表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/44

あの麗人には、ちょっと気になる部分もあるけどな

 買い物を済ませて帰宅した俺は、リビングに入るなり指摘した。


「ただいま~。おまえさー、今朝は起こす時間を間違った――」


 ……しかし、指摘の途中で唖然とした。

 み、水着だっ。

 なんとセアラが水着姿にっ。


「今朝チェンジしたばかりなのに、また着替えたのか」

「そうですそうです、ある統計を参照したところ、誠司さんは多分、水着の方がお気に入りかと思いまして~」


 明るい声で両手を広げるセアラは、もちろん単なる3Dホログラフなのだが……こうして見ていると、このホログラフの向こうに人間がいる気がしてならない。

 まあ、有り得ないはずだけど。

 そんなことする意味がない上に、いくらかかるんだって話だよな。三十万じゃ採算なんかとれんわ。


 おまけに、俺の場合は懸賞に当たっただけで、ロハだし。




「と、統計って?」

「インタネーットの調査によると、年頃の男子千名に訊いたところ、女の子を見た時に一番注目するのは、顔ではなくて胸だそうです。次がかなり数が減るけど、お尻だとか……わたしも意外でした。顔だと思ってましたもの! セアラ、びっくり」

「あ、明るく言うなよ、おい」


 まあ、その統計はあんまり間違ってない気がするが、俺は先に顔を見るぞ、うん。


「誠司さぁん~」


 相変わらず、明るくて甘いトーン以外は、あの夕霧の声にめちゃくちゃ似ている。

 そのせいで、俺もたまにキョドる。


「な、なんだ?」

「統計から考えるなら、本当は裸の方がいいですか?」


 控えめな声で訊いた後、じぃいいいっと俺を見る。

 単なるホログラフなのに、視線が痛い。


「実はわたし、十五歳のバスト86センチで、まだ成長期なんですが――み、見たいです?」


 水着越しとはいえ、胸を両手で持ち上げようとしたので、俺は慌てて止めた。


「やめいっ」


 だいたいそれ、本来の4分の1だろっ。

 あと、なにが成長期じゃ。年齢も嘘設定だし。


「そりゃ嬉しくないとは言わんが、そういうの落ち着かないから。普通に普段着で頼む。俺は着替えてくるから」


 AI相手に馬鹿かと思うが、逃げるようにリビングを出た。





 わざとゆっくり着替えて戻ると、心底ほっとしたことに、セアラはノースリーブのシャツとショートパンツに着替えていた。


 よかったよかった。


「……ちなみにこっそり訊くけど、他のサイズは?」

「えー、やっぱり気になるんじゃないですかー。86、55、85です! 普通の女の子が聞いたら、絶対嘘サイズだって言われそうですね。きゃはっ」

「なにが『きゃはっ』だか。……あー、あの人もこれくらい話しやすいといいんだがな」



「……あの人って誰です?」



「うっ」


 いきなり夕霧碧その人のダウナーな声そのものになり、俺はぞっとした。

 そっと顔を上げたけど、もちろん円筒形のガラスケースの中には、セアラがいるだけだ。ただし、なんか睨んでいるように見えるが。


「俺の後ろに座るクラスメイトだよ。そういやおまえ、よくクラスメイトのこと訊くけど」

「わあ、後ろに座る人ですか……せ、誠司さん、実はちょ……ちょっと気になったりします?」


 いきなり声の調子が戻った。


「なんでそこで妙に口ごもるんだ、おまえ」


 俺は眉をひそめた。

 なんだかこいつ、本当にAIかと思うような反応見せるよな。


「いいから、教えてくださいよー。ねえねえねえっ」


 ガラスケースを小さな拳で叩いて、「教えろアピール」などする。ホログラフとはいえ、可愛くてたまらん。

 当たってよかったなあと思う瞬間である。


「うちのクラスの男子は、みんな気になってんじゃない?」


 とりあえず、生意気な中坊妹に教えたのと、同じ返事をしてやった。


「ただ……あの麗人には、ちょっと気になる部分もあるけどな」


 呟いた後で、返事がないので見ると、なぜかセアラはケースの中で固まっていた。ガラスケースを叩く途中のまま。


「おい、聞いてる? フリーズすんな」

「き、聞いてますとも。なにが気になるんです?」

「それは――」


 言いかけて俺は首を振った。


「いや、なんでもない。AI相手とはいえ、悪口に聞こえるかもしれないしな」


 あまり話したこともないけど、少なくとも今日の夕霧は俺に優しかった。

 お陰で自制心が働き、俺は話題を打ち切った。


 セアラは不満そうだったけど、やっぱ陰口みたいなもんだしな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ