デート計画と、ますます不気味なあの二人組
なぜか感激した金髪少女(夕霧)に着替えてもらうのに手間取ったが、無事に夕霧の姿に戻った後は、二人でかなり長い間、雑談していた。
夕霧はもう自分の最大の秘密を打ち明けたと思っているせいか、以前より遙かに俺に打ち解けていた……気がする。
俺としては、一人で尾行中の涼子のことが気になっていたんだが。
理由があったとはいえ、一人だけ帰宅したからな。
ただ、俺だって夕霧と話すのは決して嫌じゃない。
だからついつい長話して、「デートするなら、どこへ行きたい?」とか、それとなく訊いたりした。
これにはある意味で悩む、「二人でいられるなら、どこでも幸せです」との返事をもらい、余計に困惑することになったが。
まあでも、驚くほど長話したものの、さすがに「なんならお夕飯の支度も、わたしがしましょうか」などと言われたのは、なんとか辞退した。
ただ、夕方に帰る間際、俺が「夕霧ってどこで料理覚えたんだ?」と尋ねると、これがまた「誠司さんにいつかご馳走できるように、料理教室に通ったことがあるのです」と言われて、絶句したりして。
その時はあえて訊かなかったけれど、どうも彼女は、俺を以前から知っていたらしい。
どういや俺も、真の姿とやらを見て、ちょっと見覚えがある気がするのだ。
あんな金髪少女に過去に出会っていたら、絶対忘れないだろうにな……これも、今度一日一回の質問で、確かめる必要があるだろう。
そして、夕霧を送り出した直後、涼子からスマホに電話があった。
『もう帰ったようね?』
「なんだ、気付いてたのか……そう、今ちょうど連絡しようと思ってたんだ」
『あたしも報告があるので、じりじりしてたのよ。悪いけど、またあの公園まで来てくれない?』
「わかった。すぐ行く!」
当然俺は、急いでアパートを出た。
涼子は朝に待ち合わせた公園の、同じベンチに座っていて、相変わらず元気一杯の様子だった。
「尾行は成功ってこと?」
以前奢ってもらったのを思いだし、俺は自動販売機で二人分の缶コーヒーを買い、一つを彼女に渡した。
「どうもどうも」
即座にプルトップを開け、美味しそうに一口飲んだ後、彼女はいきなり爆弾発言した。
「尾行したあいつ、警察関係者だったわ」
「……マジでっ?」
俺の方は、プルトップ開けたまま、固まっちまったじゃないか。
「偽とかじゃなくて、本物の?」
「そう本物の。階級は警部補だし、警察官としても、下っ端じゃないわねぇ。名前は石田ナントカさん?」
パスケース型の身分証明書を擦って、中を見てから即返したらしい。
「多分感づかれてないと思うけど……意外なことが一つ……そばによってわかったけど、石田さんはもう、人間辞めてるみたい」
「じゃ、じゃあ……見張っていたのは、警察の職務じゃない?」
「どんな事件だろうと、普通は警部補が一人で見張らないでしょう? 多分、水原君が見た二人組の仲間じゃない? 匂いだけじゃ、ヴァンパイアと使徒との違いはわかりにくいけど、石田さんが首魁なら、見張りなんてしてないわよねぇ」
「いや……本当にその人からヴァンパイアの匂いがしたなら、多分その石田って人が使徒で、あの二人組は、彼の上に立つ方だ」
なぜか俺は、そこだけは断言できた。
俺は少年の方と少し話しただけだが、あいつはどうも、人に顎で使われるような奴じゃないように思える。
「なんというか……あいつは普通人とは決定的に違うと思う。石田って人の社会的な身分がどうであろうと、見張ってたのは多分、あの二人のどっちかの指示だと思うぞ」
「そういえば、帰る途中も嫌そうな顔してたかも。でも……水原君はその二人をそこまでとんでもない相手だと思ってるのね。じゃあ、石田さんに命令を下す側なら、その二人こそが本物のヴァンパイアってこと? 夕霧さんのように」
俺は思わず涼子を見た。
「やっぱり、匂いでわかる?」
「うん。あえて言わなかったけど、もう水原君も、本人に聞いたでしょうから」
「そりゃまあ……ていうか、涼子はヴァンパイアじゃないんだよな?」
こそっと尋ねてみたが、微笑して首を振られた。
「そのうち、あたしの真の姿をお見せしましょう! かっこいいのよっ」
「はいはい」
俺はわざと軽く受け流し、夕暮れの空を仰いだ。
「しかし……調べれば調べるほど、相手は手に余る存在らしいってわかるな。これで、バラバラ殺人事件にも関わってたなんてわかったら、目も当てられない」
「でも、もし本当に犯人がその子達なら、もちろん放置しないんでしょう?」
なぜか愉快そうに尋ねる涼子である。
「見て見ぬ振りができることと、できないことがあるだろ?」
俺は不機嫌に呟いた。
夕霧の安全が確保できれば、後はどうでもいい……そんなわけにもいかないじゃないか。




