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運命の電話

 ただ、俺がどう思おうと、その日から毎日弁当作ってきて、昼休みに俺と一緒に教室を出て行くのだから、そりゃ普通にみんなにバレる。


 友人の吉岡が真っ先に気付いて「おい、あれはなにかのサービスなのか?」と真剣に訊いてきたほどだ。


「あれが有料サービスなら、俺もお願いしたい……並んで食えるなら、二千円までなら出す」

「……そういうのじゃない。ただ好意で作って来てくれてるだけだ」

「うそつけー」


 即座に罵倒しやがったが、しかし翌日もさらに翌々日も同じことが繰り返されると、さすがの吉岡も信じたらしかった。


 というか、週の半ばに来ると、もはや俺はほぼ校内中で、「高嶺の花のハートを射止めたらしい」という噂の的になっていて、そういうことで騒がれたことのない俺は、いたく気を遣った。「なんであいつだよっ」とか言われるのは、別に平気なんだけどな。


 その疑問は、もっともだし。


 しかし俺はともかく、夕霧が気まずいのではないかと。

 そこで気分を変えて屋上で並んで食べている時、俺は豪華中華料理のお礼と同時に、「ふいに噂が広まっちまって、悪いな」とそれとなく謝ったりしてな。


 ……謝るという発想自体が、もしかしたら非モテの証拠なのかもしれんが。


 対して、夕霧は堂々たるものだった。

 俺が発言した途端、その場で箸を置き、わざわざ俺の方を向いて言ってくれた。



「わたしは、もうずっと以前から、誠司さんとこうしてお付き合いすることを夢見ていたんです。だからこうして夢が叶いつつある以上、周囲がどう思おうと、気にしたりしませんし、むしろ堂々と公言したいほどですわ」



 いや、そこまできっぱりはっきり言われると、俺の方が恐縮した。


「そうか……全然釣り合わないと思っていたけど、夕霧がそこまで言ってくれるなら、俺もつまらない心配はしないことにする」

「そうですとも! それより、週末にはデートしましょうね」

「お、おお」


 ……手を握られながら言われると、なんだか焦るな。

 俺はしげしげと夕霧を見つめてしまう。

 ここまで好意的だと、過去によほどのことがあったんじゃないかと思ってしまうわけで。


「どうかしましたか?」

「いや、夕霧があまりに優しいから、過去に一体、なにがあったんだろうと」

「わたしがこの世界に迷い込んで、最初にお話ししたのが、誠司さんだったんです……詳しいことは、どうせすぐに思い出すでしょう」


 夕霧はそう断言して、優しい微笑を広げた。





 そんなわけで、俺は週末が近づくと、どこに夕霧を連れ行くかでかなり悩んでいたのだが、あいにく、進展があったのは夕霧の仲だけじゃなく、例の殺人犯の方も同じだった。

 その日、俺が帰宅すると同時にスマホが鳴り、特に警戒心なく出てみたら、聞き覚えのある声がした。


『君も、どうしどうして、なかなか頑固な人だな』


 俺と同年代くらいの男の声だったが、俺には絶対にない、深沈とした声音だった。無論、俺はこの声を覚えている。前に結界とやらの中で警告してきた二人組の――男の方だっ。


「あんた、あの時のっ」

『そう……君は気付いていないかもしれないが、君達の行動は割と僕らに筒抜けでね。もしかして君は、僕らが殺人犯と共謀していると思っている?』

「そんなのわかるもんか」


 俺は正直に答えた。


「俺はただ、人をバラバラにした犯人とやらが、好き放題やるのがむかつくだけだ」

『なるほど、僕の仲間を尾行したりするのは、犯人へのヒント探しだと?』


 落ち着いた声が問いかけ、俺は内心で「バレてたのか、ちくしょうっ」と臍をかんだ。


「犯人を突き止めたいとは思ってるさ……どうせ、人外の誰かだろうけど」


 今更トボけてもしょうがないので、俺は開き直って肯定してやった。


『ふむ? 僕らは確かに大所帯になりつつが、しかし問題の犯罪者は、僕らの手にも余る困り者でね。別に信じてくれなくてもいいが、僕らが彼の犯罪に関わっているわけじゃない。むしろ、規律を乱すので、始末したいと思っている』


 あまりにもきっぱりした言い方に呆れていると、こいつは続けて言った。


『もしも君が、彼の暴挙を止めたいというのなら、やっと突き止めた居場所を教えてあげよう。それでどうかな? 納得してもらえるかい?』

「納得っていうのは、これ以上は嗅ぎ回るなってことか?」

『そうとも。君らが僕らの仲間になるならともかく、どうもそういう気はなさそうだし。かといって、僕に言わせれば、現状じゃ殺すほど問題があるわけじゃない。信じる信じないは勝手だけど、やたらと人を殺すのはデメリットしかないからね』

「仲間って……なにをしているかわからないのに、仲間も何も」


『僕らは将来、ヴァンパイアの国を作るつもりだ』


 そいつはいきなり爆弾を落とした。

 俺が息を呑んでいると、向こうは勝手に続けた。


『仲間に人間以外の子達もいるようだし、君も今からでも考えておいてくれ。もし本当に仲間になるなら――』


 とそこで間を置き、そいつは笑みを含む声で言った。


『……僕らは将来、殺し合わずに済む。じゃあ、情報は君のアパートのポストに入れたからね』

「あ、おいっ」


 慌てて呼んだが、もはやスマホは切れていた。



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