのかと思うと急にヒヤヒヤしてきて、ローラーコースターから感じるスリルとはまた違うスリルを感じていた。

 そして、ローラーコースターはゴトゴトと動き出し、軋むような音を立てて加速しはじめた。観覧車と同じく、開園当初からある乗り物だ。当然老朽化も進んでいて、レールは若干錆びついている。何度も改修され、大切にされているが、これでよくこれで落ちないよなぁ、と千歳は乗る度に何度も思っていた。

 ローラーコースターが真上に上がった瞬間、遊園地全体が一望出来る。見上げないと見る事が出来ない観覧車も、今は真正面から見える。だが、それが見えるのはほんの一瞬だけで、すぐに真っ逆さまに落ちていく。りんかは二つのおさげを風に揺らして、後ろ姿だけ見ても、楽しい事が分かるくらい大声で笑っていた。一方、花恋はハンドルに捕まって目を閉じ、叫ばないように必死で歯を食い縛っていた。千歳は、そんな二人をジロジロ見ながら、せっかくだし叫ぼうかな、と思いながらも結局叫ばずに終わってしまった。


「あー、楽しかった!」

クタクタになっている二人の横で、りんかは背伸びをして笑っている。

「りんかちゃん、そういうの平気なんだね…」

「はい!」

花恋は近くにあったベンチに座り、木陰の中に入った。

「次は、あれ乗りましょうよ!」

りんかが次に指さしたのは、フリーフォールだった。

「私、絶叫マシン乗る為に遊園地行った訳じゃない…」

「じゃあ何で遊園地に行きたいって思ったんですか」

りんかは二人を置いて先に行ってしまう。 

「ま、待ってよりんかちゃん…」 

花恋は慌てて立ち上がり、りんかを追い掛けた。

「花恋ちゃん?!」

千歳は、二人を追い掛けて、フリーフォールの行列に並んだ。

 泉ヶ丘遊園地は、いわゆる子供向けのアトラクションと、絶叫マシンと呼ばれるアトラクションが両立している。休日になれば、どのアトラクションにも行列が出来た。

 フリーフォールにも、行列が出来ていたが、すぐに千歳達の番になった。

「うわぁ…、楽しみ」

りんかは居ても立ってもいられないと言う程ウズウズした様子だった。

「これ、あそこまで上がるんだよね…?」

花恋は、千歳の手をそっと引いて上を指差した。

「まぁ…、そうだよね」

千歳は真上を見上げて頷いた。

 そして、フリーフォールは一気に上昇を始めた。さっきのローラーコースター程高くはないが、頂上に上がるのはこっちの方が早い。景色を楽しむ暇もなく、下降を始めてまた上昇する。りんかは、この時も楽しそうに笑っていた。花恋は、なるべく叫びないようにと、目を閉じて歯を食い縛って、この瞬間が早く終わるようにと心の中で願っていた。さて、千歳はというと、ピンクジュエルの時に色々な所から落下した事があるので、落下に慣れていて、フリーフォールがちっとも怖くもなく、かと言って楽しくもない、と感じていた。  


 花恋はベンチで横になって、ぐったりとしていた。

「私がやりたかったのはこんなんじゃない…」

「花恋ちゃん、遊園地で何がやりたかったの?」

花恋はゆっくりと起き上がって千歳の顔を見た。

「分からないけど、これじゃない気がする」

「まぁ、それもこれも厄神様の思し召しって事ですな」 

「う〜ん…」

りんかは、そんな二人を見かねたのか見かねてないのか、こんな事を言った。

「私、トイレ行く序に…、何か買って来ましょうか?」

「うん…、缶ジュース一人一本お願い」

千歳と花恋は、りんかの財布に百円玉を一枚ずつ入れた。

「絶対に無くさないでよ?」

「分かりました!」

りんかは、走って目の前のトイレに駆け込み、出た後で自販機を探しに行った。

「だ、大丈夫かな…あの厄神様」

「まあね…」


 りんかは、財布をカバンの中に入れて遊園地を走った。自販機は園内の至る所にあるはずだが、どういう訳かりんかの周りには無く、売店の近くまで走って行った。そして、自販機を見つけると、りんかは適当に三つジュースを選び、カバンの中に入れた。 

「そういえば…、好み聞いてなかったな」

りんかが振り向いて二人の元に戻ろうとした時、目の前に見知った人物が居る事に気がついた。それは、同じ頃用事で遊園地に来ていた結菜だった。結菜はベージュのパーカーにショートパンツという格好をしている。

「あれ?比良先輩?センパイ〜!」

だが、りんかの声に結菜は反応しなかった。よく見ると、結菜の横には誰かが居る。その人は、結菜やりんかよりも背が高く、スポーツ刈りに紺色のジャケットを着ていた事から男性と思われる。結菜は、その男性と仲睦まじく喋っていて、離れた所に居るりんかの存在には気づいていなかった。 

 りんかは、凄いものを見たと思い、走って二人の所に戻った。ジュースを待ち侘びている二人は、りんかの姿を見ると、さっと手を出して来た。

「はい、ジュース頂戴、落としてないよね?」

「あっ、はい!」

りんかは、ジュースを三本取り出して、一本ずつ手渡した。千歳に渡ったのはアップルサイダー、花恋に渡ったのはピーチネクターで、どちらも同じ値段である。ちなみに、りんかは自分用にミルクティーを買っていた。

「ありがとう、りんかちゃん」

りんかはニコニコ笑って、ミルクティーの缶を持っていた。

「ふぅ…、疲れたね」

二人は同時に缶を開け、ジュースを口に含んだ。

「そういえば、比良先輩見ましたよ!」

「ああ…、遊園地には来てるって言ってたからね」

「先輩、オトコと一緒に居たんです、何がご存知ですか?」

 すると、千歳は目を真っ白にして、口に含んでいたサイダーをうっかり吹き出してしまった。それは、見事にりんかの顔に直撃し、りんかは顔も髪の毛も濡れてしまった。

「ゆ、結菜ちゃんが…、オトコとぉ〜?!」

「センパイ…、」

りんかは近くの水道で顔と髪の毛を洗い、更にびしょびしょに濡れてしまった。

「あっ、りんかちゃんごめん」

千歳は、そんなりんかを見かねて、汗ふき用の大きなタオルをりんかに手渡した。

「でも、あの結菜ちゃんに限って…ありえないよね?」

花恋がピーチネクターを飲みながらこう答えた。

「噂も無いし、私達も聞いてないしね?」

「でも、仲睦まじく喋ってましたよ?」

「結菜ちゃんの用事は…、オトコだったか〜…、何か驚き」

千歳は、残っていたサイダーを、一気に飲み干した。

「喋ってたらお腹空きましたね?レストラン行きませんか?」

「そうだね?何食べる?」

「あそこのホットドッグ美味しいんですよ!手頃な値段ですし」

「行ってみよう!」

三人は仲良く並んで、レストランまで向かった。


 レストランはレトロな雰囲気で、開園当初からある建物の中にあった。レストランというよりも、昔からある喫茶店のような感じで、気軽に立ち寄れるのが魅力だった。ここには、ハンバーグやオムライスといった洋食のメニュー以外に、手軽に食べられるホットドッグやポテトフライといった軽食も充実している。

 三人は、席に座って、ホットドッグを注文した。三人が居る席には窓があり、観覧車が見える。

「最近出来たオープンカフェも良いけど、このレストランは小さい頃、お母さんと一緒に行った思い出の場所だなぁ…」

「私も、お母さんと行きました」

千歳とりんかが何か懐かしむような顔をしているのを、花恋は不思議に思うような顔をして見ていた。

「そういえば…、りんかちゃんのお母さんって?」

「お母さんは今、シンガポールに単身赴任してるんですよ」

千歳は、りんかの父親が厄神警部である事は、青葉の話から知っていたが、母親については、何も知らなかった。

「寂しくない?」

「私は、平気ですよ」

りんかはそう言いながらも、どこか寂しそうな目をしていた。

「私も、お母さんに会ってないなぁ…、何処に居るんだろ」

千歳は、テーブルに頬杖について、遠くを眺めた。

「ねぇ、お母さんが居るって、どんな感じなの?」

花恋は、突然真剣な顔をして二人にそう聞いてきた。

「「えっ?」」

千歳とりんかは、お互いの顔を見て考えた。

「花恋ちゃん、クラスのお母さん的存在でしょ?そんな感じだよ」

「やっぱり、安心するの?お母さんが居ると」

「安心するよ、私も、りんかちゃんも今近くにお母さんが居ないけど。その存在だけでホッとした気分になるの」

「その気持ちが分かんない」

花恋は、水を一気に飲んで椅子に肘をかけた。

 そうこうしていると、三人の目の前にホットドッグが置かれた。ピクルスとザワークラウトではなく、カレー味のキャベツが挟まっている。ソーセージは、焼くのではなく茹でていて、ケチャップがかかっていた。三人は、口にカレー粉とケチャップが付くのを気にせず、齧り付き、美味しそうに食べた。

「うん、美味しい!」

「小遣いの範囲で食べられるんで、オススメですよ」

三人は、ホットドッグを食べ終わり、お金を払って店を出た。

 

 そして、園内に戻った。三人が何処に行こうか迷っていると、見覚えのある人が歩いているのを見かけた。

「あれ?青葉?」

「千歳姉!」

それは、青葉と健と和人と誠と涼平、それに、健の両親の康之と律子と、妹の久美と、何故かちえりまで居る。 

「何この大所帯…」

青葉は苦笑いを浮かべながら、千歳達を見た。

「元々三人で行ってたはずなのに、いつの間にかこんな事になってな」

「久美は分かるっス、だけど、何でうちのお父さんとお母さんが居るっスか?!」 

健は久美の手を引っ張ってこう言った。

「久美がどうしても行きたいって言うから…」

「みんな、お待たせ!」

 すると、聞き覚えがある声と同時に、結菜がみんなの所に現れた。隣には、背の高い男性が居る。

「あ!あのオトコですよ!」

「うわ…、ホントにオトコじゃないの…」

二人が呆然としている横で、誠は何かに気づいた声を上げた。

「まさか、あなたは…!」

誠はその男性に近寄り、深々とお辞儀をした。

 さて、三人で行ったはずの青葉は、何故こんな多くの人数と行動するようになったのか、結菜の用事と隣に居た人物は何者か、三人はどのような珍道中になっていたのか、この続きはまた次回以降にする事にしよう。

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