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血液、高額買い取り



○――夕霧美樹の日記――○



六月某日(土曜日)


ついにこの日が来た。

いや、別に嬉しいことじゃなくて、どうやら鈍くさい誠司君が、セアラにあたしが古着とおねいちゃんのパンツを等価交換しようとしたことを、うっかり話してしまったらしい。


当然、それはおねいちゃんに知られるのと同じわけで。


夜、ベッドに寝転がって推しアイドルのライブを見ていたところへ、おねいちゃんが目を三角にして飛び込んできて、散々絞られた。


「そんな汚れ物を誠司さんの大事な古着と交換しようとは、なにごとですかっ」


と叱られたわ……。

やめときゃいいのに、あたしは「でもあいつ、ちょっと迷ってたよっ」とうっかり言い返したら、「あいつって呼ばない!」などと言いがかりを付けられた挙げ句、疑似プロレス的な技をかけられ、死ぬほど痛い目に遭ったわよ……どうせ勝てないんだから、余計な口答えしなきゃよかった。


でも、最後にお小遣い一万円くれた後、「もっと良い案を考えなさい」とか言われたりして。


全然諦めてないわけよね? もうむっとして「そういういのは、おねいちゃんが直接、『心のよりどころにしたいのですっ』とか、フカシ入れて頼むが一番じゃない?」と言ってあげたら、「フカシじゃありませんっ」とまた怒られたし。


なんなのもう、このめんどくさい姉。こういう人を姉に持つと、苦労するわー。


でも……差し引き一万円もらったわけだから、いいんだけどね。

……ふと思ったけど、バレずにおねいちゃんの寝姿とか入浴姿とか撮影できたら、誠司君が買い取ってくれたりしないかなぁ? 


でもあの人、ボンビーそうだから無理か。


○――――○




 夕霧は、俺との約束を守ってくれたらしい。

 というのも、日曜の夕方にもまたうちにきて、「倉庫の中身、お約束通り、借りた一軒家に移しました」と教えてくれたからだ。


「今度は地下室ですし、もうなかなか嗅ぎつかれることもないかと」


 そうも言った。

 なにもわざわざうちに来て報告しないでも、電話でいいと思うんだが、彼女曰く、「今日のご質問もありますから」ということらしい。


 律儀な子だなぁと思いつつ、この質問一つのイベントは、俺にとっても有り難いかもしれない。別に気まずい思いしなくても、訊きたいことを訊けるからな。

 またキッチンに上がってもらって、紅茶を勧めたら、「本日は誠司さんからどうぞ」と早速言われた。

 ……さすがに少し緊張したけど、俺は思いきって持ちかけてみた。


「あのさ、なんなら俺が血を提供するけど」


 て……おお、紅茶飲みかけのまま、セアラそっくりに固まったぞ。


「いや、妙なことを言うかもだけど、そういうのは提供者がいれば、次にどっかから無理に入手することもないだろうなぁと。俺、多少抜かれるくらい気にしないし」


 というか、なんなら別に、ガッツリ牙を立てて抜いてもらったって、多少は我慢できる自信がある。使徒化してしまうという難問さえ、クリアできるなら。


 あと、俺とデートしてくれるそうだから、そのくらいの礼はしたい気分なのだ。

 最後だけ伏せて、後は正直に思うところを説明すると、夕霧は一転して潤んだ瞳で俺を見た。


「わたしのために……嬉しゅうございます。買い取りしたいほどです」


 完全に本気の目つきだったので、俺も冗談のつもりで言ってみた。


「買い取りだと、いくら?」

「一回分、百万円程度では、どうでしょう?」

「――っ! たかっ」


 俺は誘惑に負ける前に、慌てて首を振った。


「いや、大昔じゃあるまいし、売る気はない。ただ、使徒化しちゃったら、さすがに困るけど」

「おそらく、誠司さんが相手だと、わたしが咬んでもそうはなりますまい」


 夕霧はなぜか頬を染めて俺を見た……え、今の会話に、なにか萌える部分なんかあったか?


「それは……またどうして?」

「わたしの世界では――いえ、大半のヴァンパイアが同じでしょうけど、とにかくわたしが育った世界では、ヴァンパイアが人間を愛すると、もはやその人には能力がほぼ無効となるのです」

「それは……本当に?」


 いろんな意味で疑問だったので尋ねたが、さすがに俺の声も掠れていた。


「本当でございます……既に能力が効かないのを実感しましたから。わたしは幼少時に一度、誠司さんにお会いしていますが、その記憶もそのうち戻ることでしょう」


 おずおずと言われ、そういや俺は「あの金髪夕霧には、見覚えがある」と考えたことを、思い出した。


「ただ……使徒化はしませんが、ヴァンパイアの力は我が物にすることができるかと」


 こちらを窺うように訊かれたが、いや俺は別にヴァンパイアになりたいという気でいるわけじゃない。

 だから、「とりあえず今は、素直に皮膚に傷でもつける方法で」と答えておいた。


 咬まずとも、飲めればいいだろうからな。


 ちなみに夕霧の質問の方は、実は恐ろしく遠回しなお願いで、単純に「俺の古着が欲しい」とのこと。



 ……あの中坊妹が持ちかけた話、本気だったのか!


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