人生オワタ\(^o^)/
授業が始まった後も、俺の異変は継続中らしい。
授業中、なぜか微かな呻き声が聞こえるのだ。
……そう、後ろの席から!
言うまでもなく、後ろの席というと、氷像美女の夕霧碧が座る席である。俺にしか聞こえないような低い声なので、今のところ騒ぐ奴はいないが。
ついでに言うと、この子の声、よくよく聞くと、セアラの声に似ている。セアラの声から陽気さを取ると、まんま夕霧になるような。
あまりに気になるので、一度だけ、思い切って振り返った。
先生が教科書読んでる隙に。
直前で、なにか微かな風を感じたが、夕霧碧は当たり前のような顔で俺を見た……いつもの背筋伸びた姿勢で。
「……なにか?」
なぜか少し赤い目で、俺を見つめる。
「いや、別にっ」
こっちが慌てて正面を向く羽目になり、なおかつ友人の吉岡に「先生、水原誠司君が、夕霧さんにぼおっとなってます!」と大声でチクられた。
当然のように、どっとクラス中が湧いた。
くそっ……ついてない時はトコトンついてないわー。
頬が熱くなった俺は、二度と振り向くまいと誓ったさ、ああ。
幸い、それ以上のことは起きず、むしろ昼休みの食堂で、夕霧自身から「授業中に巻き込んで、ごめんなさい」と丁寧に頭を下げられた。
食堂内には他に席もあろうに、わざわざ俺が座る隣へ来てだぜ?
「いや、俺がいきなり振り向くから」
別に本人は悪くないのに、謝ってもらえたことで、俺のテンションは簡単に回復した。
我ながら単純である。
そのせいか、調子に乗って余計なことまで訊いてしまった。
なにしろ、そのまま隣へ座ってくれたし、ふんわりとリンスの香り? とかしたし。
隣同士で昼飯食うなんてこと、めったにないしな。俺は素うどんで、彼女はステーキランチだけど。
値段差が三倍ある……なにこの、ステータスの差。
「あのさ」
気にしないことにして、俺は小さい声で言う。
「なんでしょう?」
気のせいでなければ、ずいぶんと嬉しそうな声に聞こえた。
「俺の勘違いに決まっているけど……なぜか授業中に悲しんでいるような……そんな声が聞こえたんだけど」
あの呻き声は、そんな表現では足りんが、まあヤワくそう説明した。
「なにか悩みでも? 話聞くくらいなら――て、ちょっと」
途中でぽろっと涙をこぼした夕霧を見て、俺は泡を食った。
いつも超クールな氷像美女がっ。
なに泣いてんですかっとまた声をかけそうになったが、その瞬間、夕霧は至近から俺の顔を見て、はっきりと言った。
ヤバいほど潤んだ瞳で。
「貴方を見ていると……とても胸が苦しいわ……本当に、いつもいつも」
「え、ええと……」
いや……ちょっと、意味がわかりません。
そのまま夕霧が席を立ってしまったので、俺は彼女が残したステーキランチを見つめる羽目になった。
残りをもらったら、さすがにまずいだろうな。
「それはおまえ、嫌われてるね」
誰とはいわず、ただの一例として夕霧の発言を教えると、チャラけた友人の吉岡は、やけにきっぱりと言った。
「いや……だけど、逆の可能性もないか?」
昼休みも終わりに近づいているが、俺はしぶとく粘る。
まだ夕霧は教室に戻ってこないしな。
「セリフ的に、可能性はあるだろ?」
「そりゃ相手がイケメンならあるだろうけど、どんな女か知らんが、おまえの場合はない」
やたらと確信ありげに言いやがる。
「それはだな、本当はこういう意味なんだぜ」
わざわざ数学のノートを出して、さらさらと書いてくれた。
「あんたを見てるとさぁw もうホント、絶望的な気分になって(꒪ཀ꒪)、いつもいつも呼吸が速まるわー、人生オワタ\(^o^)/」
俺が思いっきり顔をしかめると、「なっ?」とか笑顔で言いやがる。
「違うわっ。あと、気色悪い顔文字使うなっ」
デカい声で非難した途端、ちょうど夕霧……さんが戻ってきて、ちらっと見られた。さすがに、吉岡がノート閉じるのは、間に合ったけど。
今日はとことん、ついてないな。