秘密を守らない妹
ちなみに、「そういや涼子は、なんでこの件に関わるんだ?」と俺が訊いたところ、「だって、迷い込んできたあたしみたいな異世界人が、こっそり人殺ししまくりとか、嫌じゃない? 関係ないのに、自分も同類とか見られたら最悪だもの」と即答してくれた。
「だから、新聞であのバラバラ事件見つけた時から、嫌だったのよ。なんとかして、どうにかできないかなと思ったし」
「なるほど……さすがにそんな簡単に異世界人がどうのなんて広まらないと思うけど……気持ちはわかるかもなあ」
「でしょ? それに、最近やたらとヴァンパイアが増えてるのも、妙なのよねぇ」
「……夕霧のことか?」
「違う違うっ」
俺がやや眉をひそめたせいか、涼子は慌てて手を振った。
「彼女は使徒じゃなくて、元からヴァンパイアじゃない? しかも、こっちに迷い込んだのは、だいぶ前みたいだし。そうじゃなくて、あたしが言うのは、おそらく『誰かに使徒にされた?』と思うようなヴァンパイアのこと。最近、なぜかじわじわ増えているみたいなのよ」
「それは……匂いでわかる?」
「そ! あたしの嗅覚、多分ホモ・モンストローズの中でも、トップクラスだろうから、否応なく町中で増えていくのがわかっちゃって」
涼子は顔をしかめていた。
「このペースからして、迷い込んだとかそんな理由じゃない気がする。誰かが意図的に増やしているかもしれない」
「う~ん……まあ、俺が見た二人も、ヴァンパイアかもだしな。しかも、使徒じゃなくてアレは本物だろうし」
「というわけで」
唐突に涼子はベンチを立った。
「あたし、あの倉庫を見張っているメンツを、徹底的に調べて見るわ。別に見張ってるのは石田って人だけじゃないだろうし」
「そうか……わかった」
倉庫の中身はもうすぐ魔法じみた方法で夕霧が移す予定なんだが、俺はあえて黙っていた。
涼子は信じているけど、壁に耳ありって言うもんな。
簡単にペラペラしゃべっていいことじゃないだろう。
「なにか手伝えることがあったら、俺も喜んで協力するよ。いつでも連絡してくれ」
「ありがとう!」
なぜか涼子が片手を上げたので、初めての経験だったが、ハイタッチなどしてしまった。
……それで、いろいろ考えながら歩いていたら、なぜかアパート近くの信号で、中坊妹が仁王立ちしているという。
もちろん、夕霧の妹の美樹? とにかくあいつだ。
さすがにセーラー服じゃなくて、生意気にも短いレザーパンツとノースリーブのシャツだけど。
「お……奇遇だな?」
「んなわけ、ないでしょっ」
いつものことながら、こいつは素晴らしく愛想が悪かった。
「立ち話いやだから、どっか座るトコない?」
そう言われ、俺はお望み通り、また元の公園に戻った。
一番近いし、自動販売機あるしな。
「なにか飲むか?」
「モンスタードリンク」
「……児童公園に、んなのない!」
「じゃあ、コーヒーでいいわよ……もうっ」
俺のせいかよっと思いつつ、また缶コーヒーを二つ買い、一つを渡してやった。奇しくも、さっき涼子が座っていたのと、同じ並び方で座る羽目に。
「夕霧なら、さっきまでうちに来てたぞ」
「知ってる。……お陰であたしが頼まれたんだから」
「またかよ! 今度はなんだ?」
「水原君が悪いんだからねっ」
呼吸をするように罵倒した後、中坊はようやく教えてくれた。
「おねいちゃんが言うには、『あなたがたまたま、二人でいるのを見かけたことにして、誠司さんがどうしてあのジーンズの女とよく一緒にいるのか、訊いて来て。もちろん、自分がちょっと気になったことにして』だってさ」
「……おまえそれ、そのままストレートに細部まで言っちまっていいのか?」
いつもながら隠そうとしない中坊に呆れたが、こいつは鼻息も荒く言ってのけた。
「そもそも、最初から無理でしょ! あたしがたまたまジーンズ女と一緒の水原君を見たことにして~って、設定からして有り得ないしっ。だいたいあたし、水原君とその人が一緒にいたの見たって、気にもとめないしっ」
「まあ……そりゃなあ」
だからといって、ぶっちゃけなくても。
ホントに内緒話に向かない奴。
「でもそれ、無償で頼まれたんじゃないだろ? おまえがロハで動くとは思えん」
俺が試しに問うと、中坊はてきめんに押し黙った。
「黙っててやるから、いくらもらったかゆってみ?」
「……五千円」
驚くべきことに、しれっと言いやがった。
そんな簡単にもらえるなら、俺が欲しいぞっ。
「最初一万って言ったけど、おニューの服を狙ってるのバレてたせいか、足下見られたわ……ああもう、むかつくっ」
座りながらバタバタ足踏みしていたが……俺に言わせれば、おまえの方にビビるわ。
なんか高そうなレザーパンツ穿いてると思ったら、さては夕霧にもらった金が原資だな、おい。




